ニューヨークヤンキースの黒田博樹は打線の援護がない投手と言われている。8/6日付けのMLB.jpのコラムでは黒田は「メジャーで最も不運な投手」?という題名でコラムが掲載された。
■黒田の成績
では黒田と他の日本人先発投手の今季の成績を比較するとどうなるか?
2014年8月10日現在の成績は以下のようになっている。
黒田以外の投手は今季何らかの故障があったため試合数は少ないが、その他の数値はすべて黒田以上の成績を収めている。特に防御率に関して言えば黒田はダルビッシュより1点近くも悪く、現在の成績は妥当のようにも思える。ではなぜメジャーで黒田が不運と言われるのか? MLB.jpのコラムから引用すると、以下のような理由だ。
7月30日の試合は、7回3失点で黒田は敗戦投手となった。黒田はメジャー通算201試合目の先発だったが、クオリティスタートをマークしたのが122試合。そのうち30試合で敗戦投手になっており、これは2008年以降メジャー最多だという。
■クオリティスタートとは?
クオリティスタートとは先発投手が6回以上投げ、自責点を3失点以内で抑えることだ。日本では勝利数や防御率を重視する傾向が強いが、勝利数は打線の好不調に左右されてしまいがちだ。また防御率は投手が9回を投げることを前提とした場合の失点率であり、投手の分業制が確立された現在ではあまり有効な指標とはいえない。こうした理由もあり、メジャーでは投手が試合を作ったかどうかを図る指標としてクオリティスタートが使われている。
今季、黒田がクオリティスタートをマークした試合は14試合。そのうち黒田に勝ち星がついた試合は3試合しかない。投手として試合を作っても20%程度しか勝ち星がつかないのであれば、不運と言われても仕方がないかもしれない。では本当に不運だけで片付けてしまっていいものだろうか?
■バブルチャートを使って分布を可視化する
そこでクオリティスタートの条件となる投球回数(横軸)と自責点(縦軸)の関係をバブルチャートで確認してみることにする(円の大きさは発生回数)。
赤枠で囲まれた部分がクオリティスタートをマークした試合だ。ダルビッシュがクオリティスタートの場合、自責点は0点や1点が多い。一方の黒田の場合2点か3点がほとんどだ。投球回数は黒田は6回から7回の範囲が多く、ダルビッシュは、崩れるときは早い回で大量失点となる場合が散見される。では残り二人の日本人先発投手、田中と岩隈についても確認しておこう。
田中は今季クオリティスタートを16回連続で記録したこともあり、クオリティスタート率が圧倒的に高いことが分かる。岩隈は自責点、0点や1点で抑えることが多いが、4失点、5失点することも少なからずあるといった感じでダルビッシュに近いといえる。
■標準偏差で明らかになる黒田の特徴
ここで、投球回数と自責点の平均値と標準偏差を確認してみよう。(2014年8月10日現在)
投球回数も自責点も平均は黒田が最低だが、標準偏差を見ると黒田が最も低いことがわかる。
標準偏差はそのデータのばらつき度合いを数字で表したものだ。従って黒田の場合、クオリティスタートを達成していたとしても、そのクオリティが6回3失点あたりに集中しているため、勝てない確率が上がっているということが推測できる。もちろん所属するヤンキースのチーム打点がリーグ15チーム中12位と得点力が少ないことも、要因の一つではある。
つまり黒田は不運な投手というより、その投球内容が安定しており、毎試合そこそこ失点しているからこそ負けがつくことが多いといえる。現在のヤンキースであれば、田中のように後1回余分に投げ、かつ失点を1点少なくしなければならないのだろう。
■黒田はマネジメントしやすい投手
ばらつきが少ないということは、マネジメント側にとってみると非常に楽だといえる。どんな相手や状況でもだいたい5回から7回を2失点から4失点で投げてくれるのだから、中継ぎを準備しておく必要があることはいつも同じということになる。
これがダルビッシュの場合であれば、好投するかもしれないし、崩れることもありえるのだから、指揮官はどちらの場合も想定し、状況によって判断を下さなければならない。想定通りにいかない時ほど判断は難しくなるのはいうまでもない。
これはビジネスでも同じことがいえる。目立つ成果も多いが、ミスもする部下は上司としてはどちらにしても目が離せないのだから、マネジメントは大変である。逆にいつも多少の手はかかるが、安定した仕事ぶりをみせる部下の方が、上司としてはありがたいだろう。黒田のような安定感こそが、長い目でみた場合、仕事への貢献度合いは高くなるのかもしれない。
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村山聡 中小企業診断士・データサイエンティスト