二度目のオリンピック開催に沸く2020年、もし日本の成長戦略が大きな実を結ばず、東京がアジア地域の業務拠点都市(アジア・ヘッドクオーター)としての地位を確固としたものにできていなければ、東京23区で働くオフィスワーカー数は現在より20万人も減少している可能性が高いでしょう。これは超高層ビル20数棟のオフィス需要に相当するだけに、賃貸オフィス市場にとっては大きなインパクトです。また、大阪や名古屋などのオフィスワーカー数は東京以上に減少している、というのが近未来のオフィス市場の姿です。予測の前提として、海外移民の大量受け入れは国民感情的に難しいなどの理由から行われないとみていますし、懸念されている首都直下型地震による人的被害や人口流出の発生は想定していません。
1996年から続く国内人口の東京圏集中トレンドがこれからも変らないとしても、少子高齢化が進む日本では、東京といえどもオフィスワーカーは長期的に減少していくことを覚悟せざるをえないということです。このような見通しを、オフィス市場規模の縮小シナリオとして悲観的に捉えることは簡単です。しかし、オフィスワーカーの生産性という観点からの議論がほとんどないのは不思議なことです。つまり、オフィスワーカー数の減少分を大幅に上回るほど企業が一人当たり生産性を高めることができれば、企業収益の改善によって賃料負担力が高まったり、高品質で快適なオフィス環境に対するニーズが強まったりして、賃貸収入や賃借面積の減少を抑制できる可能性があるためです。
オフィス生産性向上のためには、高度経済成長時代から続いてきたワークスタイルを大胆に見直す必要があるでしょう。特に、残業が常態化している非効率な長時間労働を見直して、時間当たりの生産性を高めることに知恵を絞りたいものです。著しく仕事に偏ったワークライフバランスを是正することは、オフィスワーカーのQOL(生活の質)を改善させて仕事への集中力やモチベーションを高めるだけでなく、自由時間の増加に伴ってレジャーや自己啓発などに関わる新たな不動産需要の創出にもつながります。ワークライフバランス是正のためには働き方の自由度を高める必要もあり、優れた女性や高齢者、外国人の社会進出を促進する効果も期待できます。企業が国内外の多様な人材を活用できれば、より多くの革新的な商品や技術、サービスの開発、新しいビジネスの創造につながるでしょう。言い換えれば、オフィス生産性引上げへの取り組みは、日本の成長戦略を支える基盤づくりにもなるのです。
東京に拠点を持つ多くの企業が次々に新しい価値やビジネスを生み出すようになれば、世界中からヒト・モノ・カネ・情報が流れ込んで来るのは間違いありません。このとき、ビル事業に関わる不動産プレーヤーの役割は、世界トップレベルの省エネ性・安全性と快適性を両立させたオフィス空間やサービスを提供して、利用者のオフィス生産性向上を積極的に支援することです(1)。もちろん、職・住・遊いずれのシーンにも魅力的な街づくりを推進することも大きな使命です。特に、真夏の厳しい気象条件下で開催されるオリンピックだけに、都市開発分野における革新的なエネルギー供給・利用システムや先端技術のショーケースにして欲しいものです。オリンピック開催まであと7年。オフィス市場の先行きを悲観するのは早すぎます(2,3)。
2 本稿は、不動産経済研究所『不動産経済ファンドレビュー』2013年12月15日号に寄稿した内容を、大幅に加筆修正したものです。
3 国や地方自治体には、観光立国政策の推進とも連動させながら、首都圏中央連絡自動車道(圏央道)、東京外郭環状道路(外環道)、首都高中央環状線の3つの環状道路網や空港アクセスといった広域交通インフラの整備を重点的に進め、東京のビジネス・観光環境を大きく改善させることが期待されます。オリンピックを一過性のイベントとせず、日本経済や社会の魅力を広く世界に伝え、将来にわたって持続的な成長を果たすための象徴として二度目のオリンピックを位置づけて欲しいと思います。
(この記事は、2013年12月17日の「ニッセイ基礎研究所 研究員の眼」より転載しました)