個人がヒーローになる時代がきた。遠山正道さんが教えてくれたこと

それまでは、組織や伝統などが価値を担保していましたが、個人の能力、チャレンジ精神などが評価されるようになってきましたね。おもしろい時代になったと思います。

ギャルモデルであり、現役・慶応義塾大学大学院生でもある鎌田安里紗さん

10代、20代を中心に支持を集める彼女はエシカル・プランナーでもあり、多数のファッションブランドとコラボをしたり、「エシカル」に興味を持ってもらえるようなイベントやスタディ・ツアーを手がけたりと、様々な形で発信をしています。

今回、そんな彼女が「この人の発想はこれからの暮らしを考える上でヒントになりそう!」と感じた人たち10人にインタビュー。

生活のこと、暮らし方のこと、自然との関わり合いのこと、自分を大切にすることなどについて、じっくりお話を聞いていきます。

第一回目のインタビューのお相手は、株式会社スマイルズ代表の遠山正道さん。株式会社スマイルズは、食べるスープをコンセプトにしたスープ専門店Soup Stock Tokyo、現代のセレクトリサイクルショップPASS THE BATON、ネクタイ専門店giraffeなど、ユニークな事業を次々に立ち上げています。

ファーストフードもファミレスも、「こうなったらいいな」を形にする

鎌田 今回遠山さんにお話をお伺いしたいと思ったのは、Soup Stock TokyoとPASS THE BATONが同じ会社だと知って驚きと同時に納得感があったからなんです。

Soup Stock Tokyoは、さっと食事を済ませなければならない時に、ファーストフードなのに体が喜んでいると感じられるものを食べられるので、通っています。

PASS THE BATONは愛用していたけれど今は使わない、でも捨てるのは惜しいという品物を、ストーリーを添えて販売する現代のリサイクルショップというのが、単純にかっこいいなと感じていました。

その二つが同じ会社だったと後から知って驚いたのですが、同時に「どうりで同じ暖かさがあるはずだ」と納得感もありました。

まず、Soup Stock Tokyoのことをお聞きしたいのですが、ファーストフードを標榜していますよね。それはファーストフードという形態に疑問があったから思いついたということなのでしょうか。

遠山 もともと私は三菱商事で商社マンをやっていたのですが、もう少し手触り感のある仕事をしたいと思って、日本ケンタッキーフライドチキンに出向させてもらったんです。

そこでファーストフードのことをよくよく考えることになったのですが、ファーストフードって、お母さんがお子さんを「そんなのばっかり食べてちゃダメよ」と叱るような、安かろう悪かろうのイメージがありますよね。

でも本来「ファーストフード」は「悪い」を意味しているわけではなく、「速い」を意味しているもの。

今は10円、20円を値引いてコスト合戦をしていますが、私は200円高くてもいいから、おいしくていいものをしっかり食べたいなと思い、Soup Stock Tokyoを考えついたのです。

Soup Stock Tokyoの店内の内装やリーフレットなども、一般的なファーストフードのイメージにある赤、黄色という派手なものではなく、スープの彩り以外は極力色味を抑えました。

そういう意味でいうと、ファーストフードに対するアンチテーゼですね。

鎌田 最近、「100本のスプーン」というファミリーレストランも始められましたよね。それも、ファミレスに対するアンチテーゼでしょうか。

遠山 そうですね。Soup Stock Tokyoは1999年に始まったのですが、担い手の我々自身が結婚して子供ができて変化しました。またお客様も同じです。そうすると、家族で行ける店がほしくなってきたのです。

ファミレスという業態も、もともとは家族でいけるレストランというステキなイメージがあったはずですが、独特なる進化を遂げてしまいました。

けれど、ファミレスは本来、子供が生まれて初めての外食の場所になるかもしれないし、初めてのデートの場所になるかもしれないレストラン。

記憶に残る場所なのであれば、できるだけステキな場所であってほしいものですよね。

「100本のスプーン」は、「コドモがオトナに憧れて、オトナがコドモゴコロを思い出す。そんな思いを叶えられるファミリーレストラン」がコンセプト。

子供用にお子様ランチとして特別なものを出すのではなく、大人のものと同じ内容をサイズを小さくして出しています。目玉焼きがうずらになったりしてね。お父さんがワインを飲んでいる隣で、お子さんもぶどうジュースを小さなグラスで飲めるんです。

鎌田 それは喜ばれますね! 食材にもこだわっていらっしゃいますよね。

遠山 そうですね。それはSoup Stock Tokyoを立ち上げた当時、自分の子供がアトピーで、なんとなく調味料を買う時も表示を見て余計なものが入っていないものを選ぶようになっていたからなのです。

余計なものに頼らず、素材そのものを活かしたおいしい料理の提供も、スープならできるかなと思いました。

今、Soup Stock Tokyoで手がけている冷凍スープも、表示を見るとわかるように、ほぼ素材のみを使っています。カレーなんて、小麦粉もあまり使っていないので、野菜のとろみで作った野菜煮込みみたいものなんですよ。

鎌田 保存料などは入っていないんですね。野菜は国産のものが多いと聞きました。

遠山 途中で切り替えて、今では野菜はほとんど国産のものを使っています。

国産の野菜に限定すると旬などを考えないといけないですし、使える食材に限りもあり、コストも上がって、切り替えた当時は大変でした。

しかし、結果として直接生産者さんとコミュニケーションするようになり、一緒に食材づくりを進める中で良い野菜が安定して仕入れられるようになりました。

飲食業界が、"個人に寄っていった"という印象

遠山 1999年にSoup Stock Tokyoは誕生したのですが、わずか16年ほどの間に飲食業界の環境はずいぶん変わりました。特に東京ではどのお店に入ってもおいしいですね。

鎌田 お店側が変わったのですか?

遠山 はい。1999年当時のフランス料理やイタリア料理には店構えからして特定のスタイルがありました。

フレンチは豪華、イタリアンはカジュアルっぽいといったようなイメージです。ホテルのメインダイニングのシェフの料理が一番高級で、街のフレンチなどは、個人商店の延長のような印象があったりもしましたね。

しかし、今は全く違います。

鎌田 差がなくなってきていますよね。

遠山 そうですね。もはやホテルのフレンチが一番ステキという感覚はもうないですよね。

街のレストランのシェフが、残すべきところは残しつつ、どんどん殻を破って工夫を重ね、新しい料理を生み出しています。

イタリアンでも、ナポリ、シチリアと細分化されてきていますし、店構えも、以前は工務店が作っていたものが、今はデザイナーが空間を作っています。

企業が個人に出資し、チェーンで街のレストランを展開したりもしています。

飲食業界が、"個人に寄っていった"という印象を持っています。

それまでは、組織や伝統などが価値を担保していましたが、個人の能力、センス、チャレンジ精神、向上意欲などが評価されるようになってきましたね。おもしろい時代になったと思います。

鎌田 食事の中身に、個人のレストランとチェーンのレストランでは違いはありますか?

大企業がチェーン店としてたくさん店舗を出すとなると、素材のトレーサビリティは難しくなるのかなと思うのですが。

遠山 チェーン店か個人店かの違いはないでしょう。意識のあるチェーン店は素材を意識して料理できる状況になっていますし、個人店でも意識が向いていなければ素材の産地を調べたりはしないでしょうし。

いずれにしても、今は産地を書いたり、無添加をうたったりしておけば安泰だという時代ではないんですよね。

素材が安心・安全であるという価値だけでなく、料理なら味のクリエイションという価値もあります。おいしくなければ続けていくのは難しいでしょうね。

鎌田 規模に関わらず、関わる人の意思や興味が重要になっているということですね。

21世紀は「個人」が重要な時代

遠山 個人が重視されているのは、飲食業界だけではありません。

20世紀は、日本という国が活気に溢れていたから、個人はそれにのっかっていけばよかったけれど、今は日本も世界もそういう状況ではなくなりました。

もっと一人一人が自活していかなければならない時代になったから、個人が重視されるのでしょう。

けれど、今はSNSなど個人をサポートするツールがたくさんありますから、ちょっとしたアイデアと行動力で人を巻き込んだり、ビジネスを作り上げたりするのも可能な時代ですね。

スマイルズでお手伝いしている、森岡書店 銀座店 というユニークな書店があります。コンセプトは「一冊の本を売る本屋」。期間を区切り1種類の本とそれにまつわる展示を行いながら、本と展示品を販売するというスタイルで、森岡督行くんという人がこの春に銀座1丁目でお店を始めたんです。

5坪の小さなお店なのですが、彼が選び出した「これ!」という本を丁寧に売っているんです。写真集などを売るときには、写真が壁に展示されて、真ん中に書籍がポツンと置いてあるようなイメージです。

それがとても人気で、ネットメディアからの取材や、海外からの取材も多くて情報が拡散された結果、お客さんがたくさん来るようになりました。

価値を追加していく=「プロパー超え」を作り出すには

鎌田 本を1冊だけ売るというアイデアはすごいですね。そして選んだ書籍に本当に価値がないとできないことですね。

遠山 スタイルだけ真似てもダメでしょうね。彼の場合は、本を選び取る能力がある。そこに価値が付加されているから成り立つのですよね。

鎌田 PASS THE BATONも、リサイクルだけでなく、そこにステキな価値が付加されていますね。

遠山 物が蘇っちゃう感覚がありますよね。私もときどき洋服を出品しますが、あそこのラックにディスプレイされると、急に「ああ、これを出しちゃったんだっけな。もったいなかったかな」という気になります(笑)。

もう古いけれど仕方なしに片目をつぶって着るという気持ちとは、全く違う気持ちです。だから、ちゃんと価値を与えられているのではないかと思います。

PASS THE BATONでは企業のB品をリメイクする商品があります。以前に、アウトドアブランドのPatagoniaさんから、移染が認められて販売できなくなったトートバッグが千枚単位で倉庫に眠っていると相談を受けたことがあります。

そこで、それを後染めして危険な部分には上から布を貼ったり、シルクスクリーンで印刷を加えてデザインをし直してみたのです。すると、できあがったデザインは、0から作るよりもはるかに不思議でおもしろいものでした。

私たちはその状態を元々あった状態(プロパーの状態)を超えたという意味で、「プロパー超え」と呼んでいます。このバッグもデザインを施した結果、古着に似た、一点もののおもしろさの要素が生まれました。

鎌田 「もったいないから使い回す」ということではなく、ちゃんとステキなデザインを加えて、価値を追加したわけですね。たしかに0から作った場合では絶対にできない、おもしろいデザインですね。

時流を意識しつつ、やりたいことを表現する

鎌田 PASS THE BATONは、都市の中のライフスタイルをちょっと変化させるような、きっかけを与えてくれるお店ですね。

私は中学校まで徳島で暮らしていて、高校1年生で東京に来たのですが、東京だと情報が入ってくるスピードも早いし、物を買って捨てるというサイクルのスピードも早いように思います。

徳島にいた時は従姉妹と着なくなった洋服のやり取りをしていたのですが、東京だとそういうわけにもいかなくて。東京では、多くの人は着なくなった服はリサイクルショップや古着屋さんに持っていくわけでもなくて、捨ててしまいますよね。

でもPASS THE BATONは、洋服を誰かに繋いでいくということがステキな行動として再認識させてくれる。意識を変え、ライフスタイルを変えるきっかけを与えてくれるお店だなと思うんです。

PASS THE BATONも、リサイクルショップについて「こうだったらいいな」を形にしたのですか?

遠山 私たちは「ゴミを安易に捨てることに疑問がある! リサイクルを変えたい!」と意識して、戦略的に考えて始めたわけではないんですよ。

PASS THE BATONは、むしろ「現代人のたしなみ」を意識したのです。

現代の人にとっては、電気が付いていたら消すし、ゴミも分別するのは、もはやたしなみというか、当たり前のことですよね。

そういう普通の感覚での「もったいない」という気持ちは私だけの中にあるわけじゃなくて、きっとお客様の中にもあるので、それが繋がっていったらおもしろいなと考えました。

そういう感覚を生かして、ちょうど私もファッションや古着が好きだったので始まったのです。

アーティストはアートを作り上げる時に、アンケートをとって何をテーマにするかを考えないですよね。けれど、

「今のアートはコンセプチュアルによりすぎているから、もう少しプリミティブなペインティングに戻してやってみようか」

などと、時代の大きな背景を感知しつつ、その中で自分はどういうことを表現しようかと考えるはずです。

スマイルズのビジネスも、同じです。

私はスマイルズという会社を擬人化して考えているのですが、アーティストのように「スマイルズさん」は時代の流れの中で、その時々で興味があることをやっています。

冒頭で鎌田さんが「Soup Stock TokyoとPASS THE BATONには同じ暖かさがある」とおっしゃっていましたが、「根っこ」はスマイルズさんの大事にしていることや個性にあるから、その時々で表現されることは違っても共通したものが出てくるのでしょうね。

「もともとこれがやりたかった」という根っこは忘れてはいけない

鎌田 今後も「スマイルズさん」はいろいろなことに取り組まれる予定ですか?

遠山 そうですね。いろいろ気になることが出てきています。今までは自社で直営の仕事ばかりやってきましたが、最近は他社さんのお手伝いでプロデュースなどもやっています。それもおもしろいですね。

鎌田 そういうときは、先方の「こうしたい」という意向を聞いて、それに対してアイデアを出していくのですか?

遠山 ヒアリングをして、先方の理念というか、大事にしていることを一生懸命深掘りして、もう一度立ち返ってそれを形にしていきます。

みなさん、当たり前になりすぎて意外と「根っこ」を忘れてしまうんですよね。

鎌田 根っこというのは、理念のことでしょうか。

遠山 そうですね。「もともとこれがやりたかったんだよね」という部分のことです。私たち自身、何をやっても大変で、根っこに戻って考え直すという機会が非常に多かったのですが、根っこを忘れてしまうとぶれてしまうんですよね。

たとえば、うちのネクタイブランドgiraffe。giraffeは、一時期レディース物のアクセサリーもやっていたんです。けれど、あるときgiraffeのもともと目指していたものを思い出しました。

giraffeは"サラリーマン一揆"がコンセプト。「日本のサラリーマンの胸元をもっとかっこよくし、自信を持って元気になってほしい」と思い立ち上げたブランドです。だから、メンズだけに戻してみました。

目先のことに捉われたり、いろいろとやりたいことが出てきたりして忘れがちですが、根っこに戻ってみるのが大事だと感じています。

鎌田 遠山さんのインタビュー記事をいくつか読ませていただいたのですが、遠山さん自身、ファッションも仕事も、「自分がやりたいと思っているものではないと、あまりやりたくない」とおっしゃっていましたね。

遠山さんご自身の、洋服を買うときに選ぶ基準とは、どんなものですか? 先ほど古着がお好きだとおっしゃっていましたが。

遠山 ファッションに関しては、流行りは昔から気にしておらず、完全に自分の好みで選んでいます。

ちょっとチャップリンとか浮浪者みたいな服が好きなんです。おでこっぽい靴とか、サイズが合わないつんつるてんな袖の服とか。

好き嫌いははっきりあるのだけれど、「おしゃれしてます」ってばれちゃうのが嫌で(笑)。 

私が一番お気に入りなのが、りんごのアップリケが3つ付いている洋服。「どう考えても上すぎるでしょう。絶対おかしい」って思うような位置にアップリケが付いているんです。

古着って、ちょっと考えにくいようなでっかい襟が付いているものだったり、「どこに行ったら買えるの?」って思うようなものがあったりしますよね。

たとえ誰かが「同じものをほしいな」と思ったとしても絶対にない。古着にはそういう楽しさがあるので好きですね。

自分の中に好きな理由があると、長持ちしますよね。今履いているスウェットはカナダに行った時にちょっと山登りをしようとして買ったものです。

新婚旅行の時に買ったもので、今結婚23年目だからもう20年以上に使っていることになりますね。当時はPatagoniaというブランドは知らなかったんですけれど。

ビジネスに関しては、「流行りだし、儲かりそうだから」という理由で始めることはありません。私たちは「誰かの"やりたい"という強い想い」や根っこを大切にしたいですね。

自分の「外」ではなく「中」に理由を求めていく

鎌田 自分の「根っこ」の部分、つまり「これが好きだな」ということを見つけることって、けっこう大変だなと思うんです。

でも、もうちょっと多くの人が、「流行っているから、安いから」という、外からの情報に流されて洋服や服を買うのではなく、しっかりと自分で「これが私は好きだ」と感じて買えるようになったり、自分の働き方を決めたりするといいなと思っています。

自分で選んだことに納得しているならば、大変なことがあっても頑張れますし。

遠山 鎌田さんのおっしゃったことは、自分の価値観を一人一人が持って、それぞれが自分のセンサーのようなものを働かせながら生きていけたらいいということですよね。それは私も本当に同感です。

「個人が重視されている」と、先ほどレストランや森岡書店について話しましたが、これからは一人一人が自活していかなければならない時代です。

基本的に、何をやっても大変だと思うのですが、そうなのであればやっぱり自分の納得がいく、自分が選び取った自分の生き方や、自分の好みを大切にして生きていきたいですよね。

逆に「長年死ぬ気で働いてきた会社を解雇された。会社に裏切られた」とか、「ここの部長のもとでは働けない」とか、「アベノミクスが第三の矢を放たないからダメなんだ」とかと、自分の外に理由を求める癖のある人、愚痴を言ってばかりの人は、いつまでたっても悪循環で埒があきません。

世の中に素晴らしい環境なんてないんです。ある環境でどうやって生きていくか、どうやってより良い環境を作るかを考えるのが一人一人の仕事であり、そこに楽しさがあるんですよ。

たとえ長年勤めた会社を解雇されたとしても、「自分にできることが、まだまだあったのではないか」、「隣の席の人でも同じことができる程度のことしかやってこなかったのではないか」、「自分は本当に会社に価値を与えられていたか」と、自虐的になる必要はないけれど、自分の中に理由を求めていくことが必要です。そうやって自分に理由を求める癖のある人は、健全にやっていけます。

鎌田 何か選ぶ時にも自分の中に理由を求め、何か起こった時にも自分の中に理由を求めるというわけですね。

好きだけではなく、周りを説得できるだけの力をつける

鎌田 親や先生、周りの人から「こうしなさい」と言われたり、雑誌やSNSによって情報がたくさん入ってきたりするため、自分の中に理由を求めないで、外から入ってくる情報をもとに「選ぶ」ということに慣れてしまっている人もたくさんいると思います。同じように、愚痴を言ってしまう人も。

今までずっと自分の外に理由を求めていた人は、自分の中に理由を求めるようになれると思いますか?

遠山 なれますよ。自分の好きなことをどんどん掘り下げていってみればいいのです。

そしてそれを、所属しているチームや社会、国にどう貢献していけるかと繋げていけばいいと思います。

ただ、仕事の面で言えば、単に好きなだけでなくて、周りを説得できることも必要です。

たとえば、PASS THE BATONの店長が新宿に「トイレット」というバーを始めたんですが、彼は店長のときに「今の立ち位置で評価されないと、会社に提案ができない」と考えて、まずは社内でMVP、優秀社員賞を取ろうと決めたそうです。

そして、年に一度の表彰式の壇上に立ち、降りてきた足で副社長に企画書を渡しました。

それだけで彼の本気度が伝わってきます。そうなると簡単な例でいえば、「300万円のリスクだったらやってみるか」となりますよね。

組織が小さければ小さいほど、腹の括り方とか、ネットワークの築き方とか、センスや憧れられる人柄などが生きてきます。

鎌田 自分が良いと思ったものに自信を持つことも必要ですね。「これには、自分が良いと思っただけの価値がある」と思えなければ、自分の価値観は持てなそうです。

自身が持てなければ、やはりマスメディアなどの情報に合わせていかないと心配になってしまいそうですし。

遠山 そうですね。森岡書店の森岡くんのように、それを「価値」として世の中の人が認めてくれるようになるには、勉強も経験も努力も必要かもしれません。

森岡くんは、茅場町で10年間、古書店兼ギャラリーを運営してきた経験があって、ファンもいます。それだけ勉強して自信が持てたからできるのでしょう。

それから、他の人と共通認識を持てるテーマがベースになっていると、ファンや仲間を取り込みやすいでしょうね。

たとえば森岡くんは、文芸、アートが切り口なんですよ。森岡くんだったらこの作家が好きだろうな、などと想像がついて、「森岡督行くん」というジャンルになっていきます。

鎌田さんの場合は、「エシカル」というテーマがありますよね。鎌田安里紗さんというジャンルもありなんじゃないですかね。

鎌田 もっと勉強して、磨いていかなくては、ですね。

遠山 個人が主体になっていく時代は楽しいですよね。個人で動かずチームで動くとしても、自分の価値観や好き嫌いがどこにあるかを軸に、毎日の買い物や生き方を選択していくのはステキだと思います。

私たちもそういうことをサポートしていけるようなプラットフォームを、いずれは作っていけたらいいなと思っています。

鎌田 それはとてもすてきですね! 実現が楽しみです。

本日はとてもおもしろいお話をお聞かせくださり、ありがとうございました!

(2015年12月28日「QREATORS」より転載)

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