女性の社会進出を如何に支援するか。労働人口の減少が進む我が国が抱える喫緊の課題だ。
私どもの研究チームにも、複数の女性医師・看護師がいる。診療・研究の実績を挙げるには、彼女たちの生産性を向上させねばならない。そのためには工夫が必要だ。
私が、彼女たちを指導する際に必ずいっていることがある。それは、スマホを使いこなすこと。および生理で辛いときに、遠慮なくいい、酷いようならピルの服用を考慮することだ。
診療は兎も角、私どもの研究は、基本的にどこでも出来る。「ノマドワーク」をするためには、スマホは必需品だ。
問題は後者だ。生理の持続期間は3-7日とされている。程度の差こそあれ、多くの女性は、この期間に体調が悪化し、注意は散漫となり、作業効率は低下する。毎月やってくるのだから、その「損失」は甚大だ。実証研究はないが、無理に働かせれば、医療事故に繋がるおそれすらある。出来ることなら、生理の影響を一日でも短くしたい。
実は、世界では、この点については既にコンセンサスが形成されている。ピルを服用することだ。
2013年度の国連人口部の統計によると、ピルの服用率はフランス41%、ドイツ37%、イギリス28%だ。キャリアウーマンに限定すれば、もっと高い。ハンガリーの医学部で学ぶ吉田いづみさんは「周囲の女性はほぼ全員が服用しています。」という。
我が国の状況は対照的だ。ピルの服用率は、わずか1%。女医や看護師でも、多くは服用していない。
なぜ、我が国の服用率が、こんなに低いのだろう。この問題を研究している南相馬市立総合病院の山本佳奈医師は、3つの理由を挙げる。
一つ目は、ピルの承認が遅かったことだ。我が国で低用量ピルが承認されたのは1999年。アメリカに遅れること25年。先進国の中でもっとも遅い承認だった。
二つ目は、ピルを入手するのに、処方箋が必要なことだ。多くの先進国では、ピルはドラッグストアでも入手できる。前出の吉田いづみさんは「ハンガリーでは、初回の入手には処方箋が必要ですが、二回目からは薬局で買えます」という。
海外で安全性が担保され、ドラッグストアで普通に販売されている医薬品が、日本人にだけ危険性が高いとは考えられない。この規制は、早急に見直すべきだ。
三つ目の理由は偏見だ。山本医師は、服用を忘れないようにピルを机の上においていたところ、同僚の男性医師から「コンドームを人目につくところに置いているようなものだ」という抗議があったという。医師でさえ、この程度の認識なのだから、社会的コンセンサスには程遠い。
生理痛対策については、学校教育のレベルからの啓蒙活動が必要だ。メディアもこの問題を取り上げ、大いに社会的な議論を喚起して欲しい。
一方、私たちのタスクは、地道な実証研究を続けることだ。私どもの研究室としては、まずは医療事故・インシデントとの関係を調査したいと考えている。現在、共同研究してくれる方を募集中だ。ご関心のある方は、是非、ご連絡いただきたい。
*本稿は「医療タイムス」での連載を加筆修正したものです。