去年の秋から、ドラマのTwitter分析を試みてきた。そこから、視聴率とは別の何かが見えてこないか、というのが企画意図だが、なにしろ自分がドラマ好きだからという個人的好奇心の方が実は強い。
これまでの分析を振り返ると・・・
・2013春ドラマについては4回に渡って記事を書いている。
視聴率と別の何かが見えてこないか、と言いつつ、春ドラマの分析ではTwitterの盛り上がりと視聴率の関係を追ったりなんかしてしまっている。やはり視聴率はネタとして面白いというのもあるし、この春ではとくに、視聴率とTwitterの相関性が高まったように思えてきた。スマートフォンが普及し、視聴率に影響を与える奥様層にもTwitterが普及してきたからじゃないかなと推測している。
一方で、視聴率とは別の"気持ち"みたいなものもTwitterから見えてこないか、というのもぼくが注目するポイントだ。この夏のクールでは視聴率も見据えつつ、感情分析を中心にしてみたい。
さて夏ドラマはかなり盛り上がっている。「半沢直樹」をはじめ、視聴率の高いドラマが多い。その勢いを9月まで保てるかが見どころになる。
まず注目のドラマが多い中でも注目の「半沢直樹」と「ショムニ」のツイート数を見てみよう。データ収集にはNECのソーシャルメディア分析ツール<感°レポート>を使わせてもらった。使いやすいインターフェイスでぼくのような文系人間でも使いこなせるんだぜ。
比較対象として月9「SUMMER NUDE」のデータも重ねてみた。一目瞭然だが、「ショムニ」のツイート数が断然多い。最後の放送から10年経っているが、"あのショムニがもう一度!"という反応が強かったということだ。前のクールの「ガリレオ」ほどではないがドラマの中でも抜きんでた水準。今期のドラマは過去のヒット作の続編が多いが、それに対する素直な反応がTwitterに表れている。
ところでさっきのグラフの、放送翌日の箇所に注目してみよう。
「半沢直樹」は放送日のツイート数が6万件程度、「ショムニ」は13万件弱。ずいぶん差があるわけだが、翌日のツイート数は2万件強とあまり変わりがない。つまり、「半沢直樹」の方がツイート数の下がり方が少なかったことになる。録画で翌日観た人も多いだろうし、とにかく放送後も口コミされていた。「半沢直樹」が世間に与えた衝撃度の大きさが、翌日も余波になっていると言えるだろう。
今度は個々のドラマの"感情分析"を見てみよう。これは、先ほどの<感°レポート>で収集したツイートから、放送時間中のものだけを抽出し、テキストマイニングにかける。使ったツールはプラスアルファ・コンサルティング社の<見える化エンジン>だ。かなり高度な分析が瞬時にできるすぐれもの。
"感情分析"とはぼくが勝手にやってる分析で、放送中のツイートから<好意好感><高揚興奮><否定>にあたるものを抽出する。"好き"とか"いい"などは<好意好感>、"面白い"とか"すごい"とか強い表現のものは<高揚興奮>、そして"いやだ"とか"辛い"のようなものは<否定>とする。それぞれの分類のツイート数が全体の中で占める割合を出していくのだ。
まずは数値を表で見てもらおう。「半沢直樹」「ショムニ」「SUMMER NUDE」にこのクールのもうひとつの注目「Woman」も加えて4つのドラマの感情分析。
この4つはそれぞれ特徴的な数字になった。全体にソツがないのが「SUMMER NUDE」好感も興奮も同程度で否定は少ない。もっとも基本的な形だ。「ショムニ」は好感が高い。これは「やっぱりいい!ショムニ」とか「懐かしいなあ」とか、とにかくショムニが好きだった人たちの、とにかく好きだぞ、という反応の表れだ。
特徴的なのは「半沢直樹」。興奮が異様に高い。"面白い!"というツイートが多かったのだが、何気なく見てみたら思いの外面白かったという反応だろう。
さらに特筆すべきなのが「Woman」だ。「否定」が高い。高すぎる。このドラマ、見た人はわかるが、シングルマザーの過酷な現実を生々しく描き出している。見ていると辛くなるのだ。"辛い"とか"しんどい""見てると苦しくなる"というようなツイートが多い。だからこの「否定」は褒め言葉とも言えるかもしれない。とにかく、見る人の心を強く揺さぶった結果だといえる。
数字をグラフにするともっとわかりやすいだろう。2つずつまとめてレーダーチャートにしてみた。
まずは「ショムニ」と「半沢直樹」。こうして比べると「半沢直樹」の尋常じゃなさがよくわかるだろう。ちなみにこれに似た形はテレビ朝日「ドクターX」などがある。米倉涼子主演でヒットしたドラマで、「半沢直樹」もそれに負けないヒット作になる可能性が十分だと言えるだろう。
そして「Woman」と「SUMMER NUDE」。「Woman」の異常さがレーダーチャートにするとよくわかると思う。こんな形は他になかった。見てると苦しいのに見続けてしまうという麻薬のようなドラマになるのかもしれない。これと、同時間帯である「ショムニ」への反応が今後どうなっていくのか、視聴率争いとともに見物だろう。
Twitterによるドラマの分析は、テレビに関するツイートは基本的に多いのでデータがとりやすいし、テーマとして面白い。でもこれは、いろんな分野に応用できると思うし、実際に商品について、企業について、使われはじめていることだろう。こうした分析から、新しいコミュニケーション手法も生まれてくるのではと期待している。
コミュニケーションディレクター/コピーライター/メディア戦略家
境 治
sakaiosamu62@gmail.com
(※この記事は、2013年7月18日の「クリエイティブビジネス論!~焼け跡に光を灯そう~」から転載しました)