森友文書書き換え問題、国会が調査委員会を設置すべき

今回の問題が刑事事件として起訴に至る可能性は低い。
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学校法人「森友学園」との国有地取引の際、財務省近畿財務局の管財部門が作成した決裁文書について、「契約当時の文書」と、「国有地売却問題の発覚後に国会議員らに開示した文書」の内容が違っていたと朝日新聞が報じた問題、3月7日に、国有地取引を担当していた近畿財務局職員が自殺し、9日に、国会議員に決裁文書を開示した当時の財務省理財局長佐川宣寿氏が国税庁長官を辞任した。

そして、昨日(3月12日) 財務省は、合わせて14の決裁文書に書き換えがあったこと、それらは、当時の財務省理財局の指示で、近畿財務局が書き換えを行っていたことを認める調査結果を公表した。

この問題に関しては、3月8日に出したブログ記事【「森友決裁文書書き換え問題」は"2つの可能性"を区別することが必要】で、国会議員に開示された決裁文書とは異なった内容の決裁文書が財務省内に存在していたとすると、「決裁文書原本の写しとして国会議員に開示された資料が、開示に当たって書き換えられた可能性」と「公文書として財務省が管理しておくべき決裁文書原本そのものが、最終的に現在の内容になるまでの間に書き換えられた可能性」の二つ可能性があることを指摘した。

今日の財務省の調査結果の公表によると、上記の二つの可能性のうち前者の「国会議員への提出用の決裁文書の写しの書き換えが行われた」ということのようだ。

朝日新聞が指摘していた「特例的な内容となる」「本件の特殊性」「学園の提案に応じて鑑定評価を行い」「価格提示を行う」など森友学園に対する「特例的な扱い」を示す言葉のほか、「安倍昭恵夫人」、籠池氏と「日本会議大阪」の関係などの記載が削除された「決裁文書の写し」が作成され、それが真正な決裁文書の写しであるように装って国会議員に開示されていた。まさに、国会での審議或いは国政調査権の行使等に関して重要な事実を隠蔽したということであり、行政権の行使について内閣が国会に対して責任を負う議院内閣制の根幹を揺るがしかねない許すべからざる行為だ。

しかし、それについて、公文書偽造罪等の刑法上の「文書犯罪」が成立する可能性は高くないように思える。

問題は、第1に、国会議員に提出した「決裁文書の写し」が偽造・変造等の対象となる「公文書」に当たるか、第2に公文書偽造・変造罪の成否、第3に虚偽公文書作成罪の成否だ。

第1の点は、「原本の写であっても、原本と同一の意識内容を保有し、証明文書としてこれと同様の社会的機能と信用性を有するものと認められる限り、公文書偽造罪の客体となる」との判例(最判昭和51年4月30日)もあるので、書き換えた「決裁文書の写し」を国会議員に提出し、決裁文書の原本が同一の内容だと信じさせた本件において、「写し」であることが公文書偽造・変造等が成立の妨げにはなることはない。

第2に、公文書偽造・変造罪の成否だが、それらが成立するのは、決裁文書の作成権限者以外の者が、その了解なく、作成権限者の名義で勝手に公文書を作成した場合だ。作成権限者の了解の下に作成したのであれば偽造・変造罪は成立しない。決裁当時の作成権限者が既に異動している場合は、職務権限規程の内容によるが、書き換えた時の作成権限者が書き換えを了解できると解し得る場合が多いであろう。決裁文書の書き換えについて、公文書偽造・変造罪が成立する可能性は低い。

最大の問題は、第3の虚偽公文書作成罪の成否だ。

今回の「書き換え」は基本的に「一部記述の削除」に過ぎない。一部の文言や交渉経緯等が削除されたことによって、国有地売却に関する決裁文書が事実に反する内容の文書になったと認められなければ「虚偽公文書の作成」とは言えない。「特例的な扱い」を示す記述の削除は、それによって、実際には、国有地売却が「特例的な扱い」であったのに、特例的ではない「一般的な扱い」による売却として決裁されたという内容の決裁文書になったと認められれば、「虚偽公文書」に当たることになる。財務省側は、交渉経緯や「安倍昭恵夫人」「日本会議大阪」に関する記載が削除された点は、決裁文書において決裁の根拠となった「本質的な内容」ではなく、「虚偽公文書」には当たらないと主張するであろうし、その点は、まさに疑惑の核心とされてきた、森友学園と安倍昭恵氏との関係、日本会議大阪と籠池氏との関係等が、国有地売却の決裁において重要な影響を及ぼしたかどうかに関連する。その影響があったと認められなければ、これらの記載を削除した決裁文書の写しの作成が「虚偽公文書作成」に当たるとは言えない。

なお、国会での議論において重要となる記載を意図的に削除した決裁文書の写しを「真正な決裁文書の写し」であるかのように装ったからといって、文書の内容自体が虚偽でなければ、「虚偽公文書の作成」には当たらない。「決裁文書の写し」の行使目的が「国会に対する騙し」だったということとは、別の問題である。

このように考えると、今回の書き換えについて、公文書の偽造・変造、虚偽公文書作成などの「文書犯罪」が成立する可能性はかなり低いように思える。むしろ、国会議員の調査や国会での審議に対する妨害であることからすると、元検事の住田裕子弁護士がテレビ番組等で主張しているように、むしろ、「国会議員の調査や国会での審議に対する妨害」として「偽計業務妨害罪」ととらえる方が、実態には即していると言うべきであろう。しかし、国勢調査による真相解明を妨げる行為については、国会での虚偽答弁自体が処罰されないのに、それに合わせる形で行った文書の書き換えが、国政調査権の行使を妨げる「偽計業務妨害罪」と言いうるかが問題となる。

国会での議論において重要なポイントとなる記載を削除した「決裁文書の写し」を真正な決裁文書と内容が同一であるように装って提出するということは、議会制民主主義の根幹を損なう行政機関の国会及び国民に対する裏切りであり、到底許容できないものだ。しかし、そのような行為は、法の想定を超えたものであり、犯罪として処罰することには、もともと限界がある。

この問題に関しては、客観的な立場から、事案の経緯・背景を解明し、行為者を特定し、なぜ、このようなことが行われたのかについて、詳細に事実を解明することが不可欠であり、犯罪捜査や刑事処罰は中心とされるべきではない。その調査を、今回の問題で著しく信頼を失墜した財務省自身が行っても、調査結果が信頼されることはないだろう。独立かつ中立の立場から信頼できる調査を行い得る「第三者による調査」の体制を早急に構築することが必要である。そして、その調査体制の構築も、当事者の財務省に行わせるべきではない。今回の問題の性格・重大性に鑑みると、「書き換えられた決裁文書」の提出を受けた「被害者」とも言える「国会」が主導的な立場で調査を行うべきであり、福島原発事故の際に国会に設置された「東京電力福島原子力発電所事故調査委員会」のような、国会での国政調査の一環と位置付けるべきだ。

今回の書き換えが犯罪に当たる可能性は全くないとは言えないが、国会主導の調査が行われ真相が解明された後に、その結果を踏まえて、「被害者」である国会が告発を行うかどうかを検討すべきであろう。

重要なことは、犯罪に該当する可能性が低いのに「検察の捜査に協力する」などということを、「調査を十分に行わないことの口実」に使われることがないようにすることだ。

今回の問題の重大性、悪質性からすると、「公務員犯罪として処罰すべきだ」という声が高まり、野党やマスコミの追及においても、「犯罪捜査、関係者の逮捕、刑事処罰」等を強く意識したものになる可能性がある。しかし、これまで述べてきたように、今回の問題が刑事事件として起訴に至る可能性は低い。検察当局も、犯罪に当たる可能性が低いことは当然認識しているはずであり、告発でも行われない限り、正式に「捜査中」とコメントすることはないはずだ。

今回の問題について、犯罪処罰を追求し、告発等を行うことは、重要な事実について調査回避の口実を与え、真相が解明されることを免れようとする側を、かえって利することになりかねない。

(2018年3月14日「郷原信郎が斬る」より転載)

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