日本の合計特殊出生率(*1)(以下、出生率)が9年ぶりに低下した。厚生労働省が6月に発表した2014年の出生率は1.42で、2013年の1.43を0.01ポイント下回った。
一方、隣国韓国の出生率は2013年の1.19から2014年には1.21(暫定値)に少し上がることが予想されているが、日本よりもかなり低く、最近の出生率の低下が韓国でより深刻な問題であることがうかがえる(図1)。
日韓両国における少子化の大きな要因として考えられているのが未婚化や晩婚化である。日本と韓国は少子化対策の成功事例として知られているフランスのように婚外子を社会的に受容する考え方とは程遠く、そのための法律の整備もまだできてないことを考えると、未婚化や晩婚化の進展は実に出生率に大きなマイナス要因として作用する可能性が高い。
図2は、日韓における初婚年齢や生涯未婚率の動向を比較したものである。日本や韓国の初婚年齢は両国共に継続的に上昇傾向であるが、韓国の方が日本より高い。
一方、生涯未婚率も日韓共に上昇しているが、日本の方が韓国に比べて上昇率や生涯未婚率が圧倒的に高いことが分かる。例えば、2010年における日本の生涯未婚率は男性が20.1%、女性が10.6%で、韓国の5.8%や2.8%を大きく上回っている。
図3 は2000年以降の日本と韓国の出生率を比較したものである。2005年までには低下傾向であった日本と韓国の出生率は2006年から少しずつ改善し始める。但し、図からも分かるように日本の出生率は継続的に上昇していることに比べて、韓国のそれは上がったり下ったりを繰り返している。
なぜ、日韓の出生率動向に差が見えるのだろうか。その要因の一つとして、最近の韓国の出生率は政府政策よりもイベント(特別な年などを含む)や俗説の影響をより受けている点が挙げられる。
まず、イベントによる出生率上昇の最近の事例としては、2000年における「ミレニアムベビーブーム」が挙げられる。つまり、この年には2000年という覚えやすく、特別な年を記念するために、出産が増加し、1999年に1.42であった出生率が1.47まで上昇した。
「ミレニアムベビーブーム」の影響は日本でも見られるが、韓国ほど上昇幅が大きくはなかった(同時期における日本の出生率は1.34から1.36に上昇)。
「ミレニアムベビーブーム」の影響を受けた2000年以降、韓国の出生率は急激に低下し、2001年からは日本の出生率を下回り、現在までその現象が続いている。
次に俗説が韓国の出生率にプラスの影響を与えた事例としては、2006年(1年に立春が二度やってくる、「双春年の年」、この年に生まれた子供は一生健康で立派に育つ)、2007年(600年に一度の「黄金の亥年」、この年に生まれた子どもは金運に恵まれる)、2010年(60年に一度訪れる「白虎の年」、この年に生まれる子は金の運がより強い)、2012年(60年に1度の「黒龍の年」、この年に生まれた子供は金運に恵まれたり、出世したりする)が挙げられる。
実際に、過去には日本も「丙午」(1966年)の影響を受けて出生率が1.58まで下った経験はあるが、最近はこのような俗説により出生率が影響を受けるケースはほぼ見られない。
韓国において俗説が出生率に大きな影響を与えている理由としては、不況が続く中で少しでも良い年に子どもを生みたいという「親の心理」や出生率が改善できる「有効な政策の不在」が考えられる。韓国政府は少子化に対する「有効な政策の不在」の問題を解決する目的で、2006年から「低出産・高齢社会基本計画」を実施しているが、その効果が現れるまでにはまだかなりの年月が必要だろう。
日本は韓国よりかなり早い段階から少子化対策を実施しており、その効果はまだ十分とは言えないが、2005年以降出生率が改善・安定される形で現れていると考えられる。しかし未婚化や晩婚化現象が年々進んでいることが不安要因である。
結婚するかしないか、いつ結婚するかは個人の自由であり、政府が関与することは望ましいことではないが、少なくとも経済的な理由により未婚化や晩婚化が進むことに対しては国として対策を講じる必要がある。
実際に、内閣府が実施した「平成25年度家族と地域における子育てに関する意識調査」の結果によると、「若い世代で未婚・晩婚が増えている理由」について、未婚男性回答者の52%が「経済的に余裕がない」と答えている。
本人の意思により結婚しないあるいは結婚年齢を遅くするケースを「自発的未婚」や「自発的晩婚」だと仮定すると、経済的な理由により結婚ができないあるいは結婚が遅くなるケースは「非自発的未婚」や「非自発的晩婚」だと言えるだろう。
日韓政府はこのような「非自発的未婚」や「非自発的晩婚」を減らすための対策に万全を期する必要がある。
(*1) 1人の女性が生涯に産む子どもの平均数。
関連レポート
(2015年6月23日「研究員の眼」より転載)
株式会社ニッセイ基礎研究所
生活研究部 准主任研究員