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ニッポンハムの中古トラックで中国の朝鮮族が白菜を運んでくる。在樺コリアンがそれを買ってキムチを漬ける。ここロシアの北朝鮮国営レストランでは北朝鮮人ウェイトレスが色鮮やかな民族衣装を身にまといギターを弾いている。客はキムチに箸をのばす。
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■日本とロシアの間で
村上春樹はチェーホフを通じてサハリンに関心を寄せた。村上春樹の本の中にはサハリンの朝鮮人が何度か出てくる。彼が『風の歌を聴け』で1979年に群像新人文学賞をとる10年前の1969年、李恢成が『またふたたびの道』で群像新人文学賞をとった。李恢成は後に『砧をうつ女』で芥川賞作家となった。彼の『サハリンへの旅』を読んでサハリンを訪れた私は、日本とロシアの間にあるものは何だろうと考えてみた。
■鍵を握るサハリン州
プーチン大統領の訪日が近づいている。アメリカでトランプ氏が勝ち、韓国で朴槿恵大統領をめぐって国が揺れている。そんな中で山口県で行われる日露会談はどんな意味を持つのだろうか。
択捉、国後、色丹、歯舞。これらの島々の今後の帰属が議論される見通しだ。日本で「北方領土」と呼ぶこの地域は、ロシアの「サハリン州」に属する。サハリンとは、宗谷海峡を挟んで北海道の43キロ先にある島だ。戦前は日本領で「樺太」と呼ばれ、多くの日本人が住み、また朝鮮人もたくさん労働していた。
■東北アジアのコリアンという視点
戦後、樺太の日本人は北海道へと引き上げたが、朝鮮人は棄民され、朝鮮戦争によって帰る場所を失い、島にとどまる運命を歩んだ。その結果、サハリンには今も数万人のコリアンが暮らしている。彼らを「在樺コリアン」という呼び方がある。
日本とロシアの間には今、5つのコリアンがいる。在樺コリアン。中国朝鮮族。北朝鮮人、韓国人、在日コリアン。東南アジアの華僑さながら、東北アジアにはコリアンがいる。安倍首相とプーチン大統領が見据える今後の日露関係は私たちコリアンにとっても新しい歴史の始まりとなりそうである。
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