報道カメラマンの写真を通して考える"世界の現実"
ゲッティイメージズの報道カメラマン ジョン・ムーアは、10年間以上に渡り米国・メキシコ国境の不法移民問題について取材してきました。
4つの米国の州と6つのメキシコの州に接している全長1,951マイル (3,141km)の国境は、毎年100万人以上の不法入国者による横断があると言われています。米国に入国しようとしているメキシコ人や、それを阻止する国境警備隊を東から西まで自分の足で取材していくうちに、何故これほどの危険なリスクを負って入国しようとする人々がいるのか益々関心を持ちました。
それは、麻薬の密輸を防ぐために建設された米国メキシコ間の壁(フェンス)の問題や、中米の治安問題に伴う苦悩など、普段私達が目にすることがない現実です。
今回彼が出版する『Undocumented』には、そんな国境に生まれた数々のドラマが様々な視点から紹介されています。
◆ジョン・ムーアにとってのフォトジャーナリズムとは・・・
私は、写真には、人間が生きていくうえで大切なことに目を向け、真実とフィクションを区別して伝える力があると考えています。
そして、私が撮影した写真が、何かしらの変化のきっかけになればと願っています。
1枚の写真が、見る人の感情を揺さぶり、普段と違う視点で物事を考えるきっかけになれば本望です。
今回の取材写真も、移民をはじめとする様々な世界の課題に対し、平等で心のある解決策を見出せる手助けになれば幸いです。
名前:John Moore(ジョン・ムーア) ゲッティイメージズ フォトグラファー兼特別特派員
略歴:1990年テキサス大学卒業後、Associated Press(AP通信社)へ入社。2005年にゲッティイメージズに入社し、2008年までパキスタンのイスラマバードに在住。イスラマバードを拠点に、南アジアやアフリカ、中東エリアを撮影。特にパキスタンでは、元パキスタン首相のベーナズィール・ブットー氏の暗殺現場を捉えた。2010 年以降は、米国の移民問題に注力。特に 2013年は、アリゾナ、テキサス、コロラド、ニューヨークの国境線で一年の大半を過ごす。
受賞歴:世界報道写真賞(計4回)/「The Overseas Press Club」ロバートキャパ金賞/John Faber賞
米国メキシコ間の取材を終えて・・・
Q:今回のプロジェクトはどのくらいの取材期間を費やしましたか?
ジョン・ムーア(以下、ジョン):10年のプロジェクトでした。2008年に、17年間の海外生活後に米国に戻ってから始めたものです。現在も移民問題は米国のニュースメディアで大きなトピックなので、今後もこの取材は続けるつもりです。
Q:取材前後で移民に対する印象に変化はありましたか?
ジョン:この10年で国境を越えてくる人のタイプが変わったと思います。
始めた頃は米国で仕事を求める労働者が多かったのに対し、最近では中米各国から移住しようとしている家族が多い。その地域のギャングが勢力を増し、一般市民に危険が及ぶようになったからです。
Q:メキシコ・米国の国境を舞台に取材しようと思ったきっかけは何だったのでしょうか?
ジョン:私自身、国境の一部が含まれるテキサス州出身ですし、中米に7年滞在していた際には、メキシコ側の国境問題について取材していました。また、イラクやアフガニスタンで、米国軍の取材を2001年以降にしていたので、軍への取材についても知識がありました。米国の国境警備隊も軍と似たような組織のため、彼らの活動の取材に必要な知識が役に立つだろうと考えました。
ゲッティイメージズが届けるフォトジャーナリズムとは
ジョン・ムーアの今回のプロジェクトを聞いたとき、正直、どのような写真を撮影するのか、イメージが湧かなかったことを覚えています。これまでにも、国境をテーマとした写真は多く存在していたため、他との違いをどのように表現するのかと思いました。
しかし、実際に出版された写真集を見て脱帽しました。なぜなら非常にバランスよく、多面的に米国とメキシコの国境が抱えている問題とその深さを伝えていて、よりこの問題について知りたいと思わせる力があるからです。
まず、彼の写真を見ると、この問題には様々な立場の当事者が存在することがわかります。例えば危険や貧困から子供を守ろうと移住してくる家族と、自国の国境線を警備する米国側の様子など、それぞれの本能や正義感に従って動いている様子が、彼の写真から強く伝わってくるのです。
次に、写真の一枚一枚から、取材力の深さを感じることができます。ホンジュラスのギャングたちのポートレート写真や、亡くなった方の遺品など、彼だからこそ捉えることができたシーンが数々盛り込まれています。
この写真集を通して、改めて、自分が知らない世界を言葉だけで理解することは難しく、ビジュアルの持つ力を感じることができました。
特に、今回の米国とメキシコとの国境問題における様々な当事者の状況を伝えるためには、写真は非常に有効な手段だったのではないでしょうか。
彼自身も語るように、たった1枚の写真が見る人の感情に訴え、違う視点で物事を考えるきっかけになること、それこそがフォトジャーナリズムの神髄です。ゲッティイメージズは、世界中の皆さんに、考えるきっかけとなる写真をこれからもお届けします。