7月25日、美濃加茂市議会議長森厚夫氏から、藤井浩人美濃加茂市長あての「藤井浩人市長の進退に係る真意について」と題する書面が、弁護人に届いた。
「市長不在の影響は徐々に増加しており、一部の事業は休止及び延期するなどの事態が発生し行政の停滞は避けられない状態となっています。」などと記載され、「行政の最高責任者として自らの進退について、率直な考え方を本市議会に対し明らかにされることを求める」と書かれている。
美濃加茂市では、7月15日に藤井市長が起訴された後にも、新たな署名活動が始まり、「藤井市長の早期釈放と市長職への復帰を求める署名」に、前回の署名15000人余を大幅に超える2万1154人(代理署名を含む。今回の署名では、中学生以下は除外。美濃加茂市の人口の中で対象となる年令層は4万5959人)の署名が集まり、その圧倒的な数の美濃加茂市民の声を受けて、再度の保釈請求に向けて最終の作業を行っている最中だった。起訴直後の保釈請求に対する意見で検察官が述べた「言いがかり」的な「罪証隠滅のおそれ」の指摘をすべて潰す資料も整いつつあった。
こんな時に、「自らの進退について率直な考え方を明らかにしてほしい」というのは、一体、どういう意味なのだろう。その趣旨を確かめるために、森議長と電話で話をした(当方から森議長に電話してもらうよう頼んだが、森議長は、なぜか私と電話で話すのを避けようとし、議会事務局長に2回電話させ、3回目にようやく本人が電話に出た。)。
「市長不在で市政に重大な影響が生じていることはわかりますが、多くの市民が、市長の潔白を信じ、早期釈放を求める署名までしているわけですから、市議会としては、まず、現在、市長の刑事事件がどういう状況にあり、今後、どういう手続きが予定され、保釈請求の予定や見通しはどうなのかなどを弁護人にお聞きになるものかと思っていましたが、そうではなく、いきなり弁護人に藤井市長宛の進退の意向伺いの文書が送られてくるとは思いませんでした。刑事手続きや保釈の見通しなどについては、お聞きになるつもりはないのですか。」と私が言うと、森議長は「そういうことについては市から全く情報が入らないので。」とのこと。
「弁護人の私に聞いて頂ければ、お答えします。その点についても、別途、お聞きになりたいという前提で、今回の進退意向伺いにご協力するということでよろしいですか。」
と尋ねると、森議長は、
「はい。結構です」
と言っていたが、現在まで、森議長からは、刑事手続きの状況や今後の保釈等の見通しについての質問は全く来ていない。
ともあれ、この文書については、弁護団で協議した上、藤井市長に差入れ、市長の回答を、弁護人名の文書で、市議会に伝えることにした。
昨日の接見の際に、進退意向伺いに対する藤井市長からの回答を記載した弁護人宛の手紙を受け取り、それを弁護士名の回答文にして、森議長宛に郵送し、昨日の記者会見で、その内容を公表した。
回答書に記載された藤井市長の「進退意向伺い」に対する回答は以下のとおりだ。
私は、6月24日に収賄事件で逮捕され、7月15日に起訴されましたが、疑われているような中林正善氏から現金を受け取った事実などは全くなく、潔白です。取調べに対しても、一貫して、現金の受領はなく、無実であることを訴えています。
そういう私を、多くの美濃加茂市民の方々が支持し、潔白を信じて、私の早期復職を望んでくださっていると聞いています。起訴後も、2万1000人の方々が署名をしてくださっていると弁護人から聞いており、私を信じ、市長への復職を待ってくれている多くの市民の方々に心からの感謝の気持で一杯です。
今回、森厚夫議長から、進退について率直な考えを聞きたいとのお尋ねを受けましたが、こういう状況ですので、私は、市長を辞任する意思は全くありません。一日も早く、市長職に復帰して、美濃加茂市民の方々のために働きたいと強く願っています。
弁護団の先生方が私を支え、私の保釈に向けて懸命の活動をしてくださっています。今日にも、2回目の保釈請求が行われるそうですし、近く検察官の証拠も開示され、8月中旬には公判前整理手続きが開かれて争点整理が行われる予定と聞いています。
私は、現金を受け取った事実が全くありませんので、当時、浄水プラントの導入に向けて市議として活動を行ったことなどについて、特に争うつもりはありません。弁護団の先生方には、裁判での争点を最小限に絞って、少しでも早く保釈が許可されることをめざす方針をとってもらっています。
長期にわたる市長不在のため、市民の方々や市役所職員の方々、そして市議会議員の方々には、大変な迷惑をおかけし、本当に申し訳なく思っていますが、今しばらく、私の市長復帰を待って頂くようお願い申し上げます。
こうして森議長からの文書への回答として進退の意向を再確認したことで、藤井市長に辞任する意思は全くなく、市長職への復帰をめざしていく強い意向であることが明確になった。そして、なぜ、藤井市長が、それ程までに強い意志で獄中での戦い続けることができるか、その原動力となっているのは何なのか、についても、昨日の接見ではじっくり話を聞くことができた。
そこで、藤井市長が明らかにしたのは、逮捕当日の取調べで、愛知県警の取調官から言われた言葉だった。
連日、早朝からマスコミが自宅周辺に大挙して押し寄せていたため、近所への迷惑を防ぐため、午前5時に家を出て、市役所に登庁、愛知県警本部に連行されて取調べを受けていた間、取調官から怒声罵声を浴びせられ続けたことは、逮捕後の最初の接見の際にも聞いていた。今回の接見で、彼が本当に悔しそうに話してくれたのが、その際、取調官から、耳元で、大声で言われた言葉の中身だった。
「ハナタレ小僧を市長に選んだ美濃加茂市民の気がしれない」
「正直に自白するのが当然だ。早く自白しないと美濃加茂市を焼け野原にするぞ」
藤井市長には、その言葉だけは許せなかった。その後の取調べも、何度も何度も「ハナタレ小僧」と言われ、その度に、「自分だけでなく、美濃加茂市民のことまで侮辱して、受け取ってもいないお金を受け取ったと言わせようとする奴らには、絶対に屈服できない。」と思ったそうだ。
藤井市長は、現在の心境を淡々と、しかし、力強く語ってくれた。
「『逆境にあっても、負けてはいけない』という姿勢を、美濃加茂市の、次の世代の皆さんに見せていきたい。市民の皆さんが応援して見てくれている中で、屈するわけにはいきません。」
取調官がこのような粗野な言葉を発するのは、負い込まれているからである。市長と言っても「ハナタレ小僧」だから、少し怒鳴って脅しつけてやればすぐに自白するだろうという「見込み」で、この日の市長聴取に着手したのではないか。
そして、このような言葉の背景には、多くの場合、「集団的意思」が存在している。岐阜県の美濃加茂市民が支持する全国最年少市長に対する愛知県警という組織の認識が、そういうものなのであろう。
森厚夫議長からの藤井市長宛「進退意向伺い」への対応をきっかけとして、勾留中の藤井市長に現在の強い意志と心情について語ってもらうことができ、昨日の記者会見で私の方から市民の皆さんに伝えることができた(ニコ生で動画放映⇒【美濃加茂市長収賄事件】保釈請求について 郷原信郎弁護士 記者会見)のに加え、この市議会からのは、昨日、名古屋地裁に請求した2回目の保釈請求の資料としても活用できるものだった。
前回、起訴直後の保釈請求においても、市長不在によって美濃加茂市政に重大な影響が生じていることを、速やかに保釈を許可すべき事情として主張したが、検察官は保釈に対する意見書で、「様々な事情によって市長が不在になることはあり得ることで,それが故に地方自治法で職務の代理が規定されているのであって,同市においても,同法に基づいて副市長が職務を代理して事務が行われている。」という理由で、市長不在の市政への影響は、保釈に関して考慮すべきではない、と述べていた。森議長の「進退意向伺い」の中で、「市長不在が一ヶ月を超え、副市長が職務代理者となり市政が運営されているが、市長不在の影響が徐々に増加し、一部の事業が休止ないし延期するなどの事態が発生するなど行政の停滞は避けられない状態となっている」と市政への影響が強調されていることで、検察官の意見は、全く通らないことが明らかになった。
今回の保釈請求では、検察官が前回保釈請求に対する意見で指摘した「罪証隠滅のおそれ」が、ことごとく無くなっていることを詳細に主張した。その主張を裏付けるため、検察官が「いい加減しゃべったらどうだ」などと自白を迫るばかりで、具体的に争点を明確にするための取調べを殆ど行っていなかったことについて、弁護人側で、数通の被告人供述録取書を作成した。また、検察官は、「藤井市長を保釈すると、市長として美濃加茂市役所の担当課長に対して自己に有利な供述をするよう働きかけることで罪証隠滅のおそれがある」などとしていたが、同課長の取調べでの供述内容は、弁護人側で把握し、被告人の藤井市長の側として特に争うべき点もないことを明らかにした。
こうして、市長不在による市政への影響が一層深刻化していることが市議会議長の文書で明らかになり、しかも、市長辞任の意向は全くなく、一方で、罪証隠滅の恐れもほとんどないことが明らかになっている状況で、裁判官は、今回の保釈請求をどのように判断するのか、注目したい。
一方で、全く不可解なのが、この森厚夫議長の言動である。
7月25日の美濃加茂市議会で開かれた議員報告会で、藤井市長宛に「進退意向伺い」の文書を出すことが決まり、記者会見でそれを公表した際、議長の談話として、「藤井市長が自ら辞職しない場合には、『八月十九日開会の定例会に、辞職勧告決議案や問責決議案を提案できるよう調整したい』との考えを、報告会の場で他の市議たちに示したことを明らかにした」と報じられている。
この森厚夫議長の「談話」について、美濃加茂市議会議員の柘植宏一氏が、自らのブログで、同記事を引用した上、
そのような議長の考えを報告会の場で示された事実はありません。
記者の取り違えでしょうか?
25日の報告会においては、辞職を勧告すべきとする意見も一部にありましたが、基本的には、16日に開催された報告会において集約された「先ずは市長の意向を聞くべし」との意見にしたがって、議会として正式に市長の意向を確認するための、文書内容の確認をしたと言うことであり、それ以上でも、それ以下でもありません。
市長の回答を待って、議員それぞれが各自の判断で行動するということだと思います。
と書いている。
圧倒的な多数の市民が潔白を信じ、早期釈放・市長職復帰を望んでいるのであるから、市議会議員の側も、その意向を無視できないはずだ。まずは、一日も早く市長が保釈され、復職できるよう条件を整えること、そして、市議会として、今の段階でできることは、市長の意向を確認することだけ、というのが、市議会議員全員が集まった報告会での市議会としての意向だったはずだ。
いくら「議長個人の談話」とは言え、報告会で示してもいない考え方を示したように発言し、それを新聞に書かせ、あたかも、市議会全体が辞職勧告決議に向けて動き出したかのような印象を与えるというのは、どういう魂胆によるものなのであろうか。
弁護人の私に、刑事手続きや保釈請求の予定などについても尋ねると言っておきながら、全く何の問合せもしてこないというのは、その点には全く関心がないどころか、いつまでも身柄拘束が続いていることを前提に、何とかして「辞職勧告決議案」を通したいということであろうか。
森厚夫美濃加茂市議会議長の「真意」を聞きたい。
(2014年7月30日付「郷原信郎が斬る」を転載)