いずれにせよ技術が確実に進化しつつあることだけは事実です。

石破茂です。

連休中の安倍総裁の憲法第9条「加憲」発言に加えて、14日日曜日早朝には北朝鮮のロフテッド軌道によると思われる「新型」ミサイル発射があり、今週はいつにもまして慌ただしい日々が続きました。

ミサイル防衛については「ロフテッド軌道」「コールド・ローンチによる発射」「装軌式TEL(テル。電話ではなく、輸送起立発射機のこと)」「SM-3ブロック2A迎撃ミサイル」等々、一般の方々には馴染のない専門用語が飛び交い、これに法律用語が加わりますので、テレビなどでなるべくご理解いただけるように話すのはかなり難しいことで、わかりやすく話すように努めるあまり正確性を欠くことがあってもなりませんし、それなりに苦労の連続です。

着弾精度に劣るロフテッド軌道で発射したことには、ロフテッドそれ自体に意味があるのではなく、長距離を飛翔させる能力を示す意図があったのかも知れませんが、いずれにせよ技術が確実に進化しつつあることだけは事実です。

ここで我々はもう一度、ICBM(大陸間弾道弾)という兵器の持つ意味を考えてみなくてはなりません。

人工衛星もICBMも原理は同じものですが、射程1万キロのICBMは、長距離を飛翔した後に大気圏に時速マッハ24で再突入し、その時の表面温度は摂氏7000度にもなります。これに耐えて正確な角度で弾頭を落下させるためには相当に高度な技術を必要とするのであって、未だ北朝鮮はその技術を会得していないものと思われます(ちなみに米国・旧ソ連ともに、核爆発とICBMの実験は何度も行ってきましたし、米国は今もICBMのテストを頻繁に行っていますが、両者を組み合わせた実験は一度も行われていません)。

つまり、米国は未だ北朝鮮のICBMの脅威には直面しておらず、北朝鮮が韓国を攻撃する際にはロケット砲や地対地ミサイルなどで十二分に事足り、我が国はノドンなどのIRBM(中距離弾道弾)の射程にかなり以前から国土のほぼ全域が入っている、というのが現状です。日本、米国、韓国の三か国が緊密に連携して、という表現が常套句のように使われ、それは確かにその通りなのですが、三か国の置かれた状況は全く異なるのですから、それぞれの脅威認識の相違を念頭に置いたうえでの協議でなければ、一致した対応が困難になりかねないことを危惧しています。

米国まで届くICBMを保有し、体制の保障などの要求をのませるのが北朝鮮の狙いだと考えられますが、これは「この子の命が惜しければ言うことを聞け」という誘拐犯の手法と何ら変わらず、絶対に認められるものではありません。

いつも申し上げることですが、拡大抑止もミサイル防衛システムも決して万能ではありません。これらに加えて国民保護や民間防衛のシステムを構築しなければならないのですが、我が国の人口あたりの核シェルターの普及率は、スイスの100%、ノルウェーの98%、アメリカの82%、イギリスの67%、シンガポールの54%などに比べて三桁少ない0・02%というのが現状です。この数字はNPO法人日本核シェルター協会の資料によるものですが、「やりっぱなしの行政・頼りっぱなしの民間・全然無関心の市民」という地方創生が失敗する際の原則は、安全保障でも当てはまるようにも思われます。

憲法第9条の議論がにわかに活発になりつつありますが、「集団的自衛権行使の範囲」や「専守防衛の意義」が大きな論点になるはずです。集団的自衛権についてはすでに何度も言及しているので繰り返しませんが、専守防衛についてもこの際徹底した議論が必要です。

専守防衛とは「相手から武力攻撃を受けた時にはじめて防衛力を行使し、その態様も自衛のための必要最小限にとどめ、また、保持する防衛力も自衛のための必要最小限度に限るなど、憲法の精神にのっとった受動的な防衛戦略の姿勢をいう」(防衛白書)と説明され、私自身も何度か国会でそのように答弁してきましたが、これがあらゆる防衛戦略の中で最も難しいものであることがどこまで国民に理解されているのでしょうか。

専守防衛は基本的に国土が戦場になることを想定しているいわゆる「籠城戦」的な戦略ですが、これが成功するためには「強い国民の意思」「堅固な守りの体制」「十分な兵糧・弾薬・人員」「国土の縦深性」「味方来援の確実性」の5つの要素が必要となります(野口裕之氏の所論による)。専守防衛に徹するなら、この確保に全力を注がなければならないのであって、ただひたすらにこれを唱えていればよいというものではありません。

「決して他国の脅威とならない」とのフレーズもよく使われますが、脅威とは意図と能力の掛け算の積なのであって、決して他国を侵略しないという国民の強い意志があればその積は零なのであり、能力向上を怠ってよいことには決してなりません。

14日日曜日に訪問した福岡県うきは市の取り組みには、とても勇気づけられました。他の地域からうきは市に移住した方々が「本当にここはよいまちだ」と口々に言われていた姿がとても印象的で、RESAS(リーサス)システム(地域経済分析システム)を率先して活用してこられた高木典雄市長をはじめとする皆様の真摯な姿勢に心から敬意を表します。

敬愛する岡山県真庭市の太田昇市長が再選されました。27年の合計特殊出生率が全国トップレベルの2.21に達するなど確実に成果をあげておられます。市長は「まだ緒についた段階」と言っておられますが、全国各地で着実に地方創生を実践しておられる市町村長さんにお会いできることはとても嬉しいことです。

週末は、20日土曜日が公益社団法人オイスカ(The Organization for Industrial, Spiritual and Cultural Advancement)「名取市民の森平成29年度植樹祭 海岸林再生プロジェクト10か年計画」開会式でオイスカ活動促進議員連盟会長として挨拶、植樹(午前9時・宮城県名取市市有林)、その後徳島県市町村長との意見交換会(午後4時・徳島グランヴィリオホテル)、福山守衆議院議員地方創生フォーラムにて講演(午後5時・同)、祝賀懇親会(午後6時・同)。

21日日曜日は自民党埼玉県衆議院第12選挙区支部大会にて講演(午後4時・熊谷流通センター組合会館)、同懇親会(午後5時半・熊谷市内)、という日程です。

5月も後半となりました。時々爽やかな初夏の日和となり、ほんのつかの間の楽しさを感じることもあった一週間でした。

もうすぐ梅雨入り、荒井由実の「雨の街を」(1973年)が似合う季節となりますね。

皆様ご健勝にてお過ごしくださいませ。

(2017年5月19日「石破茂(いしばしげる)ブログ」より転載)

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