マック問題における「商品の品質」と「顧客対応の品質」の混同

昨年末から、マクドナルドのハンバーガーやチキンナゲット等の商品に、ビニール片、金属片、中には人の歯が発見されたなどと、異物混入の問題が、連日、メディアで大きく報道されている。
AFP時事

昨年末から、マクドナルドのハンバーガーやチキンナゲット等の商品に、ビニール片、金属片、中には人の歯が発見されたなどと、異物混入の問題が、連日、メディアで大きく報道されている。

ワイドショーで、匿名・顔無しで登場する異物混入の「被害者」は、「マクドナルド側は100円返金しただけで、謝罪がなかった。原因についても説明がなかった。」などと同社側の対応を厳しく批判している。

3連休中に立ち寄ったショッピングモールのフードコートでは、他のコーナーは行列ができているのに、マクドナルドのコーナーだけが閑散としていた。このことからも、「異物混入問題」の影響の深刻さを感じる。

異物混入の問題についての見方は二つに分かれる。「商品として出荷された食品に異物が混入することなどあってはならない。許されない。」という教条主義的な考え方がある一方で、「食品の製造工程で異物混入を完全になくすことは不可能であり、それを一つひとつ取り上げるのは騒ぎ過ぎ。」という、冷静な見方もある。

多くの食品企業では、「100万個の商品についての発生件数」をPPMという単位で表示し、異物混入の統計をとっている。異物混入で健康被害が発生したとか、その危険性があったというのであれば話は別だが、そのような問題ではない異物混入については、本来は、このPPMの数値等に基づいて発生頻度の大きさが問題にされるべきだ。

そういう意味では、今回の異物混入の問題は、「商品の品質問題」としてとらえると、報道は過剰であり、この問題を正しく伝えているとは言い難い。

もっとも、直近の報道で取り上げられているのは、必ずしも「異物混入の問題」自体ではない。むしろ、異物混入の事実が指摘されたことに対するマクドナルド側の対応の問題が取り上げられることが多くなっている。

そこには「顧客対応」というもう一つの問題がある。

食品に関連する事業は、製造業、流通業、小売業、飲食店事業の4つに大別できる。

食料品を工場で大量生産して供給する食品製造業の場合、顧客との接点は日常的なものではない。直接対応しなければならないとすれば、商品に関して消費者からの苦情等があった場合である。この場合、もし、製品の品質に問題があれば、ほとんどの場合、当該製品だけではなく、同じ工場やラインで製造された製品全体に関わる問題になるので、消費者からの苦情に対しては、情報の収集把握の観点からも、最大限に丁寧に対応することが求められる。(ペヤングが虫の混入問題で商品の出荷を全面的に停止したのは、まさにその典型例である。)

一方、食品小売業、飲食店事業の場合、顧客との接点は日常的だが、顧客から商品や提供した料理に関して苦情・クレームがあった場合にも、それは当該食品の提供の過程、つまり小売業であれば商品の保存・管理、飲食店であれば食材の加工・調理の過程における個別問題である可能性の方が大きい。そのため、提供する商品や料理全体に関わる問題というよりは、その苦情・クレームを言ってきた特定の顧客との個別対応の問題になる場合が多い。

そして、その顧客対応においては、礼節をもって丁寧に対応するのは当然であるとしても、中には「不当要求」や「詐欺的な要求」というのもあり得るのであるから、顧客の要求にすべて応じることが適切な対応、ということにはならない。

一般的に、顧客対応に関しては、小売業や飲食店の業態や取扱う商品のグレード等に応じた「業務品質」が要求されることになる。同じ飲食店事業であっても、高級レストランとファーストフード店との間には、要求される顧客対応の品質に差があるであろう。

そういう観点から言えば、全国津々浦々に膨大な数のハンバーガーショップを擁し、大量の飲食物を提供するマクドナルドの業態というのは、ちょうど食品製造業と小売業、飲食店事業の中間形態であり、そこには、顧客対応に関する複雑な要素がある。

主として国外の工場で製造した食材を、個々のハンバーガーショップで加工し、店内で顧客に提供する。そこで、顧客からの商品に関する苦情・クレームがあった場合、原因としては、工場での製造過程と、ハンバーガーショップでの加工の過程の両方が考えられるが、厳重な製造管理が行われている工場の過程より、個別のハンバーガーショップでの加工の過程での発生確率の方が圧倒的に大きいのが一般的であろう。

このことを前提にすれば、マクドナルドにおける顧客対応は、基本的には、飲食店事業型であり、しかも、提供する商品のグレードという面で言っても、一般的に要求される「顧客対応の品質」は、高級レストランとは異なるものといえ、だからこそ、アルバイト中心の従業員や若年の店長等による対応が可能だということであろう。

このように考えると、少なくとも、このところ新聞、テレビ等で報じられている「異物混入問題」におけるマクドナルドの顧客対応が、特に問題があると言えるかどうかは疑問だ。

それなのに、これだけの騒ぎになってしまったのは、なぜだろうか。

異物混入を発見した消費者が、メーカーに連絡をする前に、ネット上に写真をアップしたり、マスメディアに連絡をしたりすることが原因との指摘もあるが、それは一因ではあっても、主たる原因ではないように思う。

通常であれば、商品の中にビニール片等の異物が入っていたとしても、その写真をすぐにネット上にアップすることはしないであろうし、もし、アップされたとしても、それがすぐにネット上で大きく取り上げられて大騒ぎになることもない。

一般的には、ハンバーガーショップにおける「異物混入」の問題は、工場での製造過程の問題ではなく、個別店舗の問題であり、その一つひとつが、マクドナルド全体の問題として大きく取り上げられることにはならないからだ。

それが、今回の「異物混入問題」では全く異なった展開になった理由として考えられるのは、2014年7月に発覚した、マクドナルドの「消費期限切れの食肉使用問題」だ。

上海の中国法人が製造した消費期限切れ食肉がマクドナルドの商品の原料として使われていた問題は、マクドナルドの商品の品質問題そのものであった。それが、メディアで大々的に報道されたことによって「マクドナルドの商品の品質」に対する信頼が大きく揺らいだ。

その問題から半年しか経過しておらず、マクドナルドの商品イメージに影響が残っている状況下で、「異物混入」がネット上にアップされたことで、もともとは、個別店舗における「顧客対応」の問題だったのが、消費期限切れの食肉問題と同様の「商品の品質問題」のように誤解された面があるように思われる。

その点の誤解が、インターネットでの情報拡散、マスコミでの大々的な報道につながり、社会的問題となってくると、個別店舗における異物混入に対する顧客対応の問題までもマスコミ等で大きく取り上げられることになる。

では、マクドナルドは、食品関連企業として、今回の問題に対してどのような対応をすべきだったのだろうか。

まず重要なことは、昨年の消費期限切れ問題の影響を考慮して、通常の「異物混入問題」とは異なった対応を行うことだったと考えられる。

ネットでの動きが始まった段階で、ハンバーガーショップにおける「異物混入」が、一般的には「個別店舗の問題」であることを理解してもらうため、「異物混入」についての問合せ・苦情件数の推移の統計数字等を用いて、それが、消費期限切れの食肉問題のような「工場の製造過程における品質問題」とは性格が異なることを十分に説明することが必要だった。

会社として、すみやかに、ネットで取り上げられている問題について、それがどのような問題なのかを丁寧に説明すれば、大きな誤解は防げたはずだ。

食品企業の危機対応は、発生した問題の性質と、それに関連する環境を考慮した柔軟なものでなければならない。危機対応は決してマニュアル通りで済むものではない。

そういう意味で、マクドナルドの「異物混入問題」への対応は、食品企業の危機対応にとって大きな教訓となるものと言えるだろう。

今回の「異物混入問題」については、マスコミ報道にも危ういものを感じざるを得ない。現時点では、報道ないし放送倫理上の問題は具体化していないが、一つ間違うと、ちょうど8年前の今頃の「不二家消費期限切れ原料使用問題」でのTBS「みのもんたの朝ズバッ」のような問題を引き起こしかねない。

この時も、ペコちゃんブランドで国民的に人気が高い不二家に対するマスコミのバッシングは異常だった。

当初は、消費期限切れの牛乳をシュークリームの原料に使用した事実を「バレたら雪印の二の舞」と言って社内に箝口令を敷いたことへの「隠ぺい企業批判」から始まったが、実は、この「雪印の二の舞」は、雪印の社内者が考えたものではなく、外部のコンサルタント会社のスタッフが、自らの存在価値を誇示するため、社内会議に提出した資料の中で使った表現であった。「隠ぺい企業批判」は誤解であり、「消費期限切れ牛乳使用」といっても品質上何の問題もない、単なる社内基準違反だった。⇒拙著【思考停止社会(講談社現代新書)19頁】

しかし、それがわかっても、マスコミのバッシングは止まらなかった。些細な社内基準違反や、真偽不明の元従業員の告発証言を取り上げるなどして、連日、新聞・テレビでの不二家バッシングが続いた。その中で、異常なまでの執拗な報道を展開したのが「TBS朝ズバッ」だった。一日平均15分の枠を使って連日不二家問題を取り上げ、その中で、凡そ公共の電波での放送にはあるまじき報道を垂れ流し続けた。【組織の思考が止まるとき(毎日新聞社)205頁以下・166頁以下】

この番組の不二家バッシング報道の中には、「異物混入」を取り上げたものもあった。

2007年1月31日の番組で、異物混入問題で批判されていた不二家が、件数が他メーカーと比較して特に多くないことの根拠として、1年間の「異物混入問い合わせ件数」を「1670件」と公表し、100万個当たりの発生件数を意味する「PPM」の数字が食品メーカーにおける一般的な数字と異ならないことを示したのだが、翌日の「朝ズバッ」では、「問合せ件数」をことさらに「苦情件数」に書き替え、PPMの数字を削除した表を紹介した上、みのもんた氏が、「苦情件数が1年間に1670件」だと呆れたように言い放った上、「これはもう異物というより汚物だね、こうなると。」などと、食品メーカーの問題に対して、絶対に口にしてはならない「汚物」などという言葉で、不二家をこき下ろしたのである。

不二家には全国に洋菓子のフランチャイズ店を展開している。この問題の不二家バッシングの影響で、そのうち2割の店が、倒産・廃業に追い込まれ、自殺者まで出ることとなった。

不二家信頼回復対策会議の議長として、あまりに理不尽な不二家バッシングへの怒りと悲しみを経験した私には、今回のマクドナルド・バッシングが、不二家バッシングのような異常な事態に発展することが懸念されてならない。

マスコミ関係者には、このところ報道されている問題が、「商品の品質問題」ではなく「顧客対応の品質問題」であることを認識・理解した上、節度ある、良識に基づく報道が行われることを切に望みたい。

(2015年1月13日「郷原信郎が斬る」より転載)

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