11月1日は何の日かご存知でしょうか?ヒントは、紺色のスーツを着た親子連れです。小学校入学前のお子さんがいると、ピンとくるかもしれません。答えは、私立小学校受験のピーク日です。
小学校受験、いわゆる「お受験」は、都会の一部の家庭がするものというイメージが強いですが、最近は少し事情が変わってきているようです。
文部科学省「学校基本調査」によると、私立小学生の割合は、近年上昇しています。小学生全体に占める割合はごくわずかですが、1990年から2016年にかけて、0.68%から1.21%へと約2倍に膨らんでいます(図1)。
児童数で見ると、少子化で小学生が937万人から639万人(△299万人、△31.9%)へと大幅に減少する中、私立は6.4万人から7.7万人(+1.3万人、+21.0%)へと増えています(図2)。
一方、1990年代以降、日本経済の低迷により、児童のいる世帯の平均所得は、やや減少傾向にあります(図3)。しかし、学費のかかる私立に通う小学生は、逆に増えているのです。この背景には、一体、何があるのでしょうか。
まず、親の高学歴化があげられます。今の子育て世代、特に30代以下では、男性の大学進学率は4割、女性はおおよそ3割を超えて上昇しています(図4)。
私立の高額な学費は家計には負担でも、自分が受けてきた以上の教育を、早い時期から我が子に与えたいと考える親が増えているのかもしれません。特に、母親の影響が大きい印象があります。
女性は、1995年までは短大進学率が大学進学率を上回っていましたが、1996年に逆転しました。かつての「女の子だから成績が良くても短大」という価値観は薄まり、性別を意識せずに進学するようになった女性が母親になることで、より教育熱が高まっているのではないでしょうか。
そして、経済力を持つ女性が増えていることもあるでしょう。1990年代は男女雇用機会均等法の改正などもあり、男性並に働く女性が増えています。共働き世帯数が専業主婦世帯数を上回るようになり、未就学児を持つ母親の就業率も上昇しています(図5)。
総合職同士などの夫婦も増え、若い共働き世帯の一部では、教育費が出しやすくなっているのではないでしょうか。一方で1990年代は就職難で非正規雇用者が増えた時期でもあり、同世代間の収入格差も懸念されるところです 。
小学生を持つ世帯の年収分布を学校別に見ると、やはり公立より私立の方が高年収の比率が高く、世帯年収1,200万円以上の割合は、公立では5.7%ですが、私立では約半数にもなります(図6)。
さらに、私立小学校受験児童の両親の就労状況をみると、父親で最も多いのは「フルタイム勤務(72.7%)」ですが、「自営(26.9%)」も多く、これらで全体の99.6%を占めます(図7)。
つまり、「パート-タイム勤務」や「無職」はほぼ存在しません。母親は「無職(就労経験あり)」が過半数を占めて多いですが、「フルタイム勤務(16.9%)」や「パートタイム勤務(14.1%)」、「自営(11.8%)」を合計した母親の就労率は42.8%にも上ります。
これは、いわゆる「お受験」のイメージからすると、少し意外な結果ではないでしょうか。この母親の就労率の高さが世帯年収の高さにも影響しているのかもしれません。例えば、30代後半で夫婦ともに総合職であれば、世帯年収1,200万円を超える家庭も少なくないでしょう。
私立に通う小学生を持つ世帯では世帯年収が高い傾向がありますが、母親も父親と同じようにキャリアを形成している教育熱心な共働き世帯が増えているのではないでしょうか。
最近、月10万円の塾機能付きの民間学童保育や1回5千円の子どもの習い事送迎タクシー、働く母親向けのお受験教室などが、高額にも関わらず予約が埋まっているといった話を聞きます。
また、政府の「女性の活躍促進」政策により、最近では、仕事と育児を両立するための環境整備に対する意識の定着が進んできた印象もあります。
女性のワークキャリアの高まりによって、今後も「お受験」市場、子どもの早期教育市場はじわじわと拡大するのではないでしょうか。
関連レポート
(2016年11月1日「研究員の眼」より転載)
株式会社ニッセイ基礎研究所
生活研究部 主任研究員