致死率が高いマールブルグウイルスとエボラウイルスの両方に結合できるヒト抗体を突き止め、ウイルスが細胞に侵入する際に欠かせないGPタンパク質とこの抗体との複合体の立体構造を初めて解明した。

致死率が高いマールブルグウイルスとエボラウイルスの両方に結合できるヒト抗体を突き止め、ウイルスが細胞に侵入する際に欠かせないGPタンパク質とこの抗体との複合体の立体構造を、九州大学大学院医学研究院ウイルス学分野の橋口隆生(はしぐち たかお)助教らが初めて解明した。抗体がウイルスの細胞侵入を阻害する仕組みだけでなく、抗体医薬や抗ウイルス薬、ワクチンの開発につながる新しい手掛かりとなりそうだ。米国のスクリプス研究所のエリカ・サファイア教授、ヴァンダービルト大学のジェームズ・クロウ教授らとの国際共同研究で、2月26日付の米科学誌セルに論文を発表した。

2014年以降、エボラ出血熱が西アフリカ3カ国を中心に流行し、世界的な脅威となった。マールブルグウイルスは、エボラウイルスとともに、ひも状のフィロウイルス科に属し、危険性も非常に高い。マールブルグ出血熱は1967年、初のアウトブレイク(限定範囲での感染流行)が欧州で確認された。ウガンダから輸入したアフリカミドリザルの腎臓細胞の培養に従事した研究者や治療に当たった医療関係者32人のうち7人が死亡した。その後も、エボラ同様に散発的な流行が続いている。ともに予防や治療が大きな課題である。

両ウイルスが人体内の細胞に侵入するには、ウイルス表面のGPタンパク質がヒトの細胞の受容体と結合することが必要となる。一方、GPタンパク質は、体内の免疫応答で作られる抗体がウイルスを排除するために主に攻撃の標的とする分子でもある。研究グループは、マールブルグ出血熱の感染生存者の免疫細胞から抗体を複数選び出し、その中にマールブルグウイルスにもエボラウイルスにも結合する能力のある抗体が存在することを見いだした。この抗体の一つをMR78と名付けた。

この抗体と結合した状態のGPタンパク質を大量に精製して結晶化し、高エネルギー加速器研究機構の放射光施設フォトンファクトリーのX線を使い、結晶構造を原子レベルで解析した。その結果、抗体MR78は、エボラウイルスとマールブルグウイルスのGPタンパク質の非常に類似したアミノ酸配列を立体的に認識して結合することがわかった。マールブルグウイルスが抗体MR78と結合する領域は、細胞の受容体と結合する部位と一部重なっているため、抗体はマールブルグウイルスの感染を効果的に中和することができると考えられた。

さらにX線小角散乱解析から、マールブルグウイルスにもエボラウイルスにも存在する糖鎖に富むムチン様ドメインの配置が異なり、中和抗体による両者の反応性の違いが構造に起因するという結果が示された。両ウイルスとも有効な予防法や治療法がないため、マウスの感染実験や培養などは、高度な安全対策が施された米国のバイオセーフティーレベル4(BSL4)実験室で実施した。

橋口隆生助教は「抗体とGPタンパク質の複合体構造の解明で、マールブルグ出血熱やエボラ出血熱への抗体医薬やワクチン、抗ウイルス薬を開発する手掛かりが得られた。同じ抗体が両ウイルスに結合する事実は、フィロウイルス科すべてに有効なワクチンの可能性を初めて示した。この立体構造は国際機関のタンパク質データバンク(PDB)に登録しており、世界の研究者が無料で自由に利用できる。エボラ出血熱などの研究の加速に役立つよう期待したい」と話している。

関連リンク

・>九州大学 プレスリリース

注目記事