長谷川陽平という男はご存知でしょうか。
俳優の竜雷太の息子なのですが、韓国音楽シーンを塗り替えたロック・バンド、チャン・ギハと顔たちの、プロデューサー兼ギタリストとして現在、活躍しています。
そして、その長谷川陽平の半生を記録した本が今、とても話題になっています。『大韓ロック探訪記』です。
音楽好きだった東京生まれの長谷川が、大学受験に失敗して、渋谷や新宿のレコード店に勤めながらバンドをするところから物語は始まります。時代は90年前後。日本はバンドブームで東京にはそんな長谷川のような「音楽で食べていきたい若者」がたくさんいた時代です。
そして長谷川は、世界中のロックが大好きな青年になり、韓国の昔のロックがすごく面白いことを知ります。そして94年に初めて、「韓国の古いロックの中古レコードを買うために」ソウルに向かいます。
90年代の韓国は、まだ突然の攻撃から非難する訓練のためにサイレンがなって、地下の退避所に逃げ込んだりしている時代です。
そんなソウルの中古レコード店を周り、幻のレア盤を集めながら、ずぶずぶと韓国の古いロックを掘り下げていきます。そう、ちょうど時代は全世界のDJ達が「過去の優れた音源」を「DIG」し、レア音源として再生産していた時代に長谷川は韓国の古い音源を「DIG」していたわけです。
そんな長谷川は必然的に、韓国の古いロックをカヴァーするバンドを結成し、なんとそのバンドが韓国本国で演奏することになります。
しかし、時代はまだ90年代半ば。98年に金大中大統領が「日本の文化第一次解放」をするまで、日本人が韓国国内で演奏するには政府の許可が必要でした。
そして、予定されていた演奏は中止となり、「なぜ、日本人が韓国音楽を好きで演奏するのを中止させなければならないのか?」と革新系の新聞が取り上げ、長谷川たちは韓国中の話題の日本人となります。
その後、長谷川は韓国の伝説のバンドに加入したり、韓国で200万人を動員した大ヒット映画「死生決断」のサントラを担当したりと、韓国の音楽業界の階段をひとつづつ上がっていきます。
そして、現在はチャン・ギハと顔たちという韓国で大人気のロックバンドのプロデューサー兼ギタリストとして活躍し、韓国のテレビの大人気のバラエティ番組にも出演してお茶の間の人気者にもなっています。
もちろん、長谷川は「日本人なんて大嫌いだ」という韓国人に何度も出会うわけなのですが、その時のやりとりが韓国人ならではの「情」にあふれていて、もう本当に笑って泣ける話が満載です。
この本、もちろん海外にレコードを買い付けに行ったりする人の「レコード探訪記」としても楽しめるし、ある日本人の青年が韓国という異文化にのめり込んでいく「日本と韓国の新しい物語」としても楽しめるのですが、僕としては「俺、このまんま日本の底辺でいて、この先どうなっちゃうんだろう」って悩んでいるような若者に読んでほしいなあと思いました。
是非、手に取ってみて「日本と韓国の新しい物語」、そして「ある若者が異文化に憧れ、その土地で成功していく物語」に触れてみてください。