商業誌からインディーズへ!「あにめたまえ!天声の巫女」が切り開いた道 ── Rebisさんへのインタビュー(前編)

商業誌を飛び出し、個人で「」の連載を続けているRebisさん。
「あにめたまえ!天声の巫女」 (C) Rebis

商業誌を飛び出し、個人で「あにめたまえ!天声の巫女」の連載を続けているRebisさん。『月刊群雛 (GunSu) 2014年11月号』掲載のインタビューを公開します。前編です。

小説家かTRPGのデザイナーになりたかった

── まずは『あにめたまえ!天声の巫女』第一巻の発売、おめでとうございます。

Rebis ありがとうございます。

── 改めてウェブサイトを拝見させて頂いたのですが、漫画やイラストだけではなく、ゲームの脚本など幅広いお仕事をされていて、すごいな! と思いました。

(編注:公式ウェブサイトは、仕事用全年齢向けの『REBIS REGION』と、18禁の『REBIS DUNGEON』と、2つあります)

Rebis ありがとうございます。もともと僕は、小説家かテーブルトーク・ロールプレイングゲーム(以下、TRPG)のデザイナーになりたかったんです。高校とか大学時代の初期くらいまでは、そういった職業を目指して活動していました。小説の新人賞に応募したり、ゲームの雑誌に投稿したり。そうしているうちに、徐々に同人の漫画の方で人気が出てきて活動できるようになって、いつのまにかそっちにどんどん進んでいってしまって。

── あ、そうだったんですね。専門分野はファンタジーと東洋哲学とのことですが、イラストもクトゥルフ邪神やドラゴンだったり、ひげもじゃのおっさんから柔らかくて可愛い女の子まで多彩ですね。

Rebis 描いている量としては女の子の絵が一番多いんですが、元々ファンタジーやTRPGが大好きだったんです。今でもやっぱり、機会があれば仕事なり、作品なりで書きたいなというのがあります。ゲームの脚本の仕事というのは昔やりたかったことに近いものがあるので、そういうチャンスをもらえたのが嬉しくて頑張ってやらせて頂いてます。

── シナリオのメイキングもできて、絵も描けて。漫画家の方って、両方できる方が多いですよね。

Rebis そうですね。お一人で描かれている方は、シナリオ面も考えていることになりますよね。もし少し違うところがあるとすると、僕はちょっとゲーム寄りの考え方をするところだと思います。漫画だと決めないところ......主人公の行動によって変わっちゃうところに遊びを持たせて、こっちに行ってもそっちに行っても、どっちに行ってもいい、みたいな話を書くのが得意なんです。

── そうするともしかしたら、普通のストーリーラインがあって、アナザーストーリーみたいな、Aサイド・Bサイドみたいな漫画を描くことも?

Rebis 漫画とゲームの融合みたいなものは、気になるところではありますね。ただ、漫画って描くこと自体にコストや労力が相当かかるので、もしやるとしたら、漫画のキャラクターや世界を使いながらゲームとかイラスト付きのノベルみたいな形の方が現実的かもしれないですね。

── TRPGというと、どの辺りを?

Rebis 僕が最近やってるのは、元祖の『ダンジョンズ&ドラゴンズ』(D&D)です。ニコニコ生放送で、プロの声優さんたちと一緒に(TRPGの実プレイ風景を)生配信する企画をやらせて頂いてます。ただ、中学や高校時代は、自分で作ったTRPGで遊んでました。

── おお、すごい。

Rebis 高校時代は授業中にシナリオを書いて、放課後にそれで遊んでというのを毎日やってました。そうすると、毎日、毎日、小さいお話をいっぱい考えていたことになりますよね。漫画のしっかりした話を描く訓練は受けてないんですけど、「高校時代、運動部だった」みたいな意味では、「TRPG部だった」ような感じで、毎日、毎日お話を書いてました。今思うとそれが、お話を創る上での〝筋力〟を付ける訓練になっていたのかな、という感じです。

野良の漫画家と名乗っている理由

── ご自身のことを「野良の漫画家」とおっしゃっていますね。

Rebis 僕は「漫画家」と名乗れない期間が長かったんです。自分の自信も含めて。やっぱり、連載をして単行本が出て初めて「漫画家です」と名乗れると思うんです。漫画家と名乗れず「同人作家なんです」みたいな期間が長かった。ところが、僕の親友で小説家の深見真先生が、僕をご友人に紹介する時に「漫画家のRebisさんです」と紹介してくださる機会があったんです。初めのうちは謙遜して「いやあ」みたいな感じもちょっとあったんですけど......やっぱり彼がそうやって紹介してくれるからには、もう仕事もそこそこしていることだし「よし、漫画家って名乗ろう!」と決めて、それ以来「漫画家のRebisです」と名乗るようにしました。ただ、今は連載誌を飛び出して自分で連載している状況なんで、宮仕えしていないというような意味で「野良の」と書いてます。

── 商業誌でデビューしたきっかけは何だったんですか?

Rebis デビューまでは結構長くて、成人向け漫画と、一般向け漫画とで、ある意味、2回デビューしているような感覚で、自分にとってはそれぞれ違う、一個一個別の実績みたいな感じなんです。成人向けは、同人誌を見てくださった編集さんからのメールがきっかけです。一般向けは『月刊電撃コミックガオ!』での読み切りデビューなんですけど、当時、ミクシィに漫画家コミュニティがあって、そのイベントで(知り合いの)イラストレーターさんから、(ガオの)編集さんをご紹介頂いたんです。そのイラストレーターさんが「漫画描けって言われてるんだけど、ちょっと忙しくてできないんで、紹介しましょうか?」みたいな感じで。「ぜひご紹介ください!」って、描かせて頂いたのが最初です。

── へー! ミクシィですか。

Rebis ただ、その前も一般漫画の連載デビューを目指してずっと活動はしていて、今描いている『あにめたまえ!天声の巫女』のプロトタイプをあちこち持って行ったり見て頂いたりしていました。

── そういえばブログに、初期の頃とかなり顔が違っていたという記事がありましたね。

Rebis そうですね。実は今回、単行本の特典で、昔描いた設定をまとめた小冊子も作りました。そういう意味では、長いこと温めていて、やっと連載にこぎつけて世に出たと思ったら、今度は飛び出しちゃって。波瀾万丈なんです(笑)

── 商業誌の連載で楽しかったこと、辛かったことを教えてください。

Rebis まず、楽しかったことは、実際に雑誌に掲載され、印刷されている商業誌を本屋さんで見たことです。特別な感動がありましたね。それに加えて、巻末の読者ファンコーナーで、僕の漫画のキャラクターイラストをはがきに描いて送ってくださった方がいて、そういうのは経験したことがなかったので嬉しかったです。さらに嬉しかったのは、今回、連載を独立させるという話になって、ブログを作って、あちこちでニュースになってという過程で、その方からブログに「あの絵を描いて投稿した者です」というコメントを頂いて、「ああ、まだ注目していてくださったんだ!」ということがありまして。あれはまたちょっと違った嬉しさがありました。辛かったことは、まさにそれをきっかけとして今の状態になっているので、(他に)特にこれというのはないのですけど。

(編注:ブログによると「あにめたまえ!」の連載時には、入稿後にセリフを変更されたり、人称の変更を要求されたりなど、担当編集者と漫画に対する見解の相違・仕事習慣の違いが続き、第4話の締め切り間際に「指導に従えないなら打ち切り」と宣告された)

「あにめたまえ!天声の巫女」 (C) Rebis

雑誌連載から飛び出した!

── 私がRebisさんを知ったのは、ツイッターで流れてきた「【雑誌を飛び出して、一人で連載する冒険の旅へ!】 - あにめたまえ! 一人で連載ブログ」の最初の記事がきっかけでした。すごい勇気だ! これは是非応援したいな、と思って。

Rebis ありがとうございます。そうですね......あの時は精神的にもいろいろ辛くて、連載最終回、といっても4話目なんですけど、描いてる最中は毎日憂鬱で、精神的に追い詰められている状態が続いて、「この先どうしよう」というのがずっとありました。ちょっと言い方は悪くなってしまいますけど、漫画家というのは何か大変なことがあったら、作品を人質に取られてしまうようなところがありますよね。自分が愛しているものがまずあって、それは維持しなければいけない。その中でどうやっていくのか、というのがそれぞれのテーマというか、皆さん苦労なさっている点かな、と。もちろん順調な方もいっぱいいると思うんですけど、何か大変なことがあったときに、じゃあ連載はどうするの? この作品終えちゃうの? というところで苦労される方って、(他にも)いるんじゃないかなと思うんです。僕はあの時、とにかくこの漫画を描き続けたいな、というのがあって。終えたら打ち切りになってしまうし、続けてもあまりいい風には続かない感じだったんです。もちろん、実際に雑誌で描き続けたわけではないので、「絶対こうなっていた」とは言い切れないのですが。じゃあどうしようとなった時に、描き続けるためには自分でやるしかないかな、っていう。当時、森田崇先生の『アバンチュリエ』が移籍というニュースがありましたよね(編注:講談社『イブニング』での連載が打ち切られる話をツイッターで告知、移籍先を求め、小学館クリエイティブ『月刊ヒーローズ』へ移籍を果たした)。あれはすごくいい試みだな、今はそういう時代なんだな、と印象深かったんです。僕の場合は、まだあまり実績のない作家で、連載始まって数話で単行本も出ていない。その状況で移籍先を探すのはちょっと難しいだろうな、と思いまして。いろんな手を模索した末に、もうこれ(一人で連載)しかないかな、と。前向きにこの作品を持って駆け出すには、これしかないな、みたいな感じでした。

── ちょうどあの頃、2013年の初頭というのは、鈴木みそさんや記伊孝さんがキンドル・ダイレクト・パブリッシング(KDP)を始められた頃でもありますよね。

Rebis そうですね。ブログにも書いたんですけど、ちょうどそういう電子書籍とか、新しい作品ではないんですけど『Jコミ』(現:絶版マンガ図書館)によって、もう1回収入が入ってきたりとか。今までとは違った場所で読者が見てくださっている時代になりつつあるのが感じられていたんで、見切り発車しちゃいました。

── 何か見込みがあったわけではないんですよね。そこがすごい勇気だなと思って。

Rebis 火事場で子ども抱えて脱出するような。飛び出す先が崖でも水でもしょうがない、というような気持ちにはなってましたね。

── ブログに書かれた「打ち切られても、雑誌を飛び出ても、勝手に一人で連載できる時代が来るんじゃないの...?」という言葉が非常に印象的でした。

Rebis IT企業とかすごい方々によって、いろんな技術やインフラ......無料のサイトやサービスが、毎日のように生み出されているような時代だなと思っていたんです。僕は同人が長かったので、同人で培ってきた......例えば、印刷所に本を印刷してもらえるとか、こういう書店にこういう本を売ってもらえるという知識や経験と、これから生まれてくるであろう新しいモノを合わせれば、なんとかなっちゃうんじゃないかな? というのがあって。見切り発車ではあるけど、走っている間になんとかなるだろ、みたいな。

── その後もブログで連載しながら「少額決済&メルマガ・ブロマガ編」「単行本が1万部売れるなら、描き下ろしだけで食える! ...かも。」など、考えていることをそのままブログで公表されてるのが面白いなーと思ってました。

Rebis 最初の頃は、とにかくアイデアをたくさん出さなきゃダメだと思いまして。何をやっていけばいいのか、まだまだ分からないから、とにかく考えて、書いて、反響があれば「あ、それもいいかもね」なんて小回りをきかせることができるかなと。例えば『中国嫁日記』の井上純一先生が、(ブログに貼っている)グーグル・アドセンスの広告が原稿料くらいの収入になるなんてことをおっしゃっていて、そういうマンガの形もありうるのかな、とか。当時、いろいろ考えてブログを書いていたんですけど、どうしても漫画家って最終的には漫画を描かないといけないところがあって、ああいう(稼ぐ方法考察の)記事ばかり書いてると「口だけ」みたいに思えてきて、ずっとこういう記事ばかり続いたら、ちょっと恥ずかしいぞと思って。それでその後、あまり書かなくなっちゃったんです。でも、また何か「くる」ものがあれば、書きたいな、考えをまとめてみたいな、とは思ってます。

「あにめたまえ!天声の巫女」 (C) Rebis

とにかく一人でも多くの方に作品を読んで頂きたい

── Twitterをはじめ、2つの公式サイト、一人で連載ブログ独自ドメインのあにめたまえ!公式サイト、ウェブ漫画誌「マンガごっちゃ」、ピクシブキンドルストアなど、いろんな場所、いろんな形で作品を公表・告知されてますよね。更新作業だけでも大変だと思うのですが、どのように使い分けているのでしょう?

Rebis あまり使い分けは考えていないんです。どちらかというと今は、とにかく1人でも多くの方に作品を読んで頂いて、その中から読者になってくださる方が現れれば、という意識がありまして。まあ、これはちょっとおおげさな話なんですけど、いろんな媒体を駆使して、最終的に雑誌の発行部数より多くの方に読んで頂ければ、ある意味1つの成功というか、何かを達成できたことにならないかな? と思ってるんです。もちろん、雑誌の読者というのは漫画を読む気で買ってらっしゃるので、単純に雑誌の読者数とネットのPVを比べることはできないとは思うんですけど。ただ、やっぱり露出があっていろんな人の目に留まっていくうちに、突然チャンスが来るという時代かな? と思うんで、今は少しでも多くの人に、自分が更新し切れる範囲でたくさんの場所に出していきたいな、と考えてます。

── 例えば最近ですと、マンガボックス・インディーズとか、コミコがピクシブと提携して作品投稿できるようになったりというのもありますよね。

Rebis マンガボックス・インディーズは僕も考えていて、単行本作業が一段落したら投稿してみようと思ってました。急に他人事みたいになっちゃいますけど、やっぱり今はそういうたくさんの漫画媒体があって、面白い時代ではありますよね。

── すごく面白い時代になったんだな、って思いますよね。

Rebis ただ同時に、ものすごくたくさんの選択肢があって、何か話題になるきっかけがないと、なかなか見てもらえないっていう時代でもありますよね。それを考え過ぎると、描くこと自体の喜びがどこかへ行ってしまって不安に駆られるんで、まずはあまりそういうことは考えずコツコツと描いて、いつか火が着いた時に「もうたくさん描いてありますよ」ってなればいいかな、と思っています。もちろん今でも、読んでくださっている方がたくさんいて、そういう方々の声とか反響ってすごく嬉しいんで、あまり欲をかきすぎずに、創作の喜びを味わいながら続けていきたいです。

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