「異性を好きになれない私は、悲しい人間」そう思っていた(シリーズ:隣人たち)

「私は人を好きになれない」。大学生のころまでそう思っていました。

性的少数者(LGBT)のカップルを公的に認める「パートナーシップ制度」が6月、札幌市で始まる。全国各地の自治体でも同様の仕組みがつくられ、LGBTへの理解や支援が広がっている。「13人に1人」とされるLGBT。制度開始を前に、私たちのすぐそばにいる「隣人」たちの素顔を紹介する。

●NPO法人代表・工藤久美子さん(42)=札幌市中央区

なじみの焼き鳥店から顔を出す工藤久美子さん=札幌市中央区

「私は人を好きになれない」。大学生のころまでそう思っていました。この世には異性愛しかなく、異性を好きになれない私は人を好きになれない悲しい人間なんだ。それなら一人で生きていこうと考えていました。

友達が恋人を作る中、私は本や映画に走りました。そこでレズビアンの人たちの体験談が書かれた雑誌に出会い、今までにない強い興味を持ちました。

ですが当時のバラエティー番組でゲイやレズビアンは「キモくて笑われる人」という扱い。自分がレズビアンだと認めることは、「キモい」「ダメ」ということになると思っていました。

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でも「本物」のレズビアンに会ってみたいという思いから、雑誌で見つけた札幌のボランティアグループに参加したんです。そこには女性として女性とお付き合いしている人が何人もいました。やっと「女として女の人を好きでいいんだ。この人たちがレズビアンなら私もレズビアンかも」と思えました。「男性である」「女性である」ということのしがらみが壊された瞬間でした。

札幌市男女共同参画センターで事務員として働いていた6年前、東日本大震災の被災地で暮らす性的少数者への支援を頼まれました。パートナーなのに避難所で一緒にいられなかったり、パートナーの遺体を引き取れなかったりした話を聞きました。被災地で周囲の人に助けてもらうには、カミングアウトが必要だったのです。そうした人たちの電話相談を震災から1年後に始め、NPO法人「北海道レインボー・リソースセンター L-Port」で続けています。

今も、まだまだLGBTの人たちが表に出てこられない社会だと思います。自分のセクシュアリティーを話したら、「嫌われるかも」「いじめられるかも」という想像はできても、「ほめられるかも」「親にも喜ばれるかも」とは思えない。人ってそう思ったら言わないですよね。

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いま、付き合って6年目になる6歳年下の女性と同居しています。パートナーとは天気がいい日、飼っている1匹の犬を散歩させている時が幸せですね。札幌市のパートナーシップ制度はいつか利用したいです。公園で会う犬仲間にも「パートナーです」と紹介できたらいいですね。

制度ができるのは大きいと、改めて思います。やっと自分たちの存在が浮き彫りになり、認められるような気がしました。制度の実現を呼びかける活動をしていた時、アライ(支援者)の方がこう訴えてくれたのが印象に残っています。「結婚できない友達がいるのに、自分は心から喜んで結婚できない。そんな思いをさせないでほしい」と。当事者だけの問題じゃなく、当事者以外の人もおかしいと感じているんだとうれしく思いました。これからは、制度を活用していくための活動が必要だと思っています。

(2017年5月11日「朝日新聞デジタル」より転載)