『激変するインドIT業界 バンガロールに行けば世界の動きがよく見える』(武鑓行雄著、カドカワ・ミニッツブック)という電子書籍が出た。インドITのことは知っているという人もいると思うが、この本には、ちょっと"マインドチェンジ"させてくれるメッセージが含まれていると思う。

激変するインドIT業界 バンガロールに行けば世界の動きがよく見える』(武鑓行雄著、カドカワ・ミニッツブック)という電子書籍が出た。インドITのことは知っているという人もいると思うが、この本には、ちょっと"マインドチェンジ"させてくれるメッセージが含まれていると思う。

映画『スラムドッグ$ミリオネア』(2008年、加・米)は、インドで電話サポートの仕事をする主人公が、テレビのクイズ番組で優勝する話である。あの映画が、ちょうどクラウドコンピューティングがIT業界で広がったのと同じ頃に作られたのは偶然ではない。一緒に見ておくべきはトーマス・フリードマンの『フラット化する世界』(伏見威蕃著、日本経済新聞社)で、あの本で突きつけられた"世界の仕組み"を変化させる原動力の1つがインドのポテンシャルだった。英語ができて、頭もかしこく、しかも活力に満ちている。

この本が、いままでのインドITを紹介した本と違っているのは、まず"現地発"というのがある。武鑓行雄さんは、ソニーのワークステーション「NEWS」や、PCの「VAIO」などのソフトウェアを担当(私も月刊アスキーの編集長の時代にお世話になった)。2008年にインドに赴任して、現在はソニー・インディア・ソフトウェア・センター社社長という職務にある。そして、もうひとつ新しいのが題名の"バンガロールに行けば世界の動きがよく見える"と書いている部分である。

これには、電話サポートから企業管理部門のオフショア(業界ではBPOと呼びますね)、ネットから組み込み系や金融・航空まであるソフトウェア開発、さらには最新CPUの設計までインドで行われているという現実がある。これだけやっている現地で仕事をしていたら、東京はもちろんのこと、米国シリコンバレーにいるよりも世界が見えるというものだ。

そのままの意味で、日本企業も「インドのソフトウェア企業に発注するのではなく、インドに拠点を構えるべきだ」ということも書かれている(しかも仕事のスタイルはおのずとグローバルスタンダードになる)。本ではあまり触れていないが、バンガロールはデカン高原にあるので「インドの軽井沢といえる気候的な過ごしやすさ」もあるそうだ。そんなことも重要ではあるのだが、それよりも武鑓さんが伝えたかったのは、"世界が見える"ことのもっと考え方の部分だと思う。

"マイクロコンテツ"と呼ばれる電子書籍の形態なので(30分で読めると書いてある)、買って読んでもらうほうが早いのではあるが、私が、まさに"マインドチェンジ"させられる気分になったのは、たとえば、次の3つの例のようなことだ。

■これをリバースイノベーションと呼ぶのだ

「ナラヤナ・フルダヤラヤ」という病院では、米国で2~10万USドルかかる心臓手術を10分の1の2000USドル以下で行っている。あらゆる経営努力をしていて、高い機材は使わず家庭用テレビを医療機器に接続したり、保険のような仕組みを作って貧しい人でも治療が受けられるようにもしている。すでにバングラデシュに病院を設立して遠隔医療を行うなど、こうした貪欲で多層的なイノベーションが新興国からグローバルに広がる。

■国民ユニークID「AADHAAR」が成功している

武鑓さんに以前うかがって最も興味深かったのが、両手10本の指と両目の虹彩を登録、これを氏名・住所・顔写真とヒモ付けしてランダムな12桁のユニークIDを発行するというプロジェクトだ。2009年に大手ソウトウェア企業インフォシスの元共同経営者ナンダン・ニレカニ氏を担当大臣にすえ、2013年11月時点で国民の3分の1以上にあたる約5億人がすでに登録済みだ。強制ではなく、希望者のみ無料で登録できる。これでいままで銀行口座の開設もままならなかった層も含めて具体的なメリットが得られる。

■スタートアップはインドからも世界へ

モバイル広告で世界第2位ともいわれる「インモビ」(inmobi.com)はインドで誕生した会社だ。ネット通販は、インド社会には向かないといわれていたが「フリップカート」(Flipkart.com)という会社が大成功。スタートアップではないが、グーグルの「MapMaker」は、ランドマークを目安に移動するインドで考えられ世界に拡大中である。今後10年間に1万社のスタートアップがインドで誕生するともいわれ、それまでには、世界がそのお世話になっている可能性がある。

こうした事例を読んでいて感じるのは、あらためてソフトウェアの可能性は無限だということだ。インドは、それをさまざまな次元で生かして、さまざまな課題や未来につなごうとしている。日本は、どうなのか? 同じようにはできないのだが、利用技術的なところでたぶんチャンスはある。そこが、ソフトウェアのすばらしいところのはずである(たとえば原価が絶対的な縛りとなるような製造ではハードルは一段上がるだろう)。

いま日本でなにかのシンポジウムに参加すると、優先課題があってそれの答えが見つからないと言っているときに、デジタルという選択肢なしに議論していると感じることがある。個人は、ネットやスマホでお金がかからないように、自分の手の届かないことはコミュニティの力を借りるようになってきているのになぜなのか?

一昨年、私は、たまたま元同僚でその後に武鑓さんの下で仕事をしていた石川さんに紹介されてバンガロールに出かけて驚いたし楽しかった。まずは、インドの空気を吸ってくるだけでもよいかもしれません。

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