ここにきて円安のせいか輸出主導型大企業の企業業績の上方修正が相次いでいる。株価上昇も手伝って、にわかバブルの観を呈している。失われた20年、久し振りの景気回復の予感に沸き立つのも無理はない。ただここで我々はよくよく賢明でありたい。
シュンペーターの「経済発展の理論」を持ち出すまでもなく、我が国の閉塞感を打破するのは、資本主義の駆動力ともいうべき創造的破壊とそれに果敢に挑む起業家であり、わが国にとっての最大の課題は、ベンチャー企業を創出する起業文化の醸成にあるといえる。イノベーションを加速化するためには、大企業が従来の自前主義の呪縛から解き放たれ、未知の領域にリスクをとって果敢に挑戦するベンチャー企業との連携を希求すべきだ。
米国のVCの投資状況とその出口(Exit)について、トムソン・ロイターと全米ベンチャーキャピタル協会(NVCA)がまとめた資料がある。それによると、ベンチャーキャピタルが介在するベンチャー企業の出口として、2012年は新規株式公開(IPO)が49社あったのに対し、M&A(合併・買収)は469社。出口戦略としては、M&AのほうがIPOより圧倒的に重要度が高いことが分かる。閉ざされた自社内だけで完結する「研究開発マネジメント」から、ベンチャー企業のM&Aを通じた「技術買収マネジメント」への転換が大企業に不可欠なのではないか。
5月末にアジア・アントレプレナーシップ・アワード(AEA)2013という大会がある。成長著しいアジアの12か国・地域から、将来のイノベーションを主導するテクノロジーベンチャー企業の起業家チームが参集し、そこに有力なベンチャーキャピタル、インキュベータが一堂に会して、皆が膝を突き合わせ、濃密な場を共有し、相互に学び、触発し合う――。我が国が世界におけるイノベーションの一大拠点として、その看板は掲げ続ける必要があるが、世界3大映画祭(カンヌ、ベルリン、ヴェネチア)に対抗して1985年から東京国際映画祭を始めたように、技術やアイデアを駆使してイノベーションに挑む若き起業家をアジアから日本に呼び込むような大きな仕掛けだ。
大企業にはAEA 2013のような大会こそ、最大の関心を持ってウォッチしてほしい。わが国がイノベーション大国として復活を遂げるためには、戦後〜高度成長期に有していた起業文化の価値をあらためて見つめ直す必要がある。イノベーションの源泉は大企業そのものではなく、エッジの効いたベンチャー精神にあることを肝に銘じるべきだ。