「リビング・ラボ(Living Lab)」という言葉をご存知だろうか。筆者も最近知ったところであるが、それは「住民(ユーザー)と"共創"する拠点」を指し、一つの新たな調査研究及び事業開発の手法としていま注目されている。
これに詳しい西尾氏によれば、リビング・ラボは1990年代前半に米国で構築され、2000年に入ると北欧(フィンランド等)を中心に急速に拡大し、今では世界に320のリビング・ラボが認められ、さらに世界的なネットワーク化も進められているとされる。
リビング・ラボには、「住民(ユーザー)」「企業(多業種)」「行政」「大学」等、多様なステークホルダーが参画し、テーマ/課題に応じた「検討⇒開発⇒評価」を繰り返し行いながら、モノやサービスあるいは行政施策等を共創していくことが一つのモデルとされている。
住民(ユーザー)が「検討⇒開発⇒評価」の全ての段階に参加している点が従来の商品サービス開発や政策立案のプロセスと最も異なっているところと言える。
日本では近似する概念及び取り組みとしてオープン・ソーシャル・イノベーション等の活動も認められるが、北欧に見られるリビング・ラボの姿はまだ存在していないのではないかと思われる。
筆者も参加する東京大学産学連携組織ジェロントロジー・ネットワーク「高齢者の生活ニーズ・ライフデザイン研究会(WG8)」の中では、現在、日本におけるリビング・ラボのあり方について研究を深めているところであるが、様々な課題は挙げられる一方、リビング・ラボに対する期待も大きい。
例えば、企業が「高齢者のニーズにあった商品を開発したい」、「自社の商品が高齢者にとって使い勝手がいいのか」という調査及び検証を行いたいとき、そのつど費用もかけながら市場調査等を行っているのが現状であるが、仮にリビング・ラボが一つの社会インフラのように常設されていれば、困ったらリビング・ラボに問合せてみようという効率的な展開が可能となる。
他方、住民(生活者)の視点に立っても、リビング・ラボは新たな活躍や交流の機会が得られる場となる。特にリタイアした高齢者にとっては、有意義な新たな社会参加の機会になるのではないかと考える。
リビング・ラボについては、地域社会に常設していくことでどれだけの効果が期待でき、また実効的な運営ができるかなど多くの検討が必要であるが、筆者としてはこれからの日本社会の新たな発展の可能性としてリビング・ラボについて研究を深めていこうと考えている。
関連レポート
株式会社ニッセイ基礎研究所
生活研究部 主任研究員
(2014年12月15日「研究員の眼」より転載)