1――現在の経済勢力図
国際通貨基金(IMF)の統計によると、2017年の世界の国内総生産(名目GDP)は79.9兆米ドル、内訳は世界第一位の米国が19.4兆米ドル、第二位の中国が12.0兆米ドル、第三位の日本が4.9兆ドル、第四位がドイツで3.7兆ドルなどとなっている(図表-1)。
また、シェアでみると、米国が24.3%で4分の1を占めており、中国は15.0%、日本は6.1%、ドイツは4.6%である(図表-2)。
2――消費と投資で大きく異なる勢力図
また、国際連合がまとめた統計で需要別にみると、2016年の世界の個人消費は43.6兆米ドル、シェアは米国が第一位で29.4%、第二位は中国で10.1%、第三位は日本で6.3%であり、個人消費に焦点を当てると米国の存在感が際立ち、中国は米国の3分の1に過ぎない(図表-3)。
一方、投資に焦点を当てると様相は大きく異なる。世界の投資(総固定資本形成)は18.6兆米ドル、シェアは中国が第一位で25.6%を占めており、第二位である米国の19.6%を上回っている(図表-4)。
3――経済勢力図の変遷
第二次世界大戦後の世界は東西冷戦時代だった。共産主義(東側)の盟主:ソビエト連邦(ソ連)と資本主義(西側)の盟主:米国がイデオロギーを巡る覇権争いを繰り広げていた。当時(1970年)の世界の国内総生産(名目GDP)は3.4兆米ドル、シェアは米国が第一位で31.6%、第二位はソ連の12.7%、第三位はドイツの6.3%、第四位は日本の6.2%などとなっていた(図表-5)。
しかし、その後のソ連では経済が停滞したため、そのシェアはソ連崩壊直前(1990年)に3.4%まで縮小、米国との差は歴然となった。ソ連に代わって世界第二位に浮上したのが日本であり、1987年には一人当たりGDPで米国を超えた。そして、日米貿易摩擦が深刻化した時期と重なる(図表-6)。
その後、2010年に日本を抜き世界第二位の経済大国になったのが中国である。1978年に改革開放に動きだした中国は、旧ソ連諸国に先駆けて1980年にはIMFと世界銀行に加盟、1993年には市場経済を通じて社会主義を実現するとして憲法を改正し「社会主義市場経済」へ移行、2001年には世界貿易機関(WTO)にも加盟した。
米国を発火点に世界経済を揺るがしたリーマンショック(2008年)に際しても、欧米先進国の成長率が軒並みマイナスに落ち込む中で、中国はいち早く大型景気対策を打って前年比9.2%増の高成長を維持、日米を大きく上回る経済成長を続けて世界第二位に浮上した。
4――5年後の勢力図と日本の立ち位置
最後に、5年後の経済勢力図をIMFの予測値を用いて想像してみよう。2022年の世界の国内総生産(名目GDP)は108.5兆米ドル、シェアは米国が第一位で21.9%、中国が第二位で18.4%、第三位は日本の5.3%という世界となりそうである(図表-7)。
また、この間のGDP増加額を計算してみると、第一位は中国の7.9兆米ドル、第二位は米国の4.4兆米ドルで、中国が増加額では米国を上回る。また、第三位はインドの1.6兆米ドルで、日本やドイツの増加額を上回っている(図表-8)。
このように世界の経済勢力図が米国一極体制から米中二極体制へと変化し、米中両国の覇権争いがますます深刻化していくと見られる中で、日本の立ち位置が難しくなってきた。
日本と米国は同盟関係にあり、自由民主主義の政治制度、自由資本主義の経済制度、基本的人権の尊重など価値を共有する面が多いものの、米国が環太平洋パートナーシップ協定(TPP)から離脱し、2020年以降の地球温暖化対策の国際的枠組みを定めたパリ協定からも離脱、イラン核合意からも離脱するなど意見が対立する場面も増えつつある。
一方、マルクス・レーニン主義(人民民主主義)の政治制度を堅持し共産党による国家指導を正当化する中国とは価値観の面で大きな隔たりがあり、国家資本主義の経済制度や基本的人権の軽視に関しても相容れない。
しかし、日中平和友好条約締結40周年を迎える中国とは経済面で強い結び付きがある。そして、今回のように中国が対外開放を進め輸入関税を引き下げるなど自由化改革を進める方向を堅持し、国際的枠組みの下で紛争を解決するスタンスを維持するなら、米国と意見が対立したとき中国と協力する方が良い局面も増えてくるだろう。
米中二極体制の下、米中両国といかに関わり自らの利益を守っていくのか、日本の外交力が問われることになりそうだ。その点、EUがここもとの米欧貿易摩擦で取ったスタンスは参考になるだろう。
EUは6月1日、米国の輸入制限に対してWTOに紛争解決に向けた協議を要請すると同時に、中国の知的財産権侵害に対してもWTOの紛争処理手続きを開始、米中どちらにも偏らず自らの利益を守るスタンスで臨んだ。日本にとってはEUとの協力もその重要性を増しそうである。
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(2018年6月8日「基礎研レター」より転載)
株式会社ニッセイ基礎研究所
経済研究部 上席研究員