昨日、日経ビジネスオンライン(以下、「日経BOL」)に、【スクープ 東芝、米原発赤字も隠蔽 内部資料で判明した米ウエスチングハウスの巨額減損】と題する記事が掲載され、会計不祥事からの信頼回復を図る東芝に、重大かつ深刻な「説明不足」、というより、実質的な「隠ぺい」があったことが明らかになった。
今回の会計不祥事で東証の特設注意市場銘柄に指定され、9月30日の臨時株主総会で、取締役の過半数を社外取締役にするなど、経営陣を一新して再生を図ってきたはずの東芝だが、今回の問題は、早くも、その新体制が全くの見せかけだけのものに過ぎなかったことを露呈した。
東芝が大半の株式を取得して子会社にしていた米国の原発会社ウェスティングハウス・エレクトリック社(以下、「WH社」)で、合計1600億円の巨額減損が発生していたことが、明らかになった。同社の単体決算は2012年度と2013年度に赤字に陥っていたが、日経ビジネス誌が指摘するまで、東芝はその事実を開示していなかった。
東芝は、原発建設事業の国際展開を目論み、2005年にWH社を約6000億円で買収したが、その後、東日本大震災による福島原発事故の発生などで原発建設をめぐる状況が激変、当初の目論見は大きく狂った。
今年に入って表面化した東芝の不適切会計に関して、第三者委員会報告書等で調査の対象とされたのは「損失先送り」という損益計算書(P/L)上の問題ばかりで、貸借対照表(B/S)に関しては会計処理上の問題はないとされていた。WH社の買収の当初の目論見が大きく外れていることから、買収の際に計上されている巨額の「のれん代」の減損を行うべきなのに、適切に行われていないのではないか、ということに関して疑問の声が上がっていたが、東芝はこれまで、原子力事業については一貫して「順調だ」と説明してきた。
今回の日経BOLの記事によって、WH社が巨額の減損処理を行っていたことに加えて、それを東芝の連結決算に反映させないための「屁理屈」を、監査法人に受け入れさせることを画策する社内メールの存在も明らかになった。
このWH社の減損問題に関して、東芝側は、「当社の連結決算には影響がなく、会計ルール上も問題がない」と説明しているようだ。今回明らかになった減損は、原発「建設」というWH社の一部門の問題であって、原発の「メンテナンス」部門は順調なので、WH社全体を子会社としている東芝の連結決算上は、のれん代の減損の必要はない、というのが、会計処理上の理屈としてはギリギリ通るのかもしれない。
しかし、日経BOLの記事に引用された社内メールによると、その理屈は、東芝幹部が監査法人に無理矢理受け入れさせた「屁理屈」だったようだ。その「屁理屈」が、会計処理上は、仮に通るとしても、「原発建設事業における1600億円の減損」の事実を全く公表せず、それについて説明すらしてこなかったことは、日本の経済社会に重大な影響を与えた会計不祥事の当事者である東芝が社会に対して果たすべき説明責任という観点からは、到底許されることではない。
それは、実質的な「隠ぺい」と言わざるを得ない。
WH社の買収に関して、当初同社の原発建設事業を国際展開に活用しようと目論んだのに、その事業が巨額の減損に追い込まれたことは、少なくとも、東芝にとっては重大な事象であり、東芝の連結決算上、減損を回避する理屈があり得るとしても、その理屈を含めて事実を開示して説明することが、東芝にとって最低限の説明責任だと言うべきであろう。
会計不正が行われていた当時、取締役会長という立場にありながら責任追及を免れ、まさに、東芝の信頼回復・再生のために社長の座についたはずの室町現社長は、東芝の事業の現況に関する極めて重大な事実を、公表も説明もしてこなかったことの責任をどうとるのであろうか。
そして、このような社内執行部の社会的責任に目を背けた姿勢に対して、厳しい監視の目を向けなければならないのが、社外役員のはずだ。「社外取締役中心の東芝の新経営陣」は、社会の重大な関心事である東芝の原子力事業に関して、実質的な「隠ぺい」が行われていたことに対して、一体何をやってきたのであろうか。
このようなことがまかり通る企業体質が維持されている限り、日本を代表する伝統企業だったはずの東芝の再生は、もはや「風前の灯」だと言わざるを得ない。
(2015年11月13日 郷原信郎が斬る「原発子会社巨額減損「隠ぺい」 東芝再生は「風前の灯」」より転載)