中間選挙の開票が始まった夜、私はニューヨーク・マンハッタンのとあるバーにいた。
「選挙速報番組をみんなで見て、お酒を飲みながら議論しあおう!」というイベントが開かれていたからだ。
アメリカ時間11月6日の夜、こういった企画が行われていたのは決してここだけではない。
私が数えた限り、マンハッタンだけでも少なくとも10以上の会場でこういったイベントが開催されていたし、イベント告知がなくとも、テレビのある飲食店では選挙速報が流れていて、皆がその行方にくぎ付けになっていた。
私はこの選挙速報ウォッチイベントに参加する前の腹ごしらえとして"テレビの無い"レストランに友人と食事に行ったのだが、普段は予約の取りにくい人気レストランが最初から最後まで私たちだけの貸し切り状態になったのには本当に驚いた。
それだけニューヨーカーたちも注目していた今回の中間選挙だった。
さて、そのバーで開催されたイベントについて話を戻そう。
座れる席もなくぎゅうぎゅうのバーの中には、おしゃれな若者を中心に沢山の人が集まっていた。
こういった政治関連のイベントに、友人などを誘って気軽に来ることができる点は日米の大きな違いだと常々思う。
ただ実際に参加してみて気づいたことがあった。
「これ、完全に民主党の応援イベントだわ。」
というのも、アメリカの地図に青色(民主党のテーマカラー)が塗られるたびに、まるでアメリカンフットボールの試合で得点が決まったかのような参加者の大歓声が巻き起こるのだ。
実は今回、色々なアメリカ国民の意見を知りたいとの思いから、どちらかの党の支持者だけしかいないようなイベントには参加したくないなぁと思い、なるべく公平な雰囲気が感じられたイベントに参加したつもりだった。
しかしアメリカの中でも有数のリベラル派が多数を占めるマンハッタンで、そのような場を探すことは「ほぼ無理」だと気づく。
「自由の国アメリカ」で、自由を奪われたと感じた瞬間だった。
ここで少し私の経歴をご説明させていただくと、アメリカ大統領選挙が行われた2016年にアメリカの南部ノースカロライナ州という場所で暮らした後、2017年からニューヨークを拠点としている。
思い起こせば、トランプ大統領が、北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長との会談を実現させたのは私がニューヨークに引っ越した後なわけだが、以前私が「まぁトランプ大統領、色々だめな所もあるけど、こうやって会談を実現させちゃうのは凄いよね」と発言した時、
すかさず横にいたニューヨーカーから、
「あなた気をつけた方がいいわよ、そんなこと言っていたら誰かに後ろから刺されるわよ!」
なんてことを、冗談半分だろうが言われて、ドキッとした記憶がある。
一方、2016年に南部ノースカロライナ州に住んでいた頃は、当たり前のように共和党支持者、そしてトランプ支持者が周囲にいた。
大統領選挙の時にノースカロライナ州で行われたヒラリー陣営、トランプ陣営、両方のラリーを取材したが、盛り上がりの度合いでは個人的な感覚としてトランプ陣営の勢いが圧倒的だった。
ノースカロライナでは、少し車を走らせると周囲一帯がTRUMPと書かれた看板を掲げるエリアに到着する。
ここはここで、もし「やっぱり私はトランプのことは支持できないわ」なんて口走ってしまったら、せっかく購入したマイホームを手放さなくてはならないかもしれないだろう。
今回、日本のメディアでは、「野党・民主党が下院で8年ぶりに過半数を奪還した」というニュースの伝えられ方がほとんどだが、その裏で、上院では共和党が過半数を維持、下院でも多くの共和党候補者が当選しているのも事実だ。
これだけトランプ大統領に関するネガティブなニュースが世間を騒がし続けた約2年間で、「なぜいまだにこんなに多くの共和党支持者がアメリカに?」と思われる方もいるかもしれない。
中間選挙後に話を伺ったニューヨーク在住のアメリカ人も「トランプを支持して共和党候補者に票を入れた人の気持ちが分からないわ」と口を揃える。
ただ、アメリカ南部の州に住んだ経験のある私から見れば、何も不思議なことはない。
「住む地域によって支持政党が分かれ、他の意見を許さないような環境がある事実」が、私の中で、今回の選挙結果を納得させる理由の一つになっている。