顧客属性や購入履歴などの分析はマーケティングの基本中の基本であり、あらゆる業界において、ニーズ動向の調査などにより、新たな商品やサービスの開発が行われている。
こうした膨大な顧客属性や購入履歴などの情報について、自らの今後の商品・サービスの開発に活用するのみならず、個人を特定できるデータを除外するなどの措置を行った上で、ビッグデータ(事業に役立つ知見を導出するためのデータ)として第三者に販売するケースもあり、最近の例では販売について顧客から苦情が発生し、新聞報道もされている。
具体的には、日立製作所が2013年6月27日、「交通系ICカードのビッグデータ利活用による駅エリアマーケティングの情報提供サービスを開始」との表題で、JR東日本から「Suica」の履歴情報の提供を受け、駅の利用者の性年代構成、典型的な移動パターンから推定した駅の利用目的(住宅エリアか勤務エリアかを推定)、滞在時間や乗降時間帯などを平日・休日別に網羅したマーケティング情報として7月1日より有償で提供し、サービス利用者の出店計画などに資するとプレス発表した。
これについてJR東日本が2013年7月25日、「Suicaに関するデータの社外への提供について」との表題で、顧客に事前に知らせていなかったことによる説明が不十分との申出を受け、日立製作所への提供データは「Suicaでの乗降駅、利用日時、鉄道利用額、生年月、性別及びSuicaID番号を他の形式に変換した識別番号」であり、氏名や連絡先など個人を特定するデータは含まれておらず、提供データから個人を特定する行為は契約で禁止するなど、顧客のプライバシーに配慮した取扱を行っていることを明らかにした上で、7月26日以降、顧客から要望があった場合、連絡があった日の翌月以降の社外提供データから除外する(9月25日までに要望があった場合は、既に提供された過去のデータについても除外したものに差し替える)とプレス発表した。
新聞報道によれば、顧客からのSuica履歴の使用拒否の申出は7月26日~31日で8823件に上るとされている。
個人情報保護法においては、
「法令で定める場合など一部例外を除き、個人情報の第三者提供は本人の事前の同意が必要であること」
「本人の求めに応じて本人が識別される個人情報の第三者への提供を停止することとしている場合は、あらかじめ、本人に通知し、または本人が容易に知り得る状態に置いているときは、個人情報を第三者に提供することができること」
などが定められている。
今回の顧客に関するデータは個人情報保護法上の個人情報には当たらないとされているが、ビッグデータを第三者に販売する例はこのケース以外にも存在する模様であり、個人情報保護法上の個人情報には当たらないとされるビッグデータの販売一般についてのルール整備(販売を受けた第三者が、提供を受けたビッグデータにより個人を特定することの禁止など)が望まれる。
合わせて、ビックデータの販売についての顧客への周知方法や、「自らの属性データを第三者に販売することを望まない顧客」に配慮した対応についても検討が必要となろう。
(2013年8月5日の「ニッセイ基礎研究所 研究員の眼」より転載しました)