※前回の記事「杉田水脈議員の言動の、何が問題なのか?(1)政治家による差別煽動の効果」の続きです。
いま杉田議員への批判が殺到しているが、そのほとんどが『新潮45』記事(杉田記事)の内容に向けられているようだ。
だが、杉田記事が批判されて以降の杉田議員の言動にも、じつは大きな問題があった。
端的に言ってしまえば、杉田水脈議員は『新潮45』記事以後も、さまざまな言動によって、差別を助長しかねない発言を続けている、のである。
今回は杉田記事後の杉田議員の言動を振り返り問題点を指摘したい。
1)ツイッターでLGBTはマイノリティではないと公言(7月18日)
杉田議員は『新潮45』記事のなかで、
LGBTのカップルのために税金を使うことに賛同が得られるものでしょうか。彼ら彼女らは子供を作らない、つまり「生産性」がないのです。そこに税金を投入することが果たしていいのかどうか。(58~59ページ)
などと書いた。
これに対し尾辻議員が、
杉田水脈自民党衆議院議員の雑誌「新潮45」への記事。LGBTのカップルは生産性がないので税金を投入することの是非があると。LGBTも納税者であることは指摘しておきたい。当たり前のことだが、すべての人は生きていること、その事自体に価値がある。 pic.twitter.com/5EbCaMpU9D
— 尾辻かな子 (@otsujikanako) July 18, 2018
と批判すると、杉田氏は、
尾辻先生、税金を投入する=福祉を活用する人=社会的弱者です。LGBTの方々は社会的弱者ですか?LGBTの方々でも、障害者の方は障害者福祉を低所得者の方は低所得者福祉を高齢者の方は高齢者福祉を受けられます。年金も生活保護も受けられます。当たり前のことです。(続く) その点に於いて日本の中で何ら差別されていないし、また差別すべきではないと思います。納税者として当然の権利は行使できます。その上で、何かLGBTの方々だけに特別に税金を注ぎ込む施策は必要ですか?
と反論した(ツイートは現在は削除。テキストはこちらのサイトの記録から)。
これについて私は2つのことについて指摘したい。
まず、セクシュアルマイノリティが税金を使った差別解消策を講ずべき程のマイノリティではないという主張は、容認できない。日本でセクシャルマイノリティは極めて深刻な差別を受けている(詳しくはアムネスティ日本の「日本における LGBT の人びとへの差別~人権保障の観点から~」などを参照)。
2つ目は、こうした「持論」を、あえてレズビアンを公言している尾辻かな子議員に、「質問」という形でぶつけていることだ。さまざまな問題があるがここでは2つ指摘しておこう。
第一に、杉田議員はマジョリティの立場から、セクシュアルマイノリティの当事者である尾辻議員に対して、セクシュアルマイノリティはマイノリティなのか?と問うている。
このやり方は、マイノリティにあえて苦しみを与えるやり方ではないか? マジョリティの側が社会で生み出したはずの差別や差別の被害の証明を、被害を被るマイノリティの側に押し付けているからだ。
第二に、杉田議員のツイートは、セクシュアルマイノリティの存在否定を、税金を使うべきか否かという問いに絡めている。こうなると、たとえ尾辻議員が反論したとしても、世間的には「何かLGBTの方々だけに特別に税金を注ぎ込むような施策」を要求しているというネガティブなイメージを喚起することができる。
(このとき、他の議員が勇気をもって杉田議員のツイートに介入して、あえて尾辻議員に向けてセクシュアルマイノリティへの差別被害やマイノリティ性を否定するツイートをするのは問題だ、と公言すべきだったと私は思う。この点については次回以降にまた解説する予定だ。)
2)自分の主張を擁護する文脈で、自民党の「大臣クラス」と「LGBTの理解促進を担当している先輩議員」が『新潮45』記事を全面的に肯定している、と主張している(7月22日)
杉田議員は、
自民党に入って良かったなぁと思うこと。 「ネットで叩かれてるけど、大丈夫?」とか「間違ったこと言ってないんだから、胸張ってればいいよ」とか「杉田さんはそのままでいいからね」とか、大臣クラスの方を始め、先輩方が声をかけてくださること。 今回も他党の議員が私が雑誌に書いた記事を切り取り
ネットに出したことで色々言われています。LGBTの理解促進を担当している先輩議員が「雑誌の記事を全部読んだら、きちんと理解しているし、党の立場も配慮して言葉も選んで書いている。言葉足らずで誤解される所はあるかもしれないけど問題ないから」と、仰ってくれました。自民党の懐の深さを感じます
とツイートしていた。(現在は削除。テキストはこちらのサイトの記録から)
持論を擁護するために先輩議員が支持してくれていることをツイートすること自体に問題があるわけではないだろう。
だが今回のようにツイートする場合、LGBTに「『生産性』がない」などという差別的な「持論」が自民党幹部という権威によって正当化され助長される効果を生むのではないだろうか?
(この時点で、自民党幹部が公的に杉田議員の『新潮45』記事を差別であると批判していたならば、杉田議員の言動がもつ差別の助長・煽動効果を早いうちにある程度は抑制することができたのではないだろうか?)
(また、この時点で、マスコミやジャーナリストから、杉田議員の言う「大臣クラス」議員と「LGBTの理解促進を担当している先輩議員」が誰であるかを追求し、自民幹部の責任を追及できていれば、杉田議員の言動が持つ差別の助長・煽動効果をある程度は抑制できていたのではないだろうか?)
3)大きな批判を浴びた『新潮45』記事関連のツイートをすべて削除した理由を、「持論」が差別であり間違っていたからではなく、「ゲイだと名乗る人間」から殺害予告を受けたことに求め、それをツイートした(7月23日)
杉田議員は『新潮45』記事関連のツイートをすべて削除した理由を次のようにツイートしている。
北海道に旅立つ前に赤坂警察署に来ました。先日、自分はゲイだと名乗る人間から事務所のメールに「お前を殺してやる!絶対に殺してやる!」と殺人予告が届きました。これに対して被害届を出しました。警察と相談の上、一連のLGBTに関連する投稿は全て削除いたしました。 pic.twitter.com/DJH7fzrrjc
— 杉田 水脈 (@miosugita) July 23, 2018
このツイートが心無いゲイ差別ツイートに利用されている事実については前回書いた。
前回書かなかったが、このツイートは今回記事でとりあげた、7月18日の尾辻議員への反論ツイートや、22日の自民幹部が「持論」を支持したとするツイートが投稿されるという流れの中で投稿されていた。
じつは差別の社会的効果を考える上では、このような事態の経緯や文脈がとても大事になると言われている。次回はこの点に関連する、政治家の差別の社会的差別煽動効果について、解説したい。
(つづく)
2018年7月28日午後6時