2015年9月25日、国連の全加盟国の賛同により採択された「私たちの世界を変革する:持続可能な開発のための2030アジェンダ」と、17のグローバル目標「持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals-SDGs)」。貧困、格差、気候変動など、世界を覆う深刻な状況への危機感を背景に、社会・環境・経済の課題に包括的に取り組み、「誰一人取り残さない」世界への変革を目指す野心的な目標である(筆者が採択の前日に投稿したブログもご参照下さい)。
第一回目の本フォーラムのテーマは、「誰一人取り残さないために(Ensuring no one is left behind)」
SDGs採択から約10カ月後の2016年7月11日~20日、国連で「ハイレベル政治フォーラム」が開催された。SDGsの進捗を達成期限の2030年まで国際レベルでとりまとめる役割を負い、毎年1度の閣僚級会合と、4年に1度の首脳級会合の開催が予定されている。各国政府や市民社会、研究者、企業等が集い、SDGsの実施における様々な経験を共有し、進捗を確認する場となる。
日本からも政府関係者の他に、市民社会より数人が参加した。市民社会にも参加が開かれた公式会合以外に、SDGsの達成に向けて何をすべきかを様々な角度から扱う約80のサイドイベントの開催で、国連ビル内は大変なにぎわいだった。
例えば、筆者が参加したのは、SDGsのモニタリングのためのデータと指標に関する公式セッションと、世界で先行してSDGsに取り組むコロンビアとフィンランドが進捗を報告するサイドイベント。フィンランドの徹底した政府主導の取り組みや、あらゆるステークホルダーを巻き込むアプローチは参考になった。他にも「最も周縁化され、疎外されたコミュニティの包摂」、「市民社会の実施プロセスへの参加」、「後発開発途上国への支援のあり方」、「民間セクターの貢献」といったサイドイベントが数多く設けられた。
フォーラムの目玉は、自ら立候補した22カ国の政府によるSDGs実施の国レベルのレビューである。前述したコロンビア、フィンランドの他、ドイツ、ノルウェーなどの先行国、シエラレオネ、ウガンダ、サモアなどの後発開発途上国、そしてアジアからは韓国、中国、フィリピンといった国々が名乗りを上げ、フォーラム最後の2日間で発表が行われた。
日本の市民社会は、韓国の市民社会との共催によるサイドイベント「SDGsの効果的な実施に向けた韓国と日本の役割」を開催した。韓国・日本の市民社会と政府、それぞれの立場からSDGs実施に向けた進捗の共有を行い、それに対する国際およびアジアの市民社会ネットワークからのコメントを得た。SDGsを期限までに達成できるか否かは、多くの人口を抱えるアジアの動向が大きく影響する。アジアの中の先進国・援助国として、今後韓国と日本が果たすべき役割は大きい。
また、国際協力における責任と同時に、貧困・格差・少子高齢化・地方の過疎化など、韓国・日本それぞれ国内課題への対応も求められる。韓国はフォーラムでの議長を務め、国レベル・レビューでも手を挙げるなど積極的な動きが目立っていたが、本サイドイベントでも戦略的で力強いプレゼンテーションが印象に残った。
日本では5月のG7伊勢志摩サミット前に安倍首相が本部長を務めるSDGs推進本部が立ち上がり、実施指針の策定に向けて関連省庁を巻き込んだ包括的な取り組みや、あらゆるステークホルダーが参加できる体制づくりが求められている。特にSDGsの目標16の「平和で公正な社会と包摂的な制度」、目標17の「実施手段の強化とグローバル・パートナーシップ」といったテーマを中心に、引き続き日韓の対話を続けていこうと結んだ。
極めて短時間ではあったが、本フォーラムに参加しての率直な印象は、『世界は果たして「誰一人取り残さない」を実現できるだろうか?』という疑問と不安だった。昨年9月の採択時に口々に語られた「誰一人取り残さない」、「(格差是正への取り組みには)細分化されたデータが必要」、「マルチステークホルダーによる連携の重要性」などが、本フォーラムでも繰り返されていた。フォーラム初日のセッションで国連ウィメン(UN Women)の代表者がこう述べたそうだ:「「誰一人取り残さない」は、全員が何度も連呼したところで、実現するものではない」」。
実践的な取り組みや課題を互いに共有し、さらに革新的なアプローチを議論することに意義はあるが、互いから学び、考えるだけでは、複雑な問題に根本から取り組み、最も脆弱な立場に置かれた人々を最優先し、真の変革を起こすための強力な推進力にはなり得ない。各国政府が説明責任を果たすためのモニタリングと報告のしっかりした枠組みや、途上国の後押しやデータ整備のための資金拠出が不可欠である。
9月の国連総会や次回フォーラムを含むあらゆる機会を活用し、国内外の市民社会もより一層連携を進め、国際レベル、地域レベル、国レベルの働きかけを強める必要性を感じた。すべてのステークホルダーの本気度が問われている。
アドボカシー・マネージャー/運営委員
堀江由美子