「日本再興戦略 ジャパン・イズ・バック」と名付けられた成長戦略は14日に安倍政権の下、閣議決定された。アベノミクス3本の矢と呼ばれる経済政策の最後の矢がいよいよ放たれた。
成長戦略の全体目標として、「今後10年平均で名目GDP成長率3%、実質成長率2%」、「10年後に1人当たり国民総所得(GNI)を150万円以上増加」が掲げられ、さらに分野別に具体的な数値も掲げられた。(図表1)
ただ、今回の成長戦略の目標の多くは2020年をターゲットとしている。それまで安倍政権は継続するのであろうか。素朴な疑問がどうしても生じる。政権交代が起きれば、成長戦略や数値目標がどうなるのか。継続的な取組みができるのだろうか。
"成長戦略"とは安倍総理が初めて打ち出した特別な経済政策という類のものではない。小泉政権時代から民主党政権下までの間に、過去7度も成長戦略は打ち出されている。
例えば、これまでの成長戦略下でも医療、雇用、人材、IT、農林・漁業などは毎回目玉として登場してきた。
民主党政権下の成長戦略で重点分野として「グリーン」「ライフ」と題されていたものが、今回の成長戦略では「環境・エネルギー」、「医療・健康」とカタカナから漢字に変わっただけのようにも感じる。
では、過去の政策下ではどのように帰結しているのか。例として、長年の課題である子育て支援策を確認してみると、2001年には「待機児童ゼロ作戦」があった。保育所の受け入れ人数の目標は"3年で15万増加"だったが、結果は9万5000人の増加に留まり、目標の15万人には遠く及ばなかった。また、2008年の「新・待機児童ゼロ作戦」でも"4年で15万人の増加"という目標を掲げたが、11万9000人の増加で終わっている。そして、2013年の安倍政権の成長戦略では、"2年で20万人増、5年で40万人増"という目標が掲げられた。(図表2)
政権が変わっても、継続的な取組みがなされており、それなりの効果があったと考えることもできる。しかし、これら過去の事例が示すとおり、政権が変わってしまえば、目標は書き替えられ、目標未達への責任は問われない。すなわち、成長戦略の実現において、長期政権を保つことは成長戦略を成し遂げるための重要なファクターである。したがって、7月に行われる参議院選挙はそのポイントとなる。安倍政権が長期化すれば、掲げた成長戦略の目標達成に向けて、より一層腰を据えて取組むことができる。
また、6月12日の産業競争力会議では、「成長戦略中短期工程表(案)」*1が資料として提出された。工程表は、全政策分野に関する最終的な達成すべき成果目標(KPI:Key Performance Indicator)を示し、さらに長期の数値目標をブレークダウンした2013年度から3年間の詳細な施策実施スケジュールが記載されている。
これら工程表の進捗管理を徹底すること、すなわちPDCAサイクルを回し、進捗状況を「見える化」し、国民に示していくことが必要だ。
進捗が遅れた場合のバックアップ措置や説明責任、政策の軌道修正や戦略の書き換えを誰が担うか、進捗を確認する会議の定期的な開催とプロジェクトマネージャーともいうべき役職の設置など、これら当たり前のようで漠然としたことを明確化することも必要だ。
安倍首相の強い覚悟の下で推し進められてきたアベノミクスは、国民からの期待が大きい。第1、第2の矢とその期待は高まってきた。だからこそ、第3の矢となる今回の成長戦略は、これまでの成長戦略と意味合いが違う。
今回の成長戦略は「見える化」を通して国民を巻き込み、決して絵に描いた餅にはしてはいけない。民間活力の爆発なしに、日本再生はありえないのだから。
(参考) *1 ... 内閣府HP 業競争力会議 第12回配布資料「成長戦略中短期工程表(案)」
(この記事は、「ニッセイ基礎研究所 研究員の眼」6月18日の記事の転載です)