科学者の国会が「軍事研究を行わない」と決議

日本学術会議は、戦後維持してきた軍事研究拒否の声明を継承すると決定した。軍事研究に対する同組織の立場表明は50年ぶりだ。

日本学術会議は、戦後維持してきた軍事研究拒否の声明を継承すると決定した。軍事研究に対する同組織の立場表明は50年ぶりだ。

サイバーダイン社(茨城県)が開発したロボットスーツHybrid Assistive Limb®(HAL®)は、医療、福祉、重作業支援などへの応用が期待される。同社の創業者である山海嘉之・筑波大学サイバニクス研究センター長は、社内に平和倫理委員会を設けるなど、同技術の軍事転用を防ぐ対策にも注力し続けている。

YOSHIKAZU TSUNO/AFP/Getty

日本の科学者の代表機関である日本学術会議は、2017年3月24日、「軍事目的のための科学研究を行わない」とする過去2回の声明の継承を決定した。

科学者が戦争協力したことへの反省から、同会議は1950年と67年に戦争と軍事目的の研究を拒否する声明を決議した。

1950年の声明は、世界的に有名な「ラッセル・アインシュタイン宣言」より5年早い。科学のあり方と平和への決意を世界に先駆けて示したのだ。

だが近年の防衛省による研究助成制度創設などを受け、同会議は安全保障との関わり方を探るために2016年6月から過去の声明の見直しを検討してきた。

学術の健全な発展には、研究の自主性・自律性、研究成果の公開性が担保される必要がある。

だが、特定秘密保護法や、防衛装備庁の安全保障技術研究推進制度はそれを危うくする。

新声明は、軍事的安全保障研究は学問の自由および学術の発展を阻害する懸念があるとし、これを拒否する姿勢を改めて確認した形となった。

加えて、安全保障技術研究推進制度について、「政府による研究への介入が著しく、問題が多い」と述べ、大学などに研究の適切性を審査する制度の設置を望むとした。

なお、声明は通例どおり幹事会で決議されたが、新声明の影響力から4月の総会での採決を求める意見もあった。

デュアルユース問題

科学や技術には、デュアルユース(軍民両用)可能なものがある。

例えば、ロボットや防毒マスクは、軍事だけでなく災害時にも有用だ。

一方で、科学や技術が大量破壊兵器へ悪用されてきた過去がある。

また、科学者の意図を離れて軍事に転用される可能性もある。

同会議は2013年1月に「科学者の行動規範」を改訂してデュアルユースに関する項目を加えている。

科学者は悪用される可能性を認識し、社会に許容される適切な手段と方法で研究実施と成果公表を行うように、とある。

では、「悪用」は何を想定したらよいのだろう。例えば、生命の機能の一端を解明するどんな研究も、将来、大量破壊兵器につながる可能性がないと断定できないのではないだろうか。

科学は善にも悪にも使うことができる故に、それを扱う科学者は特別の責務を負うと、今日のさまざまな科学者憲章の原型である世界科学労働者連盟の科学者憲章に記されている。

また、悪用を防ぐために最善を尽くさねばならないとし、具体的に、戦争準備や大量破壊兵器開発の阻止を掲げている。つまり科学者の責務とは、社会の問題を科学で解決し戦争を防ぐことにある、ということではなかろうか。

ラッセル・アインシュタイン宣言

人類という種の一員として考えてほしい。哲学者バートランド・ラッセルは1955年7月9日、物理学者アルベルト・アインシュタインをはじめとする著名科学者ら計11名の連名で、核兵器廃絶を世界に呼び掛けた。湯川秀樹(ゆかわ・ひでき)もその1人だ。

端緒となったのは、1954年のビキニ環礁水爆実験であった。

第五福竜丸の乗組員が被曝し、その灰を分析した物理学者の西脇安(にしわき・やすし)が、既知の原子爆弾では生じ得ない放射性物質を検出したことを英国の物理学者ジョセフ・ロートブラットに伝えた。

ロートブラットは、これが水素の熱核反応を利用した新型の爆弾で、その威力が大都市を破壊するレベルに達していることを突き止め、ラッセルに知らせたのである。

大量破壊兵器の開発が進み戦争に使われれば人類は存続できない。危機感を持ったラッセルは、科学者と共同で声明文を作成することを思いつき、アインシュタインに連絡を取ったのだった。

ラッセル・アインシュタイン宣言を受け、1957年8月、核兵器廃絶をはじめとする科学と社会の諸問題に取り組む組織「パグウォッシュ会議」が設立される(日本でも物理学者の湯川秀樹と朝永振一郎(ともなが・しんいちろう)が中心となり、同年10月に日本パグウォッシュ会議が設立)。

同組織は1995年にノーベル平和賞を受賞した。

Nature ダイジェスト Vol. 14 No. 5 | doi : 10.1038/ndigest.2017.170508

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Nature ダイジェスト Vol. 14 No. 3 | doi : 10.1038/ndigest.2017.170310

Nature ダイジェスト Vol. 14 No. 4 | doi : 10.1038/ndigest.2017.170413

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