国勢調査のマスコット「センサスくん」
(総務省統計局の許可を得て筆者がイラスト加工)
国勢調査のシンボル「センサスくん」は1990年に誕生、もう20年以上も愛されている人気キャラクターだが、次回の2015年国勢調査ではこのイラストに少し修正を加えたほうがいいかもしれない。右手の鉛筆に加えて、左手にはスマホを持たせるのだ。
私はマーケティングリサーチ実務家の立場から、総務省統計局が運営する国勢調査の企画検討会議 (*)のメンバーを2008年から務めている。現在、2015年国勢調査に向けて全国14市区町、約8400世帯を対象に、本番さながらの「第二次試験調査」が行われている。その方法はこれまでと大きく異なり、全世帯にまずインターネットでの回答を依頼する「オンライン先行方式」が特徴だ。具体的には、以下のプロセスで実施される。
1.調査員が調査のお知らせ(IDとパスワード記載)を配布
2.期限までにインターネットでの回答を依頼
3.ネットでの未回答世帯に対して、調査員が調査票を訪問・配布
4.調査員への手渡しまたは郵送で回収
今後大きな問題が出ない限り、2015年国勢調査はこの手順で行われるはずである。史上初めて、国内すべての世帯にインターネットでの入力が依頼されるのだ。しかもパソコン向けのウェブサイト画面だけではなくスマートフォンに最適化した回答画面も用意され、どちらでも選ぶことができる。
2010年国勢調査では、東京都で試験的にインターネット回答が導入された。調査票を配布する際にIDとパスワードも配布し、手渡しと郵送に加えネットでの回答も選べる「オンライン並行方式」による。オンライン回答率は予想の5%を大きく上回る8.3%で、事後アンケートでは、99%が次回もネットを選びたいと評価した。私も実際に回答したが、非常によく出来た設計とデザインであり、紙の調査票より答えやすく、記入漏れや間違いも減らせると確信した。
このような実績を踏まえ、昨年の「第一次試験調査」ではオンライン回答を本格的に採用、検証のため「並行方式」と「先行方式」の両方が実施された。オンライン選択率は「並行方式」6.5%に対して「先行方式」が25.3%と4倍以上、特に世帯主年齢が「39歳以下」世帯では39.6%、「40~59歳」世帯では44.6%にも上った。こうして「先行方式」の優位性が評価され、採用が決まる。
国勢調査は教育、交通、住宅、労働などあらゆる政策の基本になる最も重要なデータのひとつである。しかし、近年のプライバシー意識の高まりやオートロックマンションの普及などにより、戸別訪問による回収が難しくなり、調査員の確保も困難を極めている。2005年調査ではトラブルやなりすまし事件なども表面化した。そのため2010年調査からは郵送回収も併用されたばかりである。
今回一歩進んで、オンライン回答を中心に据えるのは時代の必然であり、調査の品質を維持するための切り札とも言える。大正時代から90年間も変わらなかったやり方が劇的に変わるのだから、総務省統計局にとっても大きな挑戦になることは間違いない。
スマートフォンやタブレットの猛烈な普及スピードを考えれば、2年後の国勢調査でのオンライン回答が50%以上になってもおかしくない。セキュリティやなりすまし対策なども含め、全世帯へのネット入力依頼と従来手法によるフォローをミックスしたこの方法がうまく機能すれば、国政選挙や自治体選挙におけるインターネット投票にも道を拓くことになるだろう。
ところで国勢調査も若年層の協力を得にくいのが課題である。冒頭にあげたセンサスくんを眺めていたら、LINE のスタンプ向きであることに気づいた。総務省は、スマホで回答したらオリジナルスタンプを配布するのも検討してはどうだろうか。若年層の協力率は上がると思う。いやマジで。
(*) 平成27年国勢調査有識者会議(試験調査の概要もこちらから入手可能)