セシウムと結合し植物への吸収抑える化合物

セシウムに対する植物の耐性を高める化合物を、理化学研究所環境資源科学研究センターのアダムス英里(えり)特別研究員、申怜(シン リョン)ユニットリーダーらが発見した。

セシウムに対する植物の耐性を高める化合物を、理化学研究所環境資源科学研究センターのアダムス英里(えり)特別研究員、申怜(シン リョン)ユニットリーダーらが発見した。この化合物はイミダゾール環を持つ有機化合物のシストレンAで、セシウムと選択的に結合し、植物のセシウム取り込みを抑制することを実証した。農作物への放射性セシウム移行を減らす技術開発への一歩となる成果といえる。南デンマーク大学との共同研究で、3月5日付の英オンライン科学誌サイエンティフィックリポーツに発表した。

2011年3月の東京電力福島第一原子力発電所の事故で大量の放射性物質が拡散し、特にセシウム137が水田や畑など農地を含む広範囲の土壌を汚染した。セシウム137は半減期が30年と長く、土の中の粘土や有機物と強く結び付く。4年経過した現在も、汚染が激しかった地域では農産物を生産できない。これまでの研究で高濃度のセシウムが植物の生長を阻害することや、化学的性質が似ているカリウムの取り込み経路がセシウムの取り込みに関わることがわかっている。しかし、植物の応答の詳細な仕組みは謎だった。除染対策や作物の安全確保に向け、植物がセシウムを取り込む仕組みの解明が急務となっている。

研究グループはまず、植物のセシウム耐性を増大させる化合物を探した。約1万種の化合物を片っ端から調べ、セシウム耐性を高める化合物として5種類を選んだ。それぞれの化合物を入れた培地で育てたモデル植物のシロイヌナズナを分析したところ、シストレンAに植物体内のセシウム蓄積量を著しく下げる効果があることを突き止めた。

さらに、量子力学的理論モデリングによるコンピューターシミュレーションで、シストレンAがセシウムに選択的に結合していることを示し、植物に取り込まれにくくなっている仕組みを分子構造レベルで裏付けた。また、土壌でのシロイヌナズナの栽培でも、シストレンAを投与すると、セシウム取り込みを抑え、セシウムによる生長阻害を回避することを確認した。一連の実験は、放射性セシウムと同じ挙動をする非放射性のセシウムで実施した。

アダムス英里さんらは「シストレンAが生態系に無害で、長期に安定して存在するかはわからないので、田畑にすぐ散布できるわけではない。しかし、セシウムの植物への吸収を抑制できることが解明され、同様の仕組みの化合物を合成する手掛かりは得られた。その点に意義がある。この研究が福島の放射性セシウムの汚染地域で営農再開に向けた一助となるよう期待している」と話している。

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・理化学研究所 プレスリリース

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