内戦後のシリア経済:どこへ向かうのか?

生き残りをかけたアサド政権は、国連指導のもとシリア再建への復興支援計画実施の時期だと世界を説得にあたっている。
Yurchello108 via Getty Images

文:モスタファ・シャラシュ

訳:マイサラ・アフィーフィー

内戦はシリア経済を崩壊した。アレッポ、ホムス、デルゾールという主要都市が広範囲に破壊され、首都のダマスカスの主なライフラインや政府機関が被害を受けたことによりシリア経済ほぼ停滞し悲惨な参事が起きている。数10万人の被害者に加え、人口の約4分の1が家から追われ海外へ避難し、隣国の諸国に550万人、ヨーロッパに100万人のシリア避難民 が滞在していると思われる。それ以外にもシリア国内に600万人が自宅から避難していると思われる。国内にとどまっている住民の3分の1が、生活を立てるために海外の支援が必要としている。

現在行われている内戦の間では、以前と違う経済体系が構築された。腐敗した体系やアサド家を優遇される要素は依然として消えてはいないが、政府機関と民間企業の政治的なパートナーシップという形が、2011年の前のシリア経済の特色であった。シリア市場での投資は非常に難しかった。海外の企業は地元のパートナーと一緒に働かなければならないのだが、そのパートナーは必ず支配層の少数派か、軍事機関のとっちかで、関係機関に賄賂を配ったり、同業の競争者を脅迫するのは主な任務を負う。

バシャール・アサド大統領の従兄弟であるラーミ・マフルーフ氏が2000年に政権を握る以降のアサドジュニアの経済の特徴を表している。つまり、シリア経済の自由化と称して残されていた社会主義側面を骨抜きにし、官業を解体した上で掌握するという内容だ。

そして、内戦以前の経済の残骸からなっている並行の戦争経済では、経済界の一握りのビジネスマンたちが前よりもっと凶悪になり、影響力をもっと拡大した。旧体制が変わり、あるいは正確に崩れ、不法で富を得た富豪層の新しいネットワークに歩調する新経済体制が構築されなければならなかった。ビジネスマンたちは、海外から支援を受けている反体制グループ、ジハーディストグループ、クルド系の武装グループなどに自分の影響力を拡大していった。

不特定期間はシリアが分断に苦しみ続けるかもしれないが、内戦は収束に向かっているようだ。なぜなら、バシャール・アサド政権は、民間革命グループや政権交代担うグループから、脅威を受けることはなくなったからだ。そのかわり、今は力が激減しつつあるバラバラの武装組織と戦っているだけになった。そして、そのような紛争を阻止するための米露協定があり、アサド政権部隊とクルド系の武装グループとの間の紛争が全面戦争に発展する可能性が遠くなった。

それらの要点を踏まえて内戦後のシリア経済がどういう形になるかについて考察する必要がある。

内戦中の経済

まずは内戦中の経済について触れてみたいと思う。アサド警察国家の下行われた2011年以前の経済よりも、血縁寡頭制が強くなり、政権系の仲介役や商業者が、激しい且つ遠慮ない競争をシリア全土で繰り広げられている。その新寡頭制が内戦中、利益の再配分の決定により、武装扮装そのものにおける分裂や地域的な分断に多大な役割を果たしている。

シリアの経済の輪や法的なネットワークが大きく変わり、政治的に管理された様々なグループが生まれ、政権、反体制派、ジハーディストグループという戦争相手の間に、経済的な取引の決済がスムースに行われるための仲介役を果たし、どれに対して中立的な立場を保ち、そのネットワークの役割を担うようになった。一方、ビジネスマンたちやシリア国内に武器や戦士の密輸者たちは、この新しく構築されつつある経済の部分が、一つのシステムに生まれ変わるように、腐敗や汚職が絶え間なく血管に注がれる包囲的なネットワークを創出した。

そのため、2011年以前のアサド政権の軍事的な且つ警察的な規範に従順された供給と需要の基づくマーケットにおいてのビジネス環境ではなく、国家のいわゆる『社会主義官僚制度』の法律ですらなく、彼らは戦争商人でもなくむしろ戦争管理人となった。彼らは、言わば流動的な動力と計画力を駆使した寡頭制を作り、シリア人の血の付加価値を創出し、終わりのない利益を上げるためにシリア全土に暴力をばらまいている。

ダマスカスに滞在し、アサド大統領とシリアにおけるロシアの経済利害に近いジョージ・ハスワーニ氏というビジネスマンは、そのシリア経済の新しいやり方の好例だ。ハスワーニ氏は、シリア西部と中部に位置する国営発電所が稼働できるように、シリアの東部から石油やガスが継続的に流入されることを確保するために反体制派やジハーディストグループと秘密な取引を結んだ。ハスワーニ氏は、政府系部隊と『イスラム国』の間に戦闘が続いている地域にもかかわらず、シリア東部周辺に位置するガスステーションに辿り着くために、『イスラム国』に月額5万米ドルを払っていたと報道されている。

ヨーロッパの政治家たちが、シリア東部での石油取引の実態がアサド大統領と『イスラム国』との経済的良好な関係の証拠として指摘していたが、その指摘は正しいが、『イスラム国』と協力したのはアサド政権だけではない。反体制派やクルド人勢力や外国の主要国でさえも、『イスラム国』が殆ど支配下に置かれたシリアの石油を購入していた。

ラッカ県北部に中東最大かつ最新のセメント工場を保有するフランスの大手企業ラフージュ社も同様のことを行い、『イスラム国』やアルヌスラ戦線などのシリア武装組織に数百万ドルを支払ったといわれている。それが、シリアの新しい戦争経済の実態に脚光を浴びさせ、不正当な日和見主義的な投資の巨大なネットワークからなっている新しいシステムの構造を示している。

シリアのエネルギー市場に参加しているある投資家は、『フィナンシャル・タイムズ紙』に『イスラム国』との経済関係について、「影響力を拡大するための戦術的な策略だと考えて良い。20世紀の20年代にシカゴで行われた交渉と同じだ。人間は取引を得るために戦って殺し合いをする。しかし、それだけでは取引は成立しないのだ」とコメントをしている。そうかもしれない。このコメントは、戦争下の経済の成り行きを説明するかも知れない。政権奪還を目指す各グループがお互いに殺し合いしながら、資源や利益では協力し合っているのだ。

内戦後は...

アサド政権は、現在生き残りをかけて、国連指導の下でシリアを再建する復興支援計画を実施する時期だと世界を説得に当たっている。シリア問題担当国連アラブ連盟共同特別代表のスタファン・デ・ミストゥラは、シリアを再建する復興は2500億ドル(約30兆円)がかかると公表したが、一方シリア政府は、4000億ドル(約45兆円)がかかると言っている。期間についてはアメリカ政府関係者は15年間がかかるという。要するにシリア政府が自分だけでこのような巨大な任務を果たすのは不可能である。特に2018年度のシリア政府予算は70億ドル(7800億円)と推定されると考えるとなおさらだ。

シリア全土の最近の展開は、つまりロシアやイランの支援を背後にシリア政権が軍事的に優越していることは、『イスラム国』の戦士たちやアルカイダ系の戦士がシリア・レバノン国境付近から追放され、シリア南部でロシア、アメリカ、ヨルダンとの間に協力の協定が結ばれたこともあり、世界にダマスカスと貿易関係がもう一度再開することが可能ということをアピールした。この展開と同時にシリア隣国は将来に見越したシリア復興計画を睨み、様々なステップを踏み出した。その中、ヨルダンは、2018年7月30日に、シリア復興と開発展示会を開き、その直後に数年前から閉鎖されていたナシーブ・ジャーベル国境検問所を再開した。

このようなシリア復興計画を有効に活用しようとする傾向においては、シリア隣国の範囲を超えてる。去年9月に、ダマスカス国際展示会が6年ぶりに開催され、イギリス、フランス、ドイツなど、48か国から1700の企業が参加した。シリアは確実に内戦後の段階に移行していることと、新しい雇用市場の創出や投資や復興を約束されいるという積極的な印象を与えている。

その中、レバノンの農業相と産業相と交通相の3大臣がダマスカスを訪れ、貿易のパートナーシップの再開と農作物の貿易を話し合った。話し合いの中、以前レバノン北部のトリポリからシリア中部の西にあるホムスまで結んだ鉄道を再開通する提案が盛り込まれた。されにレバノンは現在、トリポリ港にて建設材料の大幅需要を収容能力できるように増築工事を行っている。シリアの復興事業はレバノンにとっても経済を活性化する重要な機会のようだ。

アサド大統領も、友好の諸国と呼ばれた42か国にシリアの復興事業に呼びかけている。その中ロシアは、石油と建設の分野で投資契約を得て、自由貿易の協定を結んだ。イランは携帯電話のネットワークを運営し、インドはいくつかの病院の再建と修繕を行い、中国はとチェコとキプロスはインフラ整備の事業に貢献する。ベラルーシは自動車工場を作る。

ところがシリアを再建するにはそれだけでは足りない。先ずは難民がシリアに戻れるために必要最低限の生活基準を提供することだ。それができるために、アサド大統領は国連の助けが必要だ。彼を支援している相手は従来支援が乏しい国、あるいは元々経済が弱い国、あるいはその両方だと知られている。そのために、有効な復興事業が実施できるため、アメリカ、ヨーロッパ連合の諸国、ノールウェー、スイス、日本、カナダ、アラブの産油国など裕福な国から支援を獲得する必要があるが、いずれもアサドの退陣を求める国々である。

ところが、長年アサド退陣の要求され続けた末、数多くの欧州諸国が再びダマスカスとは少なても外交的に関係の再開を望んでいるようだ。シリア政府に近い筋が欧州の数か国がこの数か月の間にシリア政府とのつながりを設けたと話した。ベイルートにいるヨーロッパのある外交官は、「例を挙げるとドイツだ。ドイツは、最低でも2015年からシリア政府と諜報的なつながりや治安的なつながりを持っている」と話す。

不安と疑惑

アラブ諸国と世界の各国がシリア復興支援会議に参加することはシリア政権がその経済に建て直しや復興事業に真剣に取り込むという保証にならない。シリア政府は、2012年に内戦で破壊されたものを復興することと無関係な法案を可決し、支配層が主な利益を獲得できるようにした。2015年5月にアサド大統領は、政府の各省庁が専属の投資会社を設立できるための大統領決定を発行した。2016年にアサド大統領は、官民のパートナーシップや民間企業が国家の資産を運営管理するため各省庁と取引が可能とする法律を承認した。

それらの法律整備が復興戦略の一環として、報道されているが、アサド側近の地元のビジネスマンたちが既に10億ドルの建設事業の契約をシリア政府と結んだ。ところが、それらの契約は復興事業と関係はなく、2012年に発行された大統領決定第66号に基づき、没収された土地の数多くの開発事業は計画されいる。その大統領決定は政府がスラムの住宅街を高級マンションやモダンビラやショッピングモールなどの再開発を可能とした。

この状況について、シリア政府の元幹部は、「シリアの復興事業によって1000人のハリリが産まれるだろう」と語っている。レバノンのハリリ元首相がレバノン内戦後ベイルート中心部の土地をたくさん購入し、タワーや高級な建物に再開発にしたことを指している。

シリアは収奪による蓄積という政策を行う時期かもしれない。収奪による蓄積というのは、デヴィッド・ハーヴェイ氏がマルキシズムの思想と地理学の混合によって創出したコンセプトで、政府が資本主義の代表者として実態のない資本を作り、貧乏層から自宅や土地を収奪し、復興や開発の口実で裕福な層を置き換えることで価値を生み出したと装うことだ。このプロセスは人間居住科学者は下層住宅地の高級化と表現している。

不安定な終結

内戦中とその後、腐敗が武装したプレーヤーとビジネスマンの巨大な多頭獣になり、戦場を跨る商売や取引などが継続する必要性は、闘争する相手の間に調整する戦争商人や仲介役を生むことになった。事態が鎮静すると、その悪党どもと血縁関係の寡頭制の人たちは、シリア国内に向かい、社会層を再編し、最大限の利益を獲得しようとするであろう。元々アサド支持者が支配する国であるため、金銭的な利益を得るための悪徳なプロジェクトを経済的なネットワークを運営するだろう。

その政権は、本当に国内外に離散している数百万人の難民が必要とするニーズを反映し、中立性且つ信憑性を以て復興事業を運営できるのかという疑問が残されている。暴虐的な政権は、腐敗や浪費や無能力を最小限に抑え、復興事業を集中できるような経済政策や方針を実行できるものか?

シリア国民は内戦後の試練で自宅を再建できるのか?あるいはアサド政権は自分の足場を固めるために、海外の有力なパートナーに賄賂として、デザインが弱く作りが悪いダミープロジェクトの形で支援を鵜呑みにするのか?日々が答えをそのうち教えてくれるであろう。

この記事は、下記のアラビア語のサイトに初出し、日本語への翻訳は著者から許可を得ている。

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