2019年も景気の拡大は持続する。 (塚崎公義 大学教授)

国内景気に関する最大の論点は"米中貿易戦争"ですが、過度な懸念は不要であると見ています。

昨年の秋以降に株価が暴落し、景気の先行きに暗い見通しを持つ人が増えているようです。ただ、筆者は相変わらず景気見通しには強気です。もちろん手放しの強気ではなく、目配りすべきリスクがあることも認識はしています。

■景気は自分では方向を変えない

景気を考える際に最も重要なことは、景気は自分では方向を変えない、ということです。景気が拡大すると物がよく売れるので、企業は増産のために人を雇います。雇われた元失業者は給料を受け取って物を買うので、物が一層よく売れるようになります。

企業が増産のために設備投資をすると、工場建設用の鉄やセメントや設備機械が売れます。今次局面においては、労働力不足への対応として省力化投資が行われていますから、省力化のための機械が売れています。飲食店でアルバイトが見つからないので自動食器洗い機を購入している、というわけですね。

経済学の教科書には在庫循環が載っていますが、あれは在庫管理技術が未熟だった頃の話です。設備投資循環も載っていますが、あれはコンピューターのように買い替えサイクルが短い物が無かったため、10年ごとに一斉に設備機械の更新投資が行われた頃の話です。

したがって、景気の方向を変える力が外から働かない限りは、景気はこのまま拡大を続けると考えて良いことになります。

■国内要因で景気が悪化することは考えにくい

景気が過熱してインフレが懸念されるようになれば、政府日銀がインフレ対策として景気を故意に悪化させる可能性も理論的にはあり得ますが、今年中には絶対にないでしょう。

消費増税の影響は懸念されますが、前回(5% 8%)の時よりも増税幅が小さい上に、各種の景気対策も講じられるとのことですから、増税が景気を後退させる可能性は低いと思います。

東京オリンピック関連の投資が一巡すると思われますが、労働力不足のためにオリンピック後に着工を延期している案件も多いと聞きますから、建設不況の心配もなさそうです。

株価暴落が景気を悪化させる可能性も小さいでしょう。日本は個人投資家の持株が少ないですから、株価が下がって消費が減る「逆資産効果」が出にくいのです。

■最大の論点は米中貿易戦争だが、過度な懸念は不要

今年の国内景気に関する最大の論点は、米国が高率関税等で中国を叩いていることでしょう。米国は本気で中国との覇権争いに突入しており、何が何でも中国経済を弱体化させるつもりのようです。そうなると、中国に輸出している企業や中国に工場を持っている企業に悪影響が及びそうですね。しかし、日本経済については過度な懸念は不要でしょう。

米国が中国から輸入しなくなった分は、他の途上国から輸入するでしょうから、中国の景気が悪化した分だけ他の途上国の景気が良くなり、日本の輸出市場全体としては大きな問題は起きないかも知れません。

更に言えば、米国が中国から輸入しているものの一部を日本からの輸入に振り替えるとすれば、日本が漁夫の利を得ることになるでしょう。

資源多消費型経済の中国が不況になれば、世界の資源価格が下落して、資源輸入国の日本に恩恵となる、という面も期待できそうです。

中国に進出している日本企業の工場は困るでしょうが、彼らは中国企業であって、失業するのは日本人ではなく中国人です。親会社は子会社が赤字になると決算が悪化するでしょうが、それは日本の景気には響かないでしょう。

これまで彼らは中国で稼いだ分を内部留保しただけで、日本国内の設備投資や賃上げに使ったわけではありませんから、それが逆流しても何も起きない、というわけですね。

■欧米の景気は後退しないと期待

欧米の景気については、悲観論者が多いようです。特に株価が急落してから悲観論者の声が大きく元気になっています(笑)。しかし、筆者は楽観的です。米国も欧州も中央銀行が金融を引き締め方向に動かしているからです。

仮に彼らが景気の先行きに悲観的とまで言わなくても不安を感じているならば、金融政策を現状維持のまま半年程度様子を見る、という選択肢も採り得るわけですが、そうしていないということは、彼らはさして不安を感じていないと言えます。

その意味では、市場参加者と中央銀行の景気見通しが異なるというわけですね。筆者は米国や欧州の経済には詳しくないので、中央銀行の見解に従っておくこととします。

もしも筆者の予想が外れて欧米の景気が悪化し、日本の景気も悪化するようなことになったら、筆者ではなくFRBとECBを批判して下さいね(笑)。

■リスクシナリオにも目配りは必要

冗談はさておき、メインシナリオは強気でも、リスクシナリオには目配りが必要な状況です。主なものは中国経済の激変と、米国の信用収縮でしょう。

中国進出の先進国企業は、米中経済戦争(実は冷戦)が長引くにつれ、生産拠点を他の途上国に移していくと思われますが、その動きが余りに急で、他の途上国の生産拠点が整備できる前に中国から撤退する可能性があります。

たとえば、カナダが中国大手企業の役員を逮捕した直後、中国は中国国内のカナダ人を逮捕しました。これは報復だと報じられていますが、もしもそうした事例が増えてくるならば、西側企業は急いで社員を引き揚げるとともに、資産の接収を恐れて工場を閉鎖して本国へ逃げ帰るかも知れません。

その場合に起こるのは供給不足ですから、需要不足よりは対応が容易でしょうが、中国でしか生産していないハイテク部品のようなものがあると、面倒なことになりかねないので、目配りは必要でしょう。

今ひとつのリスクは、可能性は低いけれども万が一起きると影響が大きい「米国での信用収縮」です。「景気は気から」ですから、米国の金融関係者が景気の先行きに慎重になり、融資に慎重になると、設備投資ができない企業、自動車が買えない消費者等が増え、景気が悪化するかも知れません。

最悪なのは、金融機関相互の資金貸借まで滞りはじめ、信用が収縮することです。そうなれば小型のリーマン・ショックのようなことも起きかねません。今次局面では、米国の金融機関は比較的健全でしょうから、金融機関相互の資金貸借は維持されると思われますが、一応リスクシナリオとして目配りは必要でしょう。

なお、リスクシナリオには目配りするとしても、メインシナリオはあくまで楽観なので、過度な懸念は不要であることを最後に念のため繰り返しておきます。

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塚崎公義 久留米大学商学部教授

【プロフィール】

日本興業銀行(現みずほ銀行)にて、主に経済関連の調査に従事した後、久留米大学に転職。趣味は、難しい事を平易に解説する文章を書く事。SCOL、Facebook、ブログ等への執筆のほか、著書も多数。

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