『XINHUA.JP 』が配信していた「台湾と韓国、日本に対する"大きな違い"はどこからくるのか―香港メディア」という記事がいろいろ興味深かったので、これについて少し。
1 記事の紹介
香港の中国評論通信社(電子版)に掲載された台湾の元外交官の寄稿記事を紹介しているもので、内容は「日本による残酷な植民統治を経験した台湾と韓国が全く違った反応をみせている」というものです。
「韓国の朴槿惠大統領は就任から8カ月、頑として日本との首脳会談開催を拒否し続けている」一方で、「台湾では日本旅行業協会の越智良典事務局長が、日本統治時代に日本人が台湾で鉄道、水利、港湾、発電所などのインフラを建設したことが重点的に書かれた・・・本を発行したことにより、台湾観光協会から感謝状が贈られた」としています。
「台湾も韓国も同じように日本の植民地」で、「日帝は台湾人と韓国人を差別し、搾取した。その一方で帝国植民地の一部として、その強大な国力の先進的な技術を用いて、水利、電力、交通などのインフラ整備も行った」では何故、「両者にはこれほど大きな違いが生じている」のかと問題提起をします。
そして、「国民政府が台湾に移った後、共産党やロシアへの対抗に精力の大半を注いだため、台湾では日本植民統治を批判する余力が残っておらず、人々は徐々に歴史を忘れていった」ためだとしております。
2 両者の違い
これについては、以前も触れたことがありますが、最初に私の考えを書いておくと台湾と韓国の置かれた両者の違いが大きいと考えます。
① 台湾の場合
台湾の場合は、第二次世界大戦後、大陸から台湾にやってきた国民党という大陸の中国人の支配があまりにひどかったが故に、それに対する当てこすりとして、日本の植民地時代の方がよかったと言っているにすぎないという考えが一番しっくりきます(『「親日」台湾の幻想』)。
なお、こうしたことを述べている方はかなりおりますが、入手しやすいところでは、酒井亨氏の『「親日」台湾の幻想』あたりでしょうか。
② 韓国の場合
韓国の場合は、中国の威光をもって日本に対し「先進国」として振る舞うことができていたのに、明治維新以降立場が逆転してしまい日本の下に置かれるような感じになり、それが納得できないという説が、うまく韓国人の心理を説明できるような気がします(韓国が日本や中国を嫌っている理由(中国人の分析))。
この指摘を最初に行ったのは、おそらく小室直樹氏かと思います(小室直樹『韓国の悲劇‐誰も書かなかった真実』)。本書はかなり前のものなので、いろいろ経済予想とかは外れてしまいましたし、既に絶版となっているようです。しかし、韓国人のメンタリティ分析は未だに通用するものと考えます。
斯様に、日本の統治がどうだったかというより、統治を受けた対象の問題の方が大きいのではないでしょうか。そのため、この問題について韓国がいろいろ言ってきておりますが、私は基本的には韓国の問題という側面が大きいと思っています。
3 共産主義との対抗
ここで元記事に戻るわけですが、元記事では「共産党やロシアへの対抗に精力の大半を注いだため、台湾では日本植民統治を批判する余力が残って」いなかったとしております。
確かにそうした側面は否定できませんし、実際だからこそ台湾は、西側である日本との結びつきを強めたのは間違いないかと考えます。
ただ、だったら何故韓国はという話になります。韓国も朝鮮戦争を始めとして、共産主義国との対抗にかなりの労力を注いでいます。ところが台湾とは全く異なる反応を示しており、原因の指摘としてはどうかと考えたとうわけです。
4 冷戦の影響
ただ、1965年に韓国との間で締結された日韓基本条約も冷戦構造の中、アメリカの同盟国どうしがいつまでも国交が正常化できないは不都合との観点からアメリカによる働きかけがあったのは事実で、そういう意味で、共産主義(冷戦)とは無関係ではありません。
このとき、韓国では日本に妥協しすぎとの批判も起こっており、韓国では日本との国交正常化にいろいろな思いがあったのに、結ばされたという思いはなくはないようです(実際、日韓併合条約の無効の解釈などはかなり玉虫色となっております)。
また、中国が北朝鮮を支持していた関係で、韓国と中国との国交正常化も1992年と大幅に遅れており、そういう意味で、冷戦が韓国の日本に対する批判を封じていたという面は否定できません。
5 最後に
冷戦が終結したことを契機に各地で民族問題が発生したように、冷戦構造は確かに大きな問題でしたが、それがあったが故に、様々な問題が隠されていたという側面は否定できません。
韓国は、正直冷戦構造の中でやむを得ずアメリカにつき従っていたという側面も否定できず、アメリカとの結びつきを強めるとなると、「格下」と思っている日本がアメリカとの関係で韓国の上に来る可能性が高いので、あまり面白くないのでしょう。
そうであれば、中国との結びつきを強めるという話で、実際現在の朴槿恵大統領は明らかに中国との結びつきを強化しているわけですが、中国の高度経済成長がいつまで続くか、北朝鮮問題をどうするかと考えると、中国一辺倒というのは難しいのが現実かと思います(反日で中国寄りとなるも、徹底できない韓国のジレンマ)。
しかし、どうも「反日」が外交政策決定の中で占める割合が大きすぎるようで、韓国はもう少し考えを改めるべきではないでしょうか(自分で盛り上げた「反日」に縛られる韓国外交)。
(2013年11月12日の「政治学に関係するものらしきもの」から転載しました。)