円周率πが現われる世界(3)-πが角度180°ってどういう意味:研究員の眼

πは何で角度180°を表しているのか

はじめに

π(パイ)と言えば、直径1の円の円周の長さを表す数値として、3.14という数値を思い浮かべる人が殆どだと思われるが、πが角度を表現するために使用される場合には180°を表している。

これって何でと思う人もいるかもしれない。もちろん、学生時代に教えられているので十分ご承知の人も多いと思うが、今回はこれについて紹介する。

πは何で角度180°を表しているのか

答えは、πを角度を表すために使用する場合には、「度(°)」ではなくて、「ラジアン(radian)」という単位で表されているからである。

ラジアンとは、国際単位系における角度の単位であり、「1ラジアン」は「円の半径に等しい長さの弧の中心に対する角度」と定義される。1ラジアンは通常の「度数法」では、(180/π)°で、約57.29578°に相当することになる。

これにより、πラジアンは180°であり、2πラジアンが360°であり、(π/2)ラジアンが90°ということになる。

ラジアンについては、「弧度」とも言い、平面上の角度をラジアンで測る方式を「弧度法」と読んでいる。

何故ラジアンが使用されるのか

πと同様に、1ラジアンも無理数である。では、何でこんな数字を角度の単位に使用しているのだろうか。少なくとも日常生活において、角度を表すのにラジアンを使用している人はいないだろう。

実は、ラジアンは、数学の世界において、sin、cosign、tangentといった三角関数の微分積分や級数展開を扱う時に、便利である。角度の単位としてラジアンを使用することによって、多くの公式が簡潔に書けるようになる。

例えば、三角関数の微分において、ラジアンを使うと、

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と表せるが、これを度数法で表すと、

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となり、定数が加わることで複雑なものになってしまう。

これは、sinXを4回微分した場合には、その差がさらに明らかになる。

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しかも、これが必然的なものであればやむを得ないが、あくまでも角度の単位の定義によるものだとすれば、敢えて度数法を採用する意義は乏しいことになる。

また、ここでは示さないが、sinXとsinX°のグラフを比較してみれば、いかにラジアンをベースにすることが分かりやすく実用性の高いものになるのかが理解できる。

弧度法と度数法

ところで、その定義から、「弧度法」による角度は、「半径の長さと弧の長さの比」で表される。2つの長さの比なので単位が打ち消しあってなくなることから単位はいらない、ということになるが、これに「ラジアン」という単位を付している。従って、ラジアンは無名数(bare number)として、単位を付さなくてもよい数として扱われる。

半径と弧の長さがわかっていれば、その比として、「弧度法」による角度を示すことができるので、ある意味で単純であり、普遍性があるものとなっている。

数学の理論の世界では、通常、単位は使用されず、数学の定理等は一般的にどのような単位系でも成り立つものとなっている。その意味で、弧度法による表記がより数学的には適したものとなっている。

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これに対して、「度数法」による角度は、なぜ1周が360°となるのか等について、もちろんその理由付けは行われているものの、必ずしも普遍性があるとはいえないものとなっている。このため、数学的に取り扱おうとすると、却って扱いにくいものとなってしまう。

なお、こうしたことは、物理の理論の世界でも同じであり、例えば、物理の円運動では角度はラジアンで扱われている。

角度の表示

角度も、他の長さや重量等の計量単位と同様に、人為的に定義されたものであり、我々が慣れ親しんでいる度数法はその1つの方法であるが、理論の世界では弧度法がより扱いやすいものとなっている。

その意味で、基本的には日常生活では我々は弧度法を気にする必要はない。ただし、1点だけ、角度を表現する際には注意が必要になってくる。

会話においては、角度を表現するのに、ラジアンを使用する人はなく、通常度数法に基づく数値で「○○度」という言い方をしているので問題はない。

ただし、文書で表現する場合には、一般的なルールとして、単に角度がθであると記述されている場合には、これはθラジアンを意味することになる。単位が付与されないのは、先に述べたように、弧度法による角度が比を表しているからである。

一方で、度数法で表現する場合には、それが人為的に設定されたものからきていることから、必ず「°」を数字の後に付けなければならないことになる。

最後に

以上、弧度法というものが、自然な考え方から生まれてきているものであり、その方式に基づけば、結果的にπラジアンというのが180°というきりのよい角度になり、各種の理論的な分析を扱いやすいものとすることに貢献していることを紹介してきた。ここにおいて、πが重要な役割を果たしていることがご理解いただけたと思う。

また1つ、πという数字の持つ特別な意味合いとその重要性が見えてきたような気がするのではないか。

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(2017年11月13日「研究員の眼」より転載)

株式会社ニッセイ基礎研究所

取締役 保険研究部 研究理事

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