超ミクロ偵察機、空飛ぶ車...SF映画の世界が実現へ。ドローンの秘める無限の可能性(上)

野波教授が紹介した最新研究の事例の中には、まるでSF映画を再現したような機種の取り組みもあり、どよめきが起きる一幕も。

ゲスト 野波健蔵・千葉大特別教授、自律制御システム研究所社長

皆さんと記者が一緒に考え、課題解決へ<朝日新聞・未来メディア塾 オープン・カフェ vol.5>(2015/7/28開催)

イノベーション分野のスペシャリストを招き、参加者の皆さんと朝日新聞記者がともに社会的な課題について向き合い、解決策を一緒に考える「朝日新聞・未来メディア塾」の「オープンカフェβ vol.5」が2015年7月28日、東京・六本木ヒルズのアカデミーヒルズで開催された。

 「ドローンで変わる!?未来社会」と題した今回は、国内のドローン研究第一人者野波健蔵氏(千葉大学特別教授・自動制御システム研究所社長)をゲストに迎き、ドローンの産業利用や開発中の最新機種の動向、近未来に想定される使われ方を紹介。また、首相官邸屋上にドローンが着地した事件を機に注目される法的規制と産業振興の両立についても問題提起された。野波教授が紹介した最新研究の事例の中には、まるでSF映画を再現したような機種の取り組みもあり、どよめきが起きる一幕も。これまでにない盛り上がりを見せたイベントの模様を2回に分けてお届けする。(文・ソーシャルアナリスト 新田哲史)

産業の発展と規制の両立はどうあるべきか?

 数あるイノベーション分野の中でも特にホットな話題として注目を集めるドローン。企業の新規事業担当者を始め、約60人の参加者の多くが高いレベルでの関心を集めていたのが目を引いた。コーディネーターを務める朝日新聞経済部の篠健一郎記者が冒頭で、「ドローンを持っている人はいるか」と尋ねると、5人ほどが挙手。半数が実際の飛行シーンを現認し、すでにドローンを業務で活用している人も数人いた。

 これまでの開催イベントと同様、序盤はコーディネーターである篠記者から問題提起。まずは「飛ぶ時の音がオスの鉢に似ていることからドローンという名前が付けられた」という由来や、軍事用で開発され、GPS搭載と小型化で民間での普及が進んできた経緯が説明された。日本では、家電量販店で購入できるものから、産業用の機種まで、価格や用途でおよそ4つの機種があり、現在の主な用途として「災害調査」「農薬散布」、「物流・宅配」「インフラ点検・整備」「警備」の5つを挙げ、市場調査会社の推計で日本のドローン市場は、東京五輪イヤーの2020年には、2015年(16億円)の約11倍にあたる186億円にまで拡大する見通しが紹介された。

 続いて、首相官邸や長野・善光寺などでの事件を機に高まるドローン規制の動きについて話題が移り、政府で検討中の規制案では、繁華街や住宅密集地、空港周辺、夜間の飛行などが原則禁止とされていることを紹介。篠記者は「政府の規制案は総論に過ぎない」と述べ、機体の登録や免許制の整備、プライバシーの保護の確保、購入者や使用者の把握といった課題が残されていると指摘し、そうした一方で産業界では「適正な規制は産業の発展に必要」とする支持する意見だけではなく、「規制が厳しすぎ、産業の発展を妨げる」「犯罪の使われるおそれはないか」と懸念されていることも紹介。「産業と規制の両立はどうあるべきか」という視点で問いかけた。

 なお、規制の先例として各国の取り組みを紹介した中で、チリでは落下時に備え、機体にパラシュート装着を義務付けているのがユニークだ。

野波教授「世界はドローンで変わってきた」

 篠記者に続いて、野波教授がいよいよ登場。近年、講演の機会が増えたこともあり、「参加者の関心によって4つのストーリーを持っている」という豊富な知見と、動画を活用したわかりやすい解説で、最近の動きや今後の展望が紹介されていった。

 「世界はドローンで変わってきた」と野波教授。刺激的な言葉で語りかけたのは決して誇張ではなかった。「ラジコンは飛ばすことが目的だが、ドローンは飛ばすのは当たり前。飛ばして何をするか」と語り、いままで撮影できなかった角度での撮影が可能になったことを強調。そして動画を使って、カナダのロッキー山脈で人が行けない地点を撮影し、それを元に3D地図を作成するという業務用ドローンの世界最先端事例を紹介した。

 前回のオープンカフェのテーマでもあった人工知能(AI)とドローンの関係も指摘された。というのもドローン普及のカギを握る一つが「自律飛行」にあるからだ。野波教授は2013年、30年に渡る研究成果の産業化に弾みをつけるべく、自ら大学発のベンチャー企業「自律制御システム研究所」を創業、自ら「売り」だと力を込めるのが、GPSに頼らなくても位置やマッピングを自律的に行う「SLAM」と呼ばれる技術だ。SLAMを搭載したドローンの自律飛行技術が国内外の注目を集めている。

 同社の機種「ミニサーベイヤー」は、すでに震災復興を兼ねて福島県内で量産体制に入っており、太陽光パネルを人間が確認できない高度から点検に活用。北海道では、同機を使って小麦畑を空撮したデータを元に畑ごとの生育具合を色分けしてきめ細かい育成ができる「精密農業」が行なわれているという。これにより300万円かかっていた肥料代を効率化し、100万以下に抑えられるようになるという。人工衛星を活用した精密農業については先日、地方創生をテーマにしたテレビドラマ「ナポレオンの村」(TBS系)でも取り上げられていたが、農業生産者がドローンを活用するようになれば、精密農業がさらに普及していくのではないかと予感させた。

「空の産業革命」はすでに起きている

 それにしても、ドローンが「空の産業革命」と言われるのは、人間が自力で見ることのできない、それでいながら航空法の対象外である、地上に近い高度の視界と可能性を切り拓いているからだ、と改めて痛感させられる。

 野波教授が「ドローンだからできる技術」と強調する空撮の技術。空撮というと、先述した畑の上空を飛ぶといったケースを想定するが、ダムの壁面調査での活用は目を引いた。これまで人間の調査員が命綱にぶら下がり、ロッククライミング的に危険と隣り合わせの形で写真を撮影して長時間行っていたが、ドローンなら15分ほどで百数十枚の写真を撮影し、その画像データをソフトでつなぎ合わせ、三次元の地図を作成。異常のある個所があれば目視同然にすぐに発見できる。コストも100分の1に圧縮でき、野波教授は「土木工事はドローンによるイノベーションがすでに起きている」と評した。

 ほかにも遠洋漁業で海上からの魚群探知の偵察、原発建屋内の飛行といった活用方法、あるいは建設から60年と老朽化した溶鉱炉で、これまで人力では確認できなかった部分を100メートルから撮影して点検することが可能になった事例、あるいは高速道路の多重衝突事故をドローンで空撮することで現場検証をスピードアップして、幹線道路を長時間止めずに経済損失を最小化できる見通しであることなど、驚くべき活用法が次々に紹介された。高度成長期から築き上げてきたインフラのメンテナンスが、成熟国・日本の今後の社会的課題になるのは不可避だが、野波教授の解説を聞きながら、筆者はドローンが今までにない形で貢献できるのではないかと考えさせられた。

 しかし、本当の圧巻はその先だった。

 野波教授が、驚愕するような研究開発事例を披露したのは講演の後半にかけてだった。(下に続く)

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