JTB中部はバスの手配を漏らした社員を責める前に企業体質を自省すべきだ。 (榊裕葵 社会保険労務士)

JTBの社員が高校の遠足のバスの手配を失念の上、高校に遠足を中止するよう自作自演の手紙を送るという事件が発生した。インターネット上の反応などを見ると、「とんでもない非常識な社員がいたものだ」「こんな社員は懲戒解雇されて当然」といった趣旨の意見が目立つ。

先日、JTBの社員が高校の遠足のバスの手配を失念の上、高校に遠足を中止するよう自作自演の手紙を送るという事件が発生した。インターネット上の反応などを見ると、「とんでもない非常識な社員がいたものだ」「こんな社員は懲戒解雇されて当然」といった趣旨の意見が目立つ。

しかしながら、私は、事件の背景を掘り下げると、いち社員の問題に留まらず、企業体質そのものに起因する問題と思えてならない。私が考える問題点は大きく分けて3つであるので、以下順番に説明したい。

尚、本記事には、ニュース等の報道内容から汲み取った当職の推測や、私見も含まれていることを踏まえ、お読みいただきたい。

■ミスを予防できなかった仕組み上の問題

第1の問題点は社内の仕組みである。

なぜ出発直前になるまでバスの手配漏れが発覚しなかったのだろうか。ミスが起こらないようにするためのチェック機能が働かなかったことを私は指摘したい。

上司は社員の仕事内容を把握していたのであろうか。より具体的に言えば、社員がバスを手配するにあたっての日程表や、見積書、発注書、稟議書などをチェックしていたのであろうか。

上司が意識して部下の仕事をチェックしていたならば、「もうすぐ○○高校の遠足でバスの手配が必要だったはずだけど、まだ稟議書が回ってきてないよね。忘れてないよな?」と、手配漏れを指摘することができたはずだ。

仕事が社員への丸投げになっていたり、決裁が印鑑を押すだけの「儀式」になってしまったりはしていかなかっただろうか。

■ミスを報告できない社内の風通しの問題

第2の問題点は社内の風通しである。

直前になってバスの配車が漏れていたことに気がついたら、通常の判断能力がある社会人であれば、直ちにミスを詫びて上司に相談をするであろう。相談していればもっとよい対応の仕方があったはずだ。

JTBほどの会社であるから、あらゆる取引先のバス会社に当たって緊急手配をかければ、何とかバスの都合をつけることができたかもしれないし、それが無理であっても、学校へ謝罪の上相談をし、日程変更を検討する等すれば、今回のような最悪の結果には至らなかったはずだ。

社員が稚拙な手段までもつかってミスを隠そうとしたのには、普段の上司の態度が影響していた可能性はないだろうか。ミスに対しパワハラ的に怒鳴り散らすとか、過酷なペナルティを課すとか、そういった事実はなかったのだろうか。

普段からパワハラ的な対応をとっていると、部下は上司を相談する相手ではなく恐れる相手と認識するようになる。そうなってしまうと、何が何でもミスを隠そうという考えに至ってしまうことは何ら不思議ではない。

■責任を末端へ押し付ける問題

第3の問題点は末端社員への責任押し付け体質である。

報道によれば、遠足の当日の朝、JTB中部では社員が手配漏れを起こしたことを認識したが、学校への報告は、この社員自身に行かせたようだ。自作自演の手紙の話はこの時点では明らかになっていなかったとしても、バスが1台も手配できていなかったという旅行会社としてあってはならない重大なトラブルを発生させたのであるから、社内的に悪いのは誰かはともかくとして、お客様に対してはしかるべき立場の責任者が直ちに出向いて、謝罪をするのが企業組織としての筋ではないだろうか。

また、本件に関するJTB中部のプレスリリースには、「再発防止に向けた教育」「このような行為に及んだ社員を厳重に処分」「警察の捜査について、全面的に協力」という内容が書かれていたが、文面のニュアンスからも、悪いのは社員で会社も被害者なのだ、とい言いたげな深層心理が見て取れる。

このような「自分のケツは自分で拭け」的な企業体質が社員を追い詰め、「ミスのつじつまを合わせるためには手段を選んではいられない」という判断をさせてしまった可能性は否定できないであろう。

働き方については以下の記事も参考にされたい。

■総括

もちろん、いちばん悪いのは非常識な対応をした社員である。しかしながら、このような事態を招いた背景には、会社の体質に問題が無かったと言えるのだろうか?

この社員を懲戒して「トカゲの尻尾切り」を行うだけでは、将来また同じようなミスが発生する恐れがある。この機会にJTB中部は、企業体質を振り返り、問題がある点が確認されたならば、根本的に見直しを検討すべきではないだろうか。

特定社会保険労務士・CFP 榊裕葵

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