「大声じゃなくて、私のつぶやき」が世界を変える

大声じゃなくて、女のつぶやき。それが響き合えば、明日の一歩が踏み出せるんじゃないか。

女たちの「私の声」が届けられるような企画にしたい。

いろんな立場の女性にバンバン登場してもらって、ナマの話をしてほしいな。

朝日新聞の大阪本社生活文化部とデザイン部がいっしょになって5年前、新しい企画を始めました。それが女子組です。

漫画・田房永子

私は朝日新聞に入って31年になります。初任地は島根県の松江支局(いまは松江総局)。松江支局では女の記者2代目でした。地元では全国紙もふくめてほかに女の記者はいませんでした。

男女雇用機会均等法施行の年に入社。じゃあ、そこから男女とも働きやすくなったか。幸せに向かっているか。私の娘世代に「ちょっとはよくなったよ」といえる世の中になるよう、少しは力になれたのか。

どうだろう。「はい」と答えられる自信がない…。

いまだに男女の賃金格差はくっきりとあります。厚労省の調査でも、女性は男性の7割の賃金しか得ていません。

共働きが増え、女性がどんどん社会に出ても、男性は家庭の仕事をどんどんしているかといえば、まだまだ。総務省の社会生活基本調査(2011年)をみると、子どものいる共働き世帯で、夫が家事や育児に費やす時間は一日平均39分、なのに妻は4時間53分です。この差は何なのでしょう。男性が家庭のことを自分ごととして思っていないことに加えて、「私が家事をしなくちゃ」と女性がつい思ってしまっていることもあるのではないでしょうか。

それに、夫婦が別の姓を選べる制度も実現できていません。

そんな反省しきりのとき、女性に向けての企画をしないかと上司から話があり、女子組がスタートしました。

大声じゃなくて、女のつぶやき。それが響き合えば、明日の一歩が踏み出せるんじゃないか。

キャリアアップした「成功者」の手柄話はたくさんあるけれど、実感と遠い気がしたのです。日ごろのささいな出来事やささやかな思いの積み重ねが、ひとかけらの勇気をもたらしてくれる気がしました。情けなくなるような失敗もあるけれど、職場でかけられた先輩の一言に救われることも。そんな小さなエピソードや声はきっと共鳴する、もっといい明日へ向かって。そう思ったのです。

夕刊で月3回、女子組のロゴを入れたページをつくって、さまざまなテーマで読者の声を募り、紙面に載せてきました。

そうだ、自分のからだのことって案外知らない。いまさらだけど、忙しく働いていて一番不安に思っているのが「からだのこと」じゃない?

そんな疑問から、女子組の欄のひとつとして「オンナの保健室」を始めました。

この人にアドバイスしてもらいたいなあって思ったのが産婦人科医の宋美玄さん。著書の「女医が教える本当に気持ちのいいセックス」を読んで、すぐにお願いしました。

読者の悩みを募って、それをふまえて宋美玄さんに妊活、ダイエット、便秘と毎回違うテーマで医学的に説明してもらいました。

生理がトピックの回は、みなさんの苦労話がいっぱい。読者のつらいつぶやきが届きました。

生理が2、3カ月ないのはしょっちゅうで、ピルを飲んで周期が安定したという28歳の女性。痛みがひどいと、丸めたバスタオルでおなかや腰を圧迫して寝転んでしのぐそうです。夏もカイロをはって痛みを和らげるので、暑くてふらふらになります。

「もーう、イライラする!と思ったら、生理がくるんです」という大学生。2日目、3日目は痛み止めもきかず、授業を休んで家で泣いていることも。量も突然多くなり、授業が終わったらスカートにしみていて...。これからも続くと思うとさらに憂鬱です。

大学生の声は私の娘です。子宮の病気を疑い、大学病院で検査をしたり、登校できなかったり。宋美玄さんのアドバイスもあり、今は低用量ピルを処方してもらっています。

私も、私も、ある、ある。これらの声の一つひとつが、女たちのからだとの格闘です。

そして、オンナの保健室から新たな展開をしました。

自分のからだを知る1年間を経て、もう一歩踏みこんで、今度はパートナーとのいい関係についてです。セックスレスが増え、44%になったという数字が発表になっていた時期です。

これだ。

それで、「オンナ」から一文字模様替えをし、「オトナの保健室」に生まれ変わりました。

セックスレス、どう思う? あなたはどうですか? シンプルな質問に、投稿が次々寄せられます。投稿してくれた読者に、直接会いにいきました。初めて会う私に、ここまで話してくれるなんて。

バージンで見合い結婚した50歳主婦。産後に間遠になり、42歳のときが最後になった。したくて、レースの下着にしたら、「おまえは変態か」と夫に気持ち悪い目で見られ、ベッドにもぐりこんだら、「ボクはもう店じまい」と。それで、エンド。女の私をどうしたらいいのか。苦しい。助けて。「女を封印して生きていく」といった彼女は、鮮やかなブルーのシフォンのチュニックが似合う美しい人でした。

結婚によって、女性がしばられているんですね。

漫画・田房永子

中絶したことを忘れないという72歳女性。共働きなのに家事、子育ては彼女がすべてやるように。夫から毎晩求められ、くたくたなからだで応じていた。4人目を身ごもったとき、姑の子守りが期待できないから産むなと夫に言われて。あまりの悔しさに中絶後、ぜったい夫にからだを触らせなかった。彼女は落ち着いた雰囲気の人で、淡々と、だけどいまも怒りを秘めた様子で話してくれました。

セックスレスは、その数字の裏に、性差別意識や家事負担とさまざまな問題が隠れているんだと思います。

そして、2016年初頭から話題になった「不倫」。これを去年のテーマにしました。

この投稿の熱さといったら。生々しい投稿がひと月30通ほど来ました。

漫画・田房永子

不倫の彼によって精神的に安定できるという声が多く、一方で、裏切られた苦しみを吐露してくれた方もいました。

47歳の女性は自分の母が不倫していて、思春期に苦しみました。まさかと思っていた夫の不倫が発覚。それは部屋に無造作に落ちていた彼女からの手紙でした...。相手の女性への怒りで殺意さえわいたというその女性は、小柄で美しい人でした。傷は一生癒えないと、ぽつり言われた言葉が重く残りました。

投稿の3分の1が50代、そして40代、60代。中高年の人生のテーマになっているのです。

結婚制度があるから不倫がある。お話をうかがった上野千鶴子さんのひと言に目が覚めました。結婚というもののために、なぜ人々はこんなに苦しむのでしょうか。

漫画・田房永子

「オトナの保健室」はさらに深化を目指し、テーマを「私のセックスはどこから来たのか」としました。自分で気づかない性意識にしばられていないかな。セックスについて自分はどう考えているのか。

性教育以前に、まわりの人や漫画や映画やAVやいろんなものに影響を受けてきたはず。

それって何?読者と考えていきたい。私も一緒に考えたい。

本当に気持ちのいいセックスをして、本当に気持ちのいい関係でいたいから。

漫画・田房永子

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