堀内 葵
国際協力NGOセンター 調査提言グループ
動く→動かす事業統括チーム
2016年G7サミット市民社会プラットフォーム 共同事務局
4月10日(日)-11(月)、広島市にてG7伊勢志摩サミット関連閣僚会合としては初となる外務大臣会合が開催された。カナダ、フランス、ドイツ、イタリア、日本、イギリス、アメリカのG7諸国の外務大臣とEU代表が集まり、世界情勢や開発、気候変動、グローバルな保健課題等の多種多様な地球規模課題について意見交換がなされた。最終日には共同コミュニケ が発表され、議論の成果が英文で14ページにまとめられている。
マスメディア報道では、テロリズムへの対処やシリアおよび難民問題、そして「外務省の誤訳」問題に主な焦点が当てられているが、実は上に述べた「地球規模課題」について、重要な議論がなされている。G7伊勢志摩サミット首脳会合での議論を理解するためにも、外務大臣共同コミュニケを読み込む必要がある。本稿では、市民社会の立場からこの共同コミュニケについて検討したい。
G7伊勢志摩サミットは、2015年9月に国連で採択された「我々の世界を変革する:持続可能な開発のための2030アジェンダ」(以下、「2030アジェンダ」)に代表される、開発・環境・防災などの主要な国際目標の合意を受けて開催される初めてのサミットである。
「2030アジェンダ」とは、先進国・途上国問わず、2030年までに貧困をなくし、格差を是正し、気候変動や生物多様性などの環境問題に取り組み、平和で公正な社会の実現に向けてすべての国連加盟国政府が合意した国際目標である。筆者が共同事務局を務める「2016年G7サミット市民社会プラットフォーム」は、G7諸国が「2030アジェンダ」を含む開発課題にしっかりと取り組むよう求める60以上の国際協力NGOが参加している。
共同コミュニケの構成は以下の通りである(段落番号は筆者による整理)。
- 前文
- 地域および世界情勢
- 地球規模課題
「1. 前文」は、G7諸国が共有する民主主義や法の支配、人権尊重などの基本的価値について述べており、各種課題に取り組むという政治宣言である。
最もページ数が割かれているのが「2. 地域および世界情勢」である。約12ページに渡り、テロリズムと過激主義、シリア、難民・国内避難民、イラク、イラン、北朝鮮、ウクライナ・ロシア、リビア、アフガニスタン、中東和平プロセス、イエメン、アフリカについての議論が展開されている。
「3. 地球規模課題」については、サイバー空間、宇宙空間、気候変動、人権、女性・平和・安全保障および紛争化における性暴力の防止、平和維持・構築、汚職防止、麻薬対策、国際保健と国際保健安全保障という9つの課題について、約5ページに渡って記述されている。
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²◆※詳細は(「G7広島宣言『非人間的な苦難』は誤訳。なぜこの問題が重要か」ピースボート川崎哲氏のブログ)を参照。
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一つ目は、「2. 地域および世界情勢」の「難民・国内避難民」に関する項目である。
「2030アジェンダ」の目標16(持続可能な開発のための平和で包摂的な社会を促進し、すべての人々に司法へのアクセスを提供し、あらゆるレベルにおいて効果的で説明責任のある包摂的な制度を構築する)に触れつつ、「難民及び国内避難民を保護及び支援し、コミュニティーにおける能力の構築と強靱性の向上を行うことのコミットメントを強化し、かつ、関連国際機関の取組を支持することを緊急に呼びかける」としている。
二つ目は、「3. 地球規模課題」の「アフリカ」に関する項目である。
8月にケニアで開催される第6回アフリカ開発会議(TICAD VI)などの機会を通じて、「アフリカ各国のオーナーシップに基づくアフリカ全土における平和と持続可能な開発を支援するために、アフリカ諸国との二国間及び多国間パートナーシップに投資するとの我々のコミットメントを再確認する」としている。TICAD VIについては伊勢志摩サミットの開発議題に含まれている。
三つ目は、同じく「3. 地球規模課題」の「国際保健と国際保健安全保障」である。
「誰もが、どこでも、お金に困ることなく、自分に必要な質の良い保健・医療サービスを受けられる状態」を指す「ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ」の実現を目指し、持続可能で柔軟な保健システムの推進という文脈で、「アジェンダ2030」の目標3(あらゆる年齢のすべての人々の健康的な生活を確保し、福祉を促進する)に触れ、「国際的達成のための外交政策の役割を再確認する」としている。
国際保健については、G7伊勢志摩サミットの主要議題であり、「ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)の推進に向けて、エボラ出血熱などの教訓を受けた公衆衛生危機への対応や、母子保健から生活習慣病・高齢化までを視野に入れたライフコースを通じた保健サービスの確保等について」、議論を行う予定である。なお、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジを紹介する原文では「sustainable and resilient health systems」であり、「resilient」とは災害などの危機的状況からの回復力を指す言葉である。外務省は「強靭な」と翻訳しており、本来の意味の一部分しか伝えていない。
以上見てきたように、持続可能な社会への移行を目指す「2030アジェンダ」については3カ所に渡り、重要な論点がちりばめられている。
しかしながら、「2030アジェンダ」は、環境・経済・社会のあらゆる課題を包含した全体的な土台をなすものである。どの課題においても同アジェンダに示された問題意識と原則、目標、達成手段等と照らし合わせて、取り組む手法の「変革」が求められている。
本来であれば同アジェンダは、国際関係を主導する外相会合共同コミュニケの一項目として独立して記述されるべきである。共同コミュニケでは、同アジェンダ実施に関する明確な政治的意志をより具体的な文言として記述すべきであり、個別項目にて言及されるのみにとどまったことは残念である。
同アジェンダについて、日本政府は3年以上に渡って国内外での議論をリードし、市民社会とも定期的な対話を行なってきた。G7伊勢志摩サミットの主要議題でも「今後のアジェンダの実施には、民間・市民社会を含むあらゆるステークホルダーが参加するグローバル・パートナーシップが不可欠です。
G7として、かかるパートナーシップの下でSDGsを含む2030アジェンダの実施を積極的に主導していく必要があります」と触れられている通り、政府と民間・市民社会のパートナーシップによって持続可能な社会への移行を目指さなければならない。
さらに残念なのは、日本のマスメディアにおいて、上述したような地球規模課題について、ほとんど報じられていないことである。核保有国の原爆資料館の訪問や「核のない世界」に向けた「広島宣言」など、日本開催ならではの重要な動きと同時に、G7諸国が責任を持って取り組むべき地球規模課題についても腰を据えた報道を期待したい。