厚生労働省は、ハローワークにおいて残業代不払いなどの違法行為を繰り返すブラック企業からの求人を受け付けないという法案を時期通常国会に提出する方針を固めたと報道されています。現状ハローワークは全ての求人を受け付けることが原則となっているため、大きな方針の転換と言えますが、私は「劇薬」になりはしないか?と危惧しています。
すなわち、法定化によってハローワークという政府機関の一つが、正式にブラック企業を「認定する」という強力な権限を持つことになります。企業の不当労働行為をただすという意味では有効な手段の一つだとは思いますが、これにより現実に起こりうることを想定してみましょう。
まず、企業リサーチの会社は必ずこの点をチェックしてくるでしょうし、金融機関の融資査定の項目にも間違いなくなるでしょう。政府機関から「バツ印」を付けられた会社に融資するのは金融機関にとってハードルが高いでしょう。求職者の方も、たとえハローワーク経由の応募でなくとも、「ハローワークで掲載不可になったことはありませんか?」と求人企業に対して聞くでしょう。企業側が嘘を言えば労働契約違反ですから正直に答えざるを得ませんが、そのような企業には当然就職したくないわけで、実質的に求人の道が閉ざされかねません。
違法行為を繰り返してきた企業だから当然の報いだと言えばそれまでかも知れませんが、まさかハローワークによって「息の根を止められる」とは企業側も思わないでしょう。そうなりたくない企業はハローワークへの求人を思いとどまるかも知れません。すると今度は、「あの会社、ハローワークに求人出していないってことはやばい会社なんじゃないの?」などと思わぬ飛び火が生じるかもしれません。
また、ハローワークが恣意的に気に入らない企業を掲載不可にするような濫用を防止しなければならないでしょう。現場では、気に入らない企業に対して「あんたのところ掲載不可にするよ」という圧力として作用するケースも考えられるからです。従って一定のガイドライン作りが当然必要になるでしょうし、その基準は明示すべきです。しかし、この基準が実質的に企業が「超えては行けない違反の程度」として作用することになってしまうでしょう。ある意味許容できる違反の程度を示すことでもあり、これも行政としては変な話です。
この基準が緩すぎたら実効性がありませんし、厳しすぎたらハローワークに出来る企業は100社に1社あるかどうかとなってしまい、「当社はハローワークに求人が出せる優良企業です!」などという笑えない事態も起こるかもしれません。
私は、ブラック企業対策の強化は重要であるとは思いつつ、ハローワークの運用でレッテルを貼ってしまうようなやり方は、企業、ハローワーク双方の首を締めることになってしまうのではないかと懸念します。多くの分野で、法律や規則に違反した企業を公表するというような制度はありますが、それとは比較にならないくらいのインパクトを生むおそれがあります。