=====北朝鮮が主張する6・25戦争(朝鮮戦争)
6月25日は、66年前、朝鮮半島が戦争の惨禍に巻き込まれ、同族が相争う悲劇をもたらした悲惨な日である。
北朝鮮は6・25戦争を「共和国(北朝鮮)を抹殺しようとする米帝と南朝鮮傀儡徒党が計画的に準備して引き起こした侵略戦争」と規定し、毎年6月25日から休戦協定日である7月27日までを「6・25米帝反対闘争の日」と記念して韓国や米国を非難する行事を行い、北朝鮮住民の米国と韓国政権に対する復讐心と体制への忠誠心を高めている。
反米糾弾大会で労働者や学生、主婦まで集めて反米スローガンを唱えるのが定番の1つである。
【6・25戦争勃発後、避難中の人々(韓国「国家記録院」公開資料より)】
=====教育現場でも
北朝鮮では小学校から大学に至るまで「金日成(キム・イルソン)革命歴史」を正規科目とし、時間と場所を問わず暗記させて洗脳しているが、中でも6・25戦争の部分は非常に大事にされている。
北朝鮮の教科書や宣伝物は、1950年6月25日未明5時に戦争が勃発すると金日成が「すべての力を戦争の勝利のために」という放送演説を行い、北朝鮮住民を団結させて素早く戦時体制を整え、迅速に対応することにより、戦争開始から3日目の6月28日にソウルを占領したほか、1週間にしてソウルを完全に解放させて、植民統治から独立(1945年)した以降北朝鮮が実施した土地改革などの民主改革を実施、南朝鮮住民の絶対的な支持を受けたと宣伝した。
その内容については私も子供の頃に飽きるほど暗唱したため、今でも機械のようにすらすら話せるほどだ。
=====芸術を動員した扇動・宣伝
北朝鮮は戦争の過程を描く映画や小説、詩、歌謡、ミュージカルなど各種の芸術作品を活用して人々を扇動するほか、読書発表会、戦争博物館の見学、参戦者との交流会など色々なイベントを通じて、6・25戦争が金日成の偉大な業績であると宣伝した。
映画好きだった金正日(キム・ジョンイル)が本格的に政治に関わりはじめてからは、戦争に関する映画ストーリーを作り上げプロパガンダに活用した。金正日は生前に『紅葉』、『名もなき英雄たち』といった6・25戦争に関する映画の制作にも直接関与するなど、芸術作品を用いて6・25戦争の真実を北朝鮮に有利な内容に歪曲することに積極的だった。
北朝鮮は戦争勃発の主体についてこのような主張までしていた。
「1950年6月25日は日曜日であるが、米国と韓国はキリスト教を信じている国家であり、聖書の教理にのっとって日曜日には絶対に戦争を起こさないというのが世の中の常識となっている。韓国と米国はこの常識を逆利用して"キリスト教を信じない共産主義者が戦争を起こした"と主張するつもりでわざわざ日曜日早朝に戦争を起こした」
昔見た『紅葉』という北朝鮮のプロパガンダ映画も戦争勃発の過程を描写しているが、前述の内容を大きく取り上げていた。しかし、これはかえって、戦争挑発の責任を韓国になすりつけようとする北朝鮮の腹黒な意図を証明していると私は思う。
【北朝鮮映画『紅葉』場面写真。韓国側が先に北朝鮮を攻撃したかのように描写している(YouTubeより)】
=====真実に目覚める
韓国に渡ってきて知ったが、1994年に公開された旧ソ連の極秘文書(1994年ロシアを訪問した韓国の金泳三大統領にエリツィン大統領が引き渡した旧ソ連の公文書。6・25戦争前後のソ連と北朝鮮間の電文や会議記録などが含まれ、金日成がスターリンと毛沢東より韓国侵略の承認を受け侵略時期について協議した事実が判明した)を通じて明らかになったように、6・25戦争は北朝鮮がソ連、中国と事前に謀議して起こしたというのが最も客観的な事実だった。
そして、その裏には、1946年9月7日の「精版社偽札事件」(朝鮮精版社の社長など朝鮮共産党員7人が韓国に共産党政権を立てるため、党資金調達及び韓国経済の撹乱を目的に偽造紙幣を発行した事件)以降、共産党に対する米軍政の牽制が強まった影響で急いで越北した朴憲永(パク・ホニョン、当時、朝鮮共産党の総書記)が金日成に南侵をあおった事実があった。
越北した朴憲永が金日成に「韓国で活動している南労党(南朝鮮労働党、精版社事件以後、萎縮した韓国内の共産党勢力を再整備するため、1946年に結党)の党員らが金日成の朝鮮人民軍を待ちわびており、もし朝鮮人民軍がソウルに進入すれば、水面下で活動しながら待機していた20万人の南労党員が加勢し、韓国を共産化することができると豪語したのだ。
その話を信じ込んだ金日成は、朴憲永を連れてスターリンと毛沢東に会いに行って、戦争の承認を求めた。スターリンと毛沢東の積極的な支持と援助を得た金日成は、1950年6月25日韓国を侵略した。
要するに、6・25戦争は朴憲永に大ぼらを吹かれた金日成がスターリンと毛沢東の支援を受けて起こした朝鮮半島共産化戦争であり、赤化統一戦争であった。この戦争で韓国を守り抜くことに失敗していたら、今の自由民主主義の大韓民国は存在しないだろう。
私は脱北するまでの数十年間、6・25戦争について事実とは正反対の内容に洗脳されていた。韓国に来て様々な資料を自由に読んでいくうちに知らされた真実は、鳥肌が立つほど衝撃だった。また、北朝鮮の洗脳教育と扇動によって間違って知っていることが、この他にどれだけあるだろうかと考えると腹が立った。それから、さらに本を読んで勉強をしようと頑張った。
遅いとは言え、私は真実を知ることができた。
しかし、今も6・25戦争を韓国と米国による「北侵」と信じて、韓国と米国を呪うプロパガンダにあおられている北朝鮮住民のことを考えると大変もどかしい。3年余りの長い戦争の間、彼らの家族や仲間が強いられた苦痛と犠牲が、実は彼らが仰いでいる金日成によって始まったという事実に気づいたら、どんな気持ちになるだろうか。
イ・エラン 韓国・自由統一文化院 院長、1997年脱北