7月15日、ディズニーの人気アニメ映画『ズートピア』の劇場公開が終了した。4月23日の公開以来わずか2ヶ月で国内の総観客動員数は540万人を超え、興行収入は70億円を突破。
世界での興行収入も、『アナと雪の女王』に続いて10億ドルを超えたそうだ。この映画で描かれているテーマは、草食動物と肉食動物とが共存を目指す動物の"楽園"ズートピアに求められる「社会の多様性」だ。
ウサギのジュディ(女性)は正義感が強く、ウサギ初の警察官になることを夢見ていた。警察学校を首席で卒業し、晴れてズートピアの警察官になるのだが、さまざまな差別に遭遇する。
ズートピアでも種族や性別で職業上の「ガラスの天井」があるのだ。ズートピアの市長はライオン(男性)、名ばかりの副市長の羊(女性)は、市長のアシスタントとして虐げられていた。
ジュディは警察署の受付のチータ(男性)に『かわいいウサギ』と言われ、『見た目で判断しないで』と切り返す。しかし、ジュディのなかにも肉食動物に対する偏見や、キツネは詐欺師だという先入観が潜んでいるのだった。
キツネのニック(男性)は、子どもの頃にいじめられたことがトラウマになり、世間の偏見を甘受して詐欺師として生きてきたが、本当は正直な心優しいキツネなのだ。
運転免許センターの職員はナマケモノたち。仕事ぶりは遅く、ジュディをイライラさせる。しかし、生きる速さはそれぞれなのだ。また、ズートピアのなかには裸で暮らしている動物もいる。ジュディは戸惑うのだが、文化の多様性を示唆しているようで面白い。
ズートピアはさまざまな動物が互いの違いを認め合いながら多様な社会を構成する"楽園"のはずだが、実際には、今日の人間社会と同様の差別や偏見に溢れているのだった。
最近、イギリスがEUから離脱することを表明、アメリカでは白人警察官による黒人射殺事件など、世界は多様性どころか分断の危機にすらあるのではないかと思われる。
このような国際情勢のなかで、『ズートピア』は動物の姿を通じ、互いの違いを尊重する「社会の多様性」の重要性を浮き彫りにする。ジュディは最後まで、誰もが可能性を現実のものにできる多様性社会をあきらめないのだ。
ディズニーのアニメ映画では、デフォルメされた豊かな表情の大きな目により微妙な感情も鮮やかに表現されている。ダイバーシティという抽象的な概念も『ズートピア』を観れば、大人はもちろん子どもにもよく理解できるのではないか。
『みんなちがって、みんないい*』という「社会の多様性」は、すべての人を幸せにするだろう。是非、親子で一緒に観ることを勧めたい作品である。
(*1) 金子みすゞの詩『私と小鳥と鈴と』より
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(2016年7月19日「研究員の眼」より転載)
株式会社ニッセイ基礎研究所
社会研究部 主任研究員