"社会"として「美田残す」努力を!
「振り込め詐欺」被害に歯止めがかからない。警察庁「平成25年の振り込め詐欺の被害状況」によると、認知件数9,223件、被害総額は約259億円に上る。
振り込め詐欺には、「オレオレ詐欺」「架空請求詐欺」「融資保証金詐欺」「還付金等詐欺」が含まれるが、なかでも特に被害が深刻なのは「オレオレ詐欺」で、全体の約3分の2を占める。平成24年と比べると件数で1.48倍、被害額で1.53倍になっているのだ。
警視庁ホームページを見ると、「オレオレ詐欺」の代表的な手口としては、息子や孫を装い、「借金の返済」や「会社のお金を横領」などを理由に、親や祖父母から多額の現金を振り込ませるケースが多いという。
被害にあわないための防犯対策として、「あわてずに事実かどうかの確認」「留守番電話の活用」「ATM利用限度額の引き下げ」などが挙げられている。金融機関も預金者に注意を呼びかけて水際での被害防止に努めているが、犯行の手口はますます多様で巧妙になっているようだ(*1)。
しかし、このような様々な対策が打たれているにもかかわらず、なぜ「オレオレ詐欺」の被害は減少しないのだろう。「オレオレ詐欺」は親や祖父母が、子どもや孫を心配する心のスキに入り込む悪質な犯罪だが、その背景には現在の日本社会の親子関係のあり方が影響しているのではないだろうか。
平成16年度「国民生活選好度調査」には、『親が子どもに対して経済的な面倒をみてもよいと考える期間は長期化している』という調査結果が掲載されている。
また、近年では若年層の非正規雇用者や無業者が増加し、経済基盤が脆弱なため非婚・晩婚化が進展、子どもの世帯分離が遅れて親同居未婚者が増えている。その結果、親子間の経済的依存関係は、ますます長く、大きくなっているのである。
一方、日本の個人金融資産の6割以上は60歳以上の高年齢者が保有し、豊かな高齢者には資産を子どもや孫に残そうとする人も多い。
昨年4月に始まった信託銀行の「教育資金贈与信託」は、取り扱いから2カ月あまりの間に1,000億円以上の資金を集めたという。
祖父母が子どもや孫を思う気持ちはわかるが、安易に経済的支援をすることが、子どもや孫の自立を妨げてしまうこともある。親子間の経済的・心理的自立関係がしっかり確立すれば、自ずと「オレオレ詐欺」の被害も減少するだろう。
かつては『児孫のために美田を買わず』と言われたが、今日の日本社会は経済的に困窮する若年層が増え、それを放置しておくわけにはゆかない。持続可能社会をつくるためにも、高齢世代から若年世代への個人的所得移転だけでなく、「子育て支援」や「若年雇用」といった次世代を担う若者に対する社会保障の充実など、"社会"として『美田を残す』努力が求められているのではないだろうか。
(*1) 最近では、「妊娠トラブル」の示談金名目で、現金をだまし取る手口が多く報道されている。
(参考)
株式会社ニッセイ基礎研究所
社会研究部 主任研究員
(2014年6月2日「研究員の眼」より転載)