日本は平昌オリンピック冬季大会で、過去最多となる金4、銀5、銅4の13個のメダルを獲得した。多くの感動的シーンのひとつに、カーリング女子が銅メダルをかけて戦った対イギリス戦があった。
カーリングという競技は、それ自体の認知度があまり高くなく、競技ルールもよく知られていないが、今回の「ロコ・ソラーレ」(LS北見)の活躍で、一躍多くの人の注目を集めることになった。これまではルールも知らずに観戦していて、どこがおもしろいのかよくわからなかったという人も多いだろう。
カーリングは第1投目「リード」、第2投目「セカンド」、第3投目「サード」、第4投目「スキップ」、控えの「リザーブ」という5人でチームを構成する。1人2投ずつ、相手チームと交互に計16回投げる「エンド」を10回繰り返して1試合になる。
前の「エンド」で勝ったチームが次の「エンド」は先攻になる。カーリングは後攻がとても有利で、第10「エンド」で試合に最終的に勝つためには、途中の「エンド」でどのように負けるのか、駆け引きをしながら状況に応じた戦略を立てるところが見どころだ。
カーリングという競技で勝利するためには、どんな要素があるのだろうか。必要な条件は司令塔になる「スキップ」を中心にした臨機応変な戦略立案能力だ。
次にその戦略を確実に執行するストーンをコントロールする技術、そしてチーム一丸となってプレーをするためのコミュニケーション能力だ。
「LS北見」では、スキップの藤澤五月選手を中心にみんなで協議し、戦略を立て、意思決定する時に"そだね~"と声を掛け合う。そのほっこりした姿が視聴者の心に響き、大きな話題になった。
この言葉は相手に対して同意や承認を与え、話し合った結果をみんなで受け入れることを意味する。そこには否定的なニュアンスはなく、リラックスした空気がただよう。
人は他者から承認されることで自己肯定感を抱き、自らの居場所をつくり、強い自信を持つのだ。「LS北見」では、"そだね~"がメンバー同士の相互承認を生み、情報を共有化し、それぞれの役割の認識と自信につながっている。多くの人は、単なる同調圧力ではない、チームワークの持つ軽やかな連帯に魅せられるのだろう。
日本は人口減少時代を迎え、少子化への対応とともに、一人ひとりのパフォーマンスを高めることが求められている。「LS北見」の各選手のショット成功率は決して高くないものの、銅メダルを獲得できたのはチームの高いマネジメント力によるのだろう。
他者との違いを尊重し、多様性を認め合い、自己アイデンティティを有する「LS北見」の選手たちの自然体のプレーからは、人口減少時代を乗り越えるために、日本が目指すべき「個」を活かす社会の姿が見えてくるような気がする。
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(2018年3月13日「研究員の眼」より転載)
株式会社ニッセイ基礎研究所
社会研究部 主任研究員