二年前、私が東京都の実家から、島根県美郷町に移住した理由は「面白い仕事ができそうだから」でした。
その他に、なんの動機もありません。
もちろん、住んでから分かった地域の魅力はたくさんありますが、あくまで結果論で、移住前から、豊かな自然や、住民の人柄に強く惹かれたわけではありません。(そもそも、それって下見レベルではなかなか分からないものですよね)
なので、私が惹かれた仕事、移住からこれまで、仲間と築き上げてきた仕事について、お話したいと思います。
私たちは、ここ島根県美郷町で「イノシシ事業」を立ち上げています。
とはいっても「イノシシ事業ってなんぞ?」ですよね。
具体的には、こんな業務内容があります。
1.イノシシ肉の製造と加工
2.缶詰商品の製造
3.コンサル(コーディネート)
4.営業
5.その他たくさん
数ある業務の中でも「1.イノシシ肉の製造と加工」は、私たちの事業の根底を支える大切な仕事です。
私たちは、年間400頭前後の野生イノシシを処理施設に搬入し、イノシシ肉を製造しています。
精肉換算すると、おおよそ4〜5トン程度でしょうか。
その4トンの精肉を、飲食店に卸したり、小売販売したり、加工商品にしたりしています。
また、食肉処理されたイノシシの皮をタンナー(皮革なめし業者)に出荷し、イノシシ革を地域資源にしたり、内臓をペットフード業者に出荷し、商品化してもらったりしています。
美郷町では春から夏にかけて、年間400頭前後のイノシシが駆除捕獲されています。
イノシシの繁殖率は凄まじく、適切に駆除することで、里山に住む人々の暮らしはもちろん、自然環境も守られるのです。
その「美郷町内で駆除捕獲されたイノシシ」のうち約80%のイノシシが私たちの処理場に運び込まれ、そのほとんどが食肉処理さています。
つまり「奪った命を活用できる取り組み」でもあるということです。
そして、秋から冬にかけては、美郷町のみならず、近隣市町村などから脂ののったイノシシが100頭ほど、運び込まれます。
この「脂ののったイノシシ肉」は高級食材として、都市部を中心にレストランや料亭などに販売されています。
「イノシシ肉の製造」という仕事は「命あるものを食材にする」仕事です。
野生動物を相手にしているからこそ、思い通りにいかない大変さ、難しさと向き合いながらも、自然のパワーと奥深さにどっぷりハマれる仕事だと思っています。
ちなみに、私の旦那さんはこの仕事の責任者で、シーズン中は毎日のようにイノシシと野山を駆け回り、処理作業に明け暮れています。
仕事から帰ってくると「今日のイノシシは、大人しくて美人だった!」とか「今日のは往生際が悪くてしんどかった...」と、嬉しそうに話してくれます。
そんな旦那も、この仕事に興味を持ち、移住してきたひとりです。
イノシシに限らず、農業でも漁業でも「命あるものを食材にする」ことは、なかなか大変な仕事です。
どんな食材の背景にも、たくさんのジレンマを抱えながら、日々、課題に取り組む生産者がいます。
しかし、消費者が常にそんなことを実感しながら生活するのは難しいのも事実です。
それでも、誰かが仕事や人生に迷ったとき「こんな仕事もあるかも」とひとつの選択肢として考えられる仕事を、築き上げていきたいと思っています。
(2016年2月24日「senalog」より転載)