児童ポルノ問題に関連して、5月29日に日本雑誌協会と日本書籍出版協会が反対声明を出すなどいろいろな動きがでているので、これについて少し。
1 児童ポルノ改正の目的
今回の改正の目的は「被害者となる子どもをこれ以上増やさないため」とされています。確かに、援助交際などの規制と同じで、買う者が(処罰を恐れて)いなくなれば、成立しえない犯罪で、そういう意味での規制の意義は認めます。
それに海外の児童売春は日本の援助交際などとは、背景も異なり、個人が遊ぶ金ほしさに云々という話ではなく、生きていくために奴隷の様に売られてそうなってしまったという事例も多く、個人の選択や自由がないという点でも許しがたいことであるのは間違いありません。
そういう意味で宮台真司氏が援助交際について自己決定権などの論点からいろいろなことを言及されておりますが、彼も判断能力が未成熟な児童を対象とした売春については肯定しておらず、おそらくこのことについての異論は少ないかと思います。
実際、今回の改正が世界的にこうした奴隷的状況に置かれた児童を何とかしようという動きの中で、様々な「圧力」を受けての改正となっており、やむを得ない部分もあるかと思っております。
2 業界の反対
日本雑誌協会と日本書籍出版協会などの業界が反対したのは、改正案では、漫画やアニメについても調査研究対象とし、3年後をめどに必要な措置を取るとしている点で、それが表現の自粛を招いてしまうのではないかという観点からです。
最初に私の意見を述べておくと、私も漫画やアニメなどに対する規制については基本的に反対です。確かに発表されたものは、社会に多かれ少なかれ影響を与えるので、思想の自由とはことなり、それなりの制限をうけるべきと考えます(性的マイノリティへの偏見や差別をなくすにはどうしたらよいか)。
ただ、やっかいなのが、この「影響」がどの程度のものがあったかが容易に判断しづらいところです。ただ、もっとやっかいなのが、この容易に判断しづらいものを簡単に結びつけて、原因としてしまう方が多いことです。
その典型が、1988年から89年にかけておこった連続少女誘拐殺人事件で、犯人が「オタク」であったことから、こうした「オタク系文化」が彼に与えた影響を吹聴する方がおられましたが、「オタク」が皆犯罪者になるわけでもありませんし、「オタク」以外の凶悪犯もいるわけで、結局のところ因果関係はわからないかと考えます。
3 海外からの影響
今回、漫画やアニメも調査対象としたのは、こうした影響があると考えておられる方がいまだに多いからではないでしょうか。また、海外では日本の「萌えアニメ」を「児童ポルノ」として認識している方もおり、それも影響を与えているかと思います。
確かにアニメはかなり人手(人件費)がかかるわけで、簡単に失敗できるものではないので、売れる(失敗が少ない)方向性として現在のような萌えアニメ重視となっている現状もわからないではありませんが、それで良いのかといろいろ思うところがないわけでもありません(私がアニメを見なくなった理由)。
これまでグローバリゼーションというと、物の流れ(貿易)を中心に捉える方向が大きかったわけですが、ある意味これは日本の表現方法が問われている事態で、それだけ人々の交流が近くなった結果とも思っております。
日本でも漫画やアニメに対する批判は以前からあったわけですが(日本の漫画はエロと暴力だけなので将来性がない?)、日本ではしぶとく生き延びてくることができました。
ただ、かなり恐れているのは、日本の場合、柔軟性があるので(良く言えば、悪く言えば本音と建て前など)、そうしたことも可能だったのではないかということです。これが、欧米あたりでは、本気で原理原則を主張して、徹底して排除する方も出てくるのではないかという点です。
4 最後に
こう書くと、海外でも、日本の漫画やアニメは人気で、だからこそ政府も「クールジャパン」戦略を考えたのではないかという反論がありそうですが、海外でもあくまで全体から見れば「一部」の方に熱狂的に受け入れられたというのが現実かと思います。
特にアニメや漫画は受け入れない方は全く受け入れられないわけで、だからこそ、日本アニメのダウンロードで懲役刑などという判決が下される国もあるわけです。外圧に弱い日本ということを考えると結構憂慮すべき事態かとも思っております。
ただ、その一方でいろいろ外国の文化を受け入れても、勝手に変化させて何とかやってきたのが日本なので、何とかなるのかなとも思っております(キリスト教と『神神の微笑』)。
(この記事は「政治学に関係するものらしきもの」に6月1日付で掲載された記事の転載です)