裁判員制度は5月21日でスタートから丸9年となり、制度開始10年目を迎えます。裁判員ネットでは、これまでに345人の市民モニターとともに650件の裁判員裁判モニタリングや裁判員経験者へのヒアリングも実施し、裁判員裁判の現場の声を集める活動を行ってきました。この「市民からの提言」は、裁判員制度の現場を見た市民からの提案です。裁判制度の現状と課題を整理し、具体的に変えるべきと考える点をまとめました。今回は最後の提言⑭を紹介します。
<提言⑭>
市民の視点から裁判員制度を継続的に検証する組織を設置し、制度見直しを3年毎に行うこと
1 現状と課題
裁判員制度は、市民が司法に直接参加する制度です。裁判員制度のあり方について、法律の専門家だけではなく、司法の新しい「担い手」となった市民の声を反映させることが大切です。
裁判所は裁判員経験者を招いての意見交換会を開いたり、裁判員経験者へのアンケート調査を行ったりしています。このような形で市民の声を集める試みは、専門家にとっては有意義な機会となっています。しかし、アンケートや意見交換会の枠組みでは、市民が制度を検証する主体となっているわけではありません。裁判員制度の検証は、専門家が主導する場だけではなく、市民が主体的に裁判員制度の検証を行う機会も必要ではないでしょうか。
2015年の裁判員法改正では、国会審議で同改正から3年経過後に制度の見直しを検討する規定が盛り込まれました。衆議院法務委員会では、「本法の附則に基づく三年経過後の検討の場を設けるに当たっては、国民の視点からの見直しの議論が行われるよう、裁判員経験者、犯罪被害者等の意見が反映されることとなるように、十分に配慮すること」、「本法の附則に基づく三年経過後の検討に当たっては、死刑事件についての裁判員制度の在り方、性犯罪についての対象事件からの除外などの犯罪被害者等の保護の在り方、否認事件への裁判員参加の在り方、裁判員等の守秘義務の在り方等、当委員会において議論となった個別の論点については、引き続き裁判員制度の運用を注視し、十分な検討を行うこと」との附帯決議が可決され、上川法務大臣(当時)が「附帯決議につきましては、その趣旨を踏まえ、適切に対処してまいりたいと存じます」と答弁しました。※1
裁判員制度は常に市民が関与しながら動き続けるものです。その動きを市民の視点で継続的に検証する仕組みが不可欠です。※2
2 具体的な提案
裁判員経験者を含めた「裁判員制度に関する市民検証委員会」(仮称)を設置し、市民の視点からも継続的に裁判員制度を検証する体制をつくることを提案します。
この市民検証委員会は、裁判員経験者など市民を中心とした組織で、例えば裁判員裁判のモニタリングや、裁判官との模擬評議を行うなどして、継続的に裁判員裁判の運営状況を観察し、課題点があれば、改善にむけての助言や勧告を裁判所や法務省に対して行うことができる組織です。
また、裁判員制度は常に市民が関与しながら動き続けるものであり、市民による不断の検証が必要であることから、3年毎に制度の見直しを行うように裁判員法の附則で定めるべきです。
※1 第189回国会 衆議院法務委員会会議録 第14号(2015年5月15日)
※2 法務省の「裁判員制度に関する検討会」では検討会閉会にあたり、委員からも「これからも引き続き
政府におかれては定期的・継続的な検証を是非是非実施していってほしいと希望いたします」との発
言がありました(裁判員制度に関する検討会(第18回)議事録)。
1.市民の司法リテラシーの向上に関する提言
<提言①>無罪推定の原則、黙秘権の保障などの刑事裁判の理念を理解できるような法教育を行うこと
<提言②>無罪推定の原則、黙秘権の保障などの刑事裁判の理念を遵守するように、公開の法廷で、説示を行うこと
2.裁判所の情報提供に関する提言
<提言③>裁判員裁判及びその控訴審・上告審の実施日程を各地方裁判所の窓口及びインターネットで公表すること
<提言④>裁判員だけではなく、裁判員裁判を担当した裁判官も判決後の記者会見を行うこと
3.裁判員候補者に関する提言
<提言⑤>裁判員候補者であることの公表禁止を見直すこと
<提言⑥>裁判員候補者名簿掲載通知・呼出状の中に、裁判を傍聴できる旨を案内し、問い合わせ窓口を各地方裁判所に用意すること
<提言⑦>裁判員候補者のうち希望する人に「裁判員事前ガイダンス」を実施すること
<提言⑧>思想良心による辞退事由を明記して代替義務を設けること
4.裁判員・裁判員経験者に関する提言
<提言⑨>予備時間を設けることで審理日程を柔軟にして、訴訟進行においても裁判員の意見を反映させる余地をつくること
<提言⑩>裁判員の心のケアのために裁判員裁判を実施する各裁判所に臨床心理士等を配置すること
<提言⑪>守秘義務を緩和すること
5.裁判員制度をより公正なものにするための提言
<提言⑫>裁判員裁判の通訳に関して、資格制度を設けて一定の質を確保するとともに、複数の通訳が担当することで通訳の正確性を担保すること
<提言⑬>裁判員裁判の控訴審にも市民参加する「控訴審裁判員」の仕組みを導入すること
<提言⑭>市民の視点から裁判員制度を継続的に検証する組織を設置し、制度見直しを3年毎に行うこと