『うまれる』という映画を知ったのは、つい最近、数カ月前だ。
「赤ちゃんにきびしい国で、赤ちゃんが増えるはずがない。」の記事が多くの人に読んでもらえてしばらくしてから、どなただったかに「うまれるっていう映画のFacebookページで読まれてるよ」と教えてもらったのだ。
さっそく見に行ったら、少し前の投稿でぼくの記事が紹介されて、それに対し驚くほどたくさんの方がコメントを寄せてくれていた。ほんとに驚くほど。
すごいなあと思ってよく見たら、そもそも『うまれる』のFacebookページには3万人以上の人びとが「いいね!」していたのだった。さ、さんまんにん?!
『うまれる』はいわゆるインディペンデントな作品のようで、大手配給会社がついているわけではなさそう。なのにFacebookページで3万人!大手配給作品でもなかなかそんな数にならないのに。この映画はいったい何だろう?
WEBサイトには情報がたっぷり掲載されていて、あちこち見ていくと、いろいろわかってきた。
監督は豪田トモという茶髪の青年であること。人間は幼い頃はお母さんのお腹の中にいた記憶を持つという、胎内記憶の話をきっかけにこの映画をつくったこと。いくつかの家族をリアルに追ったドキュメンタリー映画であること。そして、この映画は2010年11月に公開されたあと、自主上映形式で全国各地で上映が続いていること!
赤ちゃんと社会の関係を追いはじめたぼくとしては映画の内容も大いに気になったのだが、自主上映とは何だろう?この点も興味津々だった。
なにしろ、4年も前の映画なのにいま現在も自主上映が続いているのだ。しかも、毎週のように全国どこかで上映されている。見た人が感動の輪を広げている感じ。「感動の輪が広がっている」と謳う映画はよくあるけれど、ほんとうにそういう状態になっている。いったいこれは、どういうことだ?
上の図を見れば一目瞭然だが、自分が見ていい映画だと思ったら、自分の友人知人にも見てもらいたいなと思ったら、自分で上映会を開けばいい、ということだ。そういうことか!いや、そういうことなら、見た人が他の人に見せたくなる映画だということだな!そう感じるって、どういう映画なんだろう。もちろん、通常の劇映画でも、感動したら人に勧めることはよくある。でも、わざわざ上映会を開くって、どういう気持ちでそんなことするんだろう?知れば知るほど、逆に興味が倍増した。
『うまれる』の上映会はあちこちで開催されているのだけど、東京近辺での上映と自分のスケジュールがなかなか合わなかった。うーむ、と思っていたら、今度はシリーズの新作『うまれる ずっと、いっしょ』が11月に公開されることが告知された。試写会も行われるというので勇んで申し込んだ。メールにブログのことも書き添えたら、プロデューサーの牛山さんから「読んでますよ、ぜひ見てください」と返信があった。
『うまれる』を観る前に『うまれる ずっと、いっしょ』を観てしまうことになるなあと躊躇もあったが、とにかく観に行った。その感想はまた別の稿で書こうと思うが、簡単に言うと「面白かった」。ドキュメンタリー映画ということで、けっこう重苦しさを覚悟していた。とくに前もっての情報として妻を失った男性も描かれるというので、さぞかし悲しい気持ち、暗い気持ちになるのだろうと想像していたのだが、面白い、のだ。それにドキュメンタリーはあまり抑揚がないものだろうとも思っていたが、不思議なことに物語性があった。
しかし今日書きたいのは映画の感想ではない。上映会の様子だ。
『うまれる ずっと、いっしょ』が素晴らしかったので、いよいよ『うまれる』の方も見たくなった。ある土曜日に思い立って、上映会がないかと探したら、小田原であるのがわかった・・・小田原・・・?
熱海や伊豆に行く時に東名高速から小田原厚木道路に入ってその終点の町、という程度の印象。そこに降り立ったことはない。まあとにかく行こうと、クルマを飛ばした。高速道路に入れば、あっという間に到着した。
2時からの上映だったが、お昼前に着いたので、ホールに行って当日券について確認。まだチケットはあるとのことで安心してシラス丼を食べたり、小田原城を歩いてみたりした。ちょうど大河ドラマで軍師官兵衛が秀吉の配下で北条氏を攻めていた、その舞台となっていた城だ。
時間が近づいたのでホールに戻った。駅から3分ほどの場所にあるナックビルという建物の5階、お堀端コンベンションホールという会場だ。
入口には看板が置かれて上映会の雰囲気ができ上がっている。この家族は『ずっと、いっしょ』の方にも出てくるのでぼくも憶えていた。
会場に入ると、すでに5割ほど席が埋まっていた。へー、自主上映でこんなに集まるなんてなあ、と思っているうちに見る見る増えてくる。300人は入る会場が、次々に埋まっていくのだ。
最終的には8割程度埋まったと思う。お母さんが多いが、お父さんも含めた家族もけっこういるし、年配のご夫婦も何組かいた。小さな街の小さなホールが、自主上映会で250名程度埋まったのだ。すごいことだ。
主催した女性が最初に挨拶をした。その説明の中で「本日はママさんタイムでの上映になります」と言っていた。つまり、赤ちゃんや小さなお子さんと一緒に観賞していいですよ、ということ。そのため、多少の赤ちゃんの泣き声、小さなお子さんがドタバタすることを許してあげてということだ。もちろんあまりに赤ちゃんが泣きやまない場合は別に用意した授乳室に移動を促すとのこと。
赤ちゃんを連れて観てもいい映画。そんな上映会があったとは!
やがて『うまれる』の上映が始まった。確かに赤ちゃんの鳴き声はうるさい。小さな子どもたちは我慢できず走り出しちゃう子もいる。でもそういう前提で観ているので気にならない。音声も大きめにしてあるようで、映画に十分集中できた。
お母さんが子どもと一緒に観賞できる。それもこの映画の魅力の一部になっているのだ。
映画が終わってから、さっき挨拶もしていた主催の方に少しだけお話を聞いた。中心になって企画した杉本美帆さんはなんと、埼玉在住なのだそうだ!
杉本さんはもともとは小田原の出身で、いまはご結婚されて埼玉に住んでいる。埼玉で開かれた上映会で『うまれる』を観て感激し、これは地元小田原の仲間にぜひ観せたい、観て欲しい!との思いで同窓生を中心に呼びかけて、仲間と一緒にこの上映会を主催したのだという。この日は彼女も、小さなお子さんを連れての観賞だった。
よくこんなに大勢の人を集めましたねえ!と聞くと「ほんとにそうですねえ!びっくりしてます!」ご本人も驚いていることにこちらもまた驚いた。そこには、自分が大好きになった映画を、たくさんの大好きな人たちに観てもらえた達成感が満ちあふれている。
『うまれる』は、みんなが応援してくれる上映形式をうまくつくった。もちろんそれは、みんなが素直に応援したくなる作品になっているからだ。観客が一方的に作品を受け取るのではなく、主体者にもなって反響を広げていく。その姿はソーシャルの時代そのものだ。ソーシャル上映、と呼ぶべき新しい映画の有り様がそこにはあった。
この映画のこうした姿は実は、ぼくが『赤ちゃんにきびしい国で・・・』の書籍化を、中岡祐介が起ち上げたばかりの三輪舎でやってみようと考えた、大きな背景になった。ブログ上でのぼくの呼びかけに彼が応えてくれたことも含めて、ぼくたちもソーシャル出版、と言えるやりかたで進めてみていいのではないか。小田原での上映会に実際に行ってみて、ぼくはますます励まされた。
さて、このあとぼくは豪田監督にインタビューすることができた。その様子と、映画2本のもうちょっと突っ込んだ感想は、あらためてまとめようと思うので、楽しみにしてくださいね。ちょうど少し前に、ハフィントンポストで豪田監督にインタビューした記事が載っていたので、そちらもぜひ読んでもらうといいと思う。
↓『うまれる ずっと、いっしょ』の予告編も見てみてください!
※「赤ちゃんにきびしい国で、赤ちゃんが増えるはずがない」を、無謀にも書籍にします。2014年12月発売予定。
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コピーライター/メディアコンサルタント
境 治
sakaiosamu62@gmail.com