昨年10月から開催している、名古屋あおぞら部。
3月5日(日)に開催した第4回目は、過去最多となる30人以上の参加者が集まった。
15歳(高校一年生)~40代まで、幅広い年齢の人が一緒に過ごす空間は、一つの大きな家族のようにも感じた。
高校生が大学生に勉強を教えてもらっていたり、大学生が社会人に就活や仕事について質問していたり、社会人同士で職場でのカミングアウトの話をしていたり。世代を超えた交流が活発に行われている。
年少の者が年上の者に質問する、という光景は社会の中で決して珍しいものではない。
しかし、私を含めた10代LGBT当事者にとっては、とても重要な経験であると同時に、もっとたくさんの年上の当事者に出会いたいと思っている。
なぜなら、LGBT当事者であること自体に悩んでいたり、カミングアウトするべきか悩んでいたり、将来に対して不安なことばかりだからこそ、みんなロールモデルを見つけたくて必死なのだ。
私が名古屋あおぞら部の活動の中で出会った地元の高校生・大学生と話していると、地方に住むLGBT当事者のロールモデルとしてあるアイドルグループの名前が挙がることがある。
それは、NSM=だ。
恋愛禁止やファンとの疑似恋愛を売りにするアイドルが多い中で、彼女たちの存在はかなり異色だ。
なぜなら彼女たちは、グループのメンバー全員がLGBT当事者であることを明かし、地域・社会とセクシュアルマイノリティを繋ぐ架け橋になるべく活動しているからだ。
NSM=のメンバーは写真左から、あやのさん、樹梨杏さん、高倉 唯さん、いづみさんの4人。
それぞれ社会人として働く傍ら、NSM=としての活動を行っている。
NSM= は、2011年に高倉 唯さんと樹梨杏さんの2人が中心となり、NSM48として結成された。
2013年にNSM=(nagoya sexual minority Equal)にグループ名を改め、名古屋を拠点に全国で活動するLGBTアイドルグループとして活動してきた。
現在は月に1度ほどのペースでイベントに出演しているNSM=。イベント出演時には、アイドルの曲をカバーしたり、オリジナル曲を発表したりするなど、歌・ダンス・トークでパフォーマンスを披露している。
これまで、虹色どまんなかパレードやNLGR+などの活動拠点である名古屋のLGBTイベントのほか、TOKYO RAINBOW PRIDEや関西レインボーパレード・レインボーフェスタ! 、みえレインボーフェスタなど大規模なLGBTイベントに出演している。
2016年のNAGOYAレインボーウィークの様子
また、手羽先サミット や愛知県が主催する「あいちの文化育てまSHOW」などの活動拠点である名古屋の地域イベントなどにも出演し、LGBTを知らない・見たことがないという人たち相手にもパフォーマンスを行ってきた。
そして幾度かのメンバーチェンジを経て、2016年11月から現在の4人体制で再スタートしている。
ライブ衣装のNSM=メンバー
(写真左からあやのさん、唯さん、樹梨杏さん、いづみさん)
一見すると、"ふつうのアイドル"に見える彼女たち。
どうしてLGBT当事者であることをカミングアウトした上で、アイドルとして活動しているのだろうか?
メンバー4人で定期的に行っているというミーティングにお邪魔して話を伺った。
NSM=のダブルリーダーの一人・高倉唯さん(28)レズビアン
―――そもそも、どういった経緯でグループを結成したのですか?
高倉唯(以下、唯)「私が樹梨杏に声をかけたことがきっかけです。1度きりのつもりでLGBT当事者が集まるイベントに出演したところ、目新しさがあったのかいろいろなイベントから出演依頼をいただきました。以来、メンバーが入れ替わりながら、これまで7年間続いてきました。」
NSM=のダブルリーダーの一人・樹梨杏さん(30)レズビアン
―――LGBTを広める活動をする上で、アイドルという形を選んだ理由はありますか?
樹梨杏「私たちやLGBTの存在を身近に感じてもらいたいからです。伝えたいメッセージが歌だとより伝わるかなと思って、オリジナルの曲も作って披露しています。」
唯「LGBTのことを言葉で話すだけでは、LGBTの存在を身近に意識していない人たちにとっては関心のない話だろうし、つまらないって思われたら意味がない。アイドルなら歌もトークもダンスも出来て興味関心からでもLGBTの存在を知るきっかけになれるかな、と。何より、アイドルって名乗ることで当事者にとっても、LGBTを知らない人にとっても、LGBTをより身近に感じてもらえるかなと思っています。」
NSM=メンバー・あやのさん(27)レズビアン
――――NSM=として活動していく中で感じたことはありますか?
樹梨杏「LGBT当事者の中にも『ひっそりと生きていたいからLGBTを堂々と公言してほしくない』と感じている人がいることは事実です。けれどその一方で、LGBTの情報とかロールモデルを知りたくて必死に生きているLGBT当事者も多くいます。」
あやの「私は自分がLGBT当事者であるということに悩んでいたときにNSM=の存在を知りました。身近に当事者がいることを知れて本当に嬉しかったし、私も自分と同じように悩んでいる人のために何かしたいと思い、NSM=に加入しました。」
唯「イベントで私たちのパフォーマンスを見たという大学生から手紙をもらったことがあります。『自分はLGBT当事者なのかもしれないと悩んでいたけれど、NSM=の存在を知って救われました』と書かれていました。その言葉がとても嬉しくて、手紙を読んだときに思わず泣いてしまいました。活動してきて本当に良かったと感じましたね。」
樹梨杏「当事者のお子さんとそのお母様がステージを観に来てくださいました。お子さん兄弟から手作りのアクセサリーをもらったこともあります。とても嬉しかったです。」
唯「セクシュアリティーをオープンにしていないLGBT当事者の友人から『NSM=に託している。応援しているから。』と言ってもらったことがあります。LGBTの代表として活動しているというわけではないですが、LGBT当事者の一員として、誰もが生きやすい世の中になるためにLGBTの存在や思いを知ってもらいたいです。」
NSM=メンバー・いづみさん(24)バイセクシュアル
―――NSM=として活動する一番の目的は何ですか?
唯「私はこれからの若い子と、悩んでいた過去の自分のためと思って活動しています。誰か当事者の子が私たちの活動を見て、『LGBT当事者でもこんなに明るく生きることができるんだ!』とか『LGBT当事者だとしても自分は生きていて良いんだ!』と思ってくれたら嬉しいですね。」
樹梨杏「私は今の自分が少しでも住みやすくなるためです。自分が住みやすくなれば、同時に周りの人にとっても住みやすくなるのではないかな...と思って活動しています。それに、過去の自分に『羨ましい!』って思われるような今でいたいし、今の自分にとって『羨ましい!』と思える環境を作っていきたいですね。」
いづみ「NSM=がLGBTを取り巻く環境に対して働きかけていくことで、誰もが生きやすい世の中になれば、と思って活動しています。将来、自分を含めたLGBT当事者が、今よりもっと、堂々と、生き生きと、自分らしく暮らせる世の中にしたいですね。」
唯「私たちの活動は、今セクシュアリティーのことで悩んでいる人や、若い当事者の子ども向けでもあるし、LGBTを知らない人達に向けてLGBTを知ってもらうきっかけにして欲しいという気持ちもあります。」
LGBT当事者であることを明かして活動する人は年々増えてはいる。
ただその中でも、地元に住む身近な当事者こそが、不安を抱える若い当事者たちのヒカリになっているのではないだろうか。
NSM=のメンバーの生き生きとした笑顔と、10代当事者の将来への不安に満ちた表情を見ながら過ごしたこの一年で、この思いが私の中でより強くなった。
次回の名古屋あおぞら部は、4月8日(土)に開催します。
LGBT当事者はもちろん、LGBT当事者を家族や友人に持つ人やLGBTについて知ってみたいという方まで、幅広く参加していただいています。
詳しくはこちらまで
名古屋あおぞら部Twitter @nagoya_aozora
メールでのお問い合わせ nagoya-aozora@excite.co.jp