数値目標Yes or No?

科学技術政策の基本となる「第5期科学技術政策」の最終答申案。政府の研究開発予算として投資目標が明記されたことに加え、若手研究者、女性研究者関連で数値目標が書き込まれた。

ノーベルウィークのさなかの12月10日、次の五カ年の科学技術政策の基本となる「第5期科学技術政策」の最終答申案がまとまったという報道があった。科学技術分野における「人材力の強化」や「知の基盤強化」が大きな目標として掲げられ、政府の研究開発予算としてGDPの1%(26兆円)という投資目標が明記されたことに加え、若手研究者、女性研究者関連で数値目標が書き込まれた。

2年ほど前から議論されてきた科学技術基本計画であるが、当初、「数値目標」は入れない方針と聞いていたが、パブリックコメントやその他の意見が反映されたものであろう。若手研究者関係では、「現在4万4000人いる40歳未満の大学教員を1割増加」という数字が入り、女性関係では「自然科学系の女性研究者の新規採用割合を現状の25.4%から30%に」という数値目標が掲げられた。

この「数値目標」に違和感を覚えるという方は少なくない。もともとアカデミアにいる研究者は自由な発想にもとづいて自らの研究を遂行するのが本務であるため、「数値目標」という考え方とは相容れないということもある。昨年まで理事長を務めた日本分子生物学会では、この12月3日に行われた年1回の総会において、「理事の女性比率」に関する数値目標についての申し合わせ事項を削除するという決議を行った。

今期は理事でもないので、理事会での議論についてはわからないが、この学会の会員における女性比率が約30%であり、理事選挙において特別の策を講じなくても3割の女性会員が理事に推薦されたことが何期か続いたので「もう、別にいいだろう」ということになったのだろう。次の理事選挙の際には、「現在、本学会の女性会員比率は35%です。この点も考慮した上で理事の推薦をお願いします」的な文章を入れるなど、きっと一工夫が必要なのではないかと、個人的には考えている。

また、女性研究者の採用目標の数字だけ掲げても、職場環境がそれに対応していなければ達成は難しい。そもそも、この問題は女性への対策だけ考えていても駄目なフェーズに入っている。子育てが女性の側に重くのしかかっている現状のまま、女性を多く採用しましょう、というのは採る方にも採られる方にも過酷なことになる。しかも、男性側からも不満は出るし、女性も「女性枠で採用された」というレッテルは負のスティグマになる。

その意味において、日本分子生物学会は2年前から「男女共同参画委員会」を発展的に「若手キャリアパス委員会」へと改組し、若手研究者の問題と女性研究者の問題を融合的に扱うようにした。日本分子生物学会における男女共同参画は、大坪久子先生@東大(当時)が山本正幸先生@東大(当時)が理事長の頃にワーキング・グループを立ち上げられたのを元とし、それが委員会になって種々の提言などを文科省に提出するなどの活動を行っていたものである。

今年の年会においても、実に活発な議論が為され、学振のRPD制度(育休を取得した方なら男女ともに使え、出身研究室をホストにすることも可能)を、さらに使いやすいものにできないか、など実質的な意見が出ていた。男性が育児に参画できていない現状を変えることは研究業界だけでなく、根本的な問題である。

折しも、Facebookのマーク・ザッカーバーグは第一子が生まれて2ヶ月の育休を取ると宣言した。カナダの新首相の組閣メンバーを見て、男女同数、各種マイノリティー(身体障害者も含む)への配慮が為されていることについて「どうしてこういうメンバーなのですか?」という記者の質問に「??? 2015年だから?」という爽やかな答えをしたのも耳に新しい。数値目標が無くても意思決定の上位にいる方が折々にpolitically correctな対応をされることが、もっとも重要なのではないかと思う。

(2015年12月13日「大隅典子の仙台通信」より転載)

注目記事