ゴルフはメンタルスポーツと言われますが、その日、その時の精神状態にスコアが大きく左右されます。
今回はゴルファーの皆様の代表的な悩みについて、お答えします。
質問①
どんなに努力しても、ラウンド第一打の時に必ずドライバーをミスるのですが、どうしてでしょう?緊張しないように意識しているのですが、必ず気負ってしまいます。うまく打てるようないい方法を教えてください。
回答
ゴルフに限らず様々な場面で、自分の実力を思ったとおり発揮できないことがあります。
例えば、カラオケの出だしの音を思いっきり外してしまう、大勢の前で行うプレゼンテーションや、結婚式の挨拶、ここぞというとき最高の場面で最悪の事態を引き起こしてしまう。
やってはいけないと思えば思うほど、そのやってはいけない方向に事態が進んでしまう。
「緊張しないように」と考えることで、身体が硬くなり緊張してしまうことがよくあります。それは、なぜでしょう?
我々の身体を動かしているのは、複雑に張り巡らされた神経細胞のネットワークと筋肉の反射運動です。そして、それは「無意識」の領域でコントロールされています。
長年の練習で培ったスイングのフォームも、自転車の運転も、歩き方も全ては「無意識」です。最初はうまくできないので「意識」して身体の各部位を動かすようにしますが、いずれ「無意識」の領域でうまくコントロールができるようになります。このように我々の身体を動かしているのは、多くが「無意識」の領域なのです。
そして、我々の「無意識」の領域は否定形を理解することはできないのです。
つまり「緊張しないように」という命令は、「無意識」にとっては「緊張する」という命令と一緒なのです。
「ピンクのゾウを想像しないでください」と言われたとき、人は「ピンクのゾウ」を想像してしまいます。
同じように「緊張しないように」と考えるとき、私たちは「緊張することを」イメージし、身体をコントロールする神経や筋肉に「緊張する」という命令を伝達してしまうのです。
それでは、どのようにすればうまく打てるのでしょう?
「無意識」の領域は非常にイメージ的です。複雑な言語を理解することはできないので、あなたの望む結果をシンプルにイメージとしてインプットすればいいのです。
つまり「意識」がすることは、望む方向にボールが飛んでいくイメージをするだけでいいのです。
「無意識」は、そのイメージとおりにボールを飛ばそうと、全身の筋肉をコントロールしてスイングします。
身体を動かすのは「意識」ではなく「無意識」です。あなたの「意識」がすべきことは、「緊張しないように」という複雑な命令を下すことではなく、望む結果をイメージするだけでいいのです。
望んだ方向にボールが飛んでいく様子をうまく想像できたら、スイングを開始しましょう。
あなたの「無意識」は身体を上手にコントロールして、望んだ方向にボールを飛ばすことができます。
質問②
大叩きの後、どのようにモチベーションを維持して持ち直せばいいでしょう。何かいい方法があったら教えてください。
回答
どんな名選手でも失敗はつきものです。
せっかく順調にホールを回っていたとしても、たった一回の失敗が引き金となり、そのままスコアを落としてしまうということがあります。
そのようなとき、私たちの脳裏では、次も同じような悪い結果になってしまうのではないかという心配が生まれます。
そして、予想したとおりに悪い結果が次から次へと続きます。最悪の負の連鎖反応です。
人間は、「こころ」「身体」「感情」が一体となった生き物です。
うまくいっているときは、「こころ」も「身体」も「感情」もバランスが取れ充実していますが、その逆に悪いことが続く時ときは「こころ」も「身体」も「感情」も悪い方向に働きます。フィギュアスケートでも、ジャンプに失敗して演技に悪影響を与えてしまう選手と、見事に立ち直ってその後はノーミスで演技を行う選手の姿を見ることがあります。
失敗から立ち直るときは、その失敗がプレッシャーをはねのけるきっかけになっていて、失敗がきっかけで崩れるときは、一度の失敗が負の連鎖反応を引き起こす原因になっているのです。
いずれも、それまでとは「こころ」「身体」「感情」の有様が変わっているのです。このように「こころ」「身体」「感情」が一つの状態で保たれていることを「ステート」といいます。
つまり、成功している時はいい「ステート」で、「こころ」「身体」「感情」がバランスを保たれていて、失敗する時は「こころ」「身体」「感情」が悪い「ステート」に陥っているのです。
この「ステート」をリセットすることを「ブレイクステート」と言います。
失敗が続くときは、「また次も失敗してしまうのではないか」という「恐れ」のような「こころ」の働きがあり、「焦り」などの「感情」が重なり、「緊張」「萎縮」といった「身体」の反応のパターンが一つのセットとなって失敗を生み出すステートに陥っているのです。
この状態から抜け出すには、「ブレイクステート」となる行動を意識的に行い、今までの「こころ」と「感情」と「身体」の状態をリセットさせます。例えば深呼吸をするとか、反対の方向を向いてスイングをするとか、歌を歌うとか、気分転換をすればいいのです。
その逆に、調子がいいときは「こころ」と「身体」の連携がうまく取れているので、その「ステート」を維持できるように心がけます。
ヤクルト、阪神、楽天の監督を務めた野村克也氏は、キャッチャーとしての現役時代、打席に立った調子の良い選手の「ステート」を乱すような言葉がけの天才だったといわれてます。
彼の一言で、スランプに陥った人もいたという伝説が残っているほどです。
その逆に、ラグビーの吾郎丸やイチローが打席に立ったときの「ルーティーン」と呼ばれる一連のポーズは、最高の「ステート」を生み出すための動作です。
このように人間の「こころ」「感情」「身体」は、一つのユニットとして機能します。いつでも、最高の「ステート」を生み出せるように、日頃から「ルーティーン」的な動作を作っておくといいかもしれません。
(2016年05月25日「ボトルボイス」より転載)